選書
選書が如何に大切か。
それは、実際に体験した方がその大切さに気付くことができる。
「あの最新刊って、入らないんですか?」
「文学がもっとあったら嬉しいです」
図書室を利用してくれる学生。
学園長によれば、前任の司書の先生が退職されてから、利用数が増えたとのこと。
それでも、休み時間には数人がちらっと訪れるだけ。
日本の小学生もびっくりの、利用数の少なさだった。
そんな中で言われた、本を惜しむ声。
あの言葉は、私に向かって言われたものだった。
フィスロは、一応聖女補佐官でもあるから、図書室利用者がいるときは奥に引っ込んでいる。
でも、その声は聞こえたみたい。
学生がいなくなってから、ちらりと姿を現した。
「今のって、選書になるものですか?」
「そうだね」
読みたいもの、入れて欲しいもの。
それらすべて叶えることはできないけど、学生たちが読みたい本はなるべく入れてあげたい。
図書室は、学生たちの利用があってこそ成り立つものだからね。
「僕は、どうしたらいいんですか?」
フィスロが途方に暮れたような顔をした。
無理もない、私が司書教諭になりたいって言ったから、フィスロも図書室業務に関わることになっちゃったんだもん。
なら、私がサポートしてあげるべきだ。
ほったらかしは良くないから。
「フィスロ。お願いがある」
「ん? なんです?」
「今日のお昼に、たぶん荷物が届くはずなんだ。それを運んで欲しいの」
とっておきの物が入っている荷物。
それを楽しみにしていたのだ!
「……それって、重いですか?」
は?
フィスロの急な問いかけに、私は舞い上がっていた心が一旦停止する。
重いかどうか、だって?
「そりゃ重いよ」
「僕、重いの苦手です」
あっそうですか。
*
「お、重い……」
「ほらほら、がんばって」
届いた荷物は、大きな木箱。
一生懸命運んでくれるフィスロに、私は声援を送る。
「聖女の力で持ち上げたりできなかったんですか?」
「……確かに。その可能性を忘れてた」
「スイ様ぁ!」
まぁ、図書室まで運べたことだし。
結果オーライってことで。
泣きべそをかいているフィスロを放っておいて、私はさっさと箱を開ける。
その中身は。
「これは……」
「この前、本屋の店主さんに頼んでた本だよ。地域学習のための本たち」
そう。この前の地域学習の本たちだ。
店主さんにピックアップしてもらって、それを一旦すべて送って貰ったのだ。
で、ここからが勝負。
内容を見て、この図書室にふさわしいものを選ぶんだ。
つまり、選書だ。
「私はこの国の本がまだ分かってないからね。とりあえず全部送って貰ったの。店主さんが選んだ本たち、全部をね」
「ここから選ぶんですか?」
「そう。この中から選んで、図書室に入れたい本を決めるの」
これもまた、選書。
もともと選ばれている本たちを、もっと細かく見ていく。
その図書室に合う本を選ぶために。
「たくさんの本がある中から選ぶよりも、こうしてジャンルが決まっていて数が限られている方がやりやすいでしょ。ほら、やってみて」
フィスロの背中を押せば、彼は木箱の傍にしゃがみ込んだ。
中を覗き込んで、本を吟味する。
「あれ、スイ様」
「なに?」
「これ、おすすめです」
箱から出てきたのは、この国の歴史と文化について書かれている本だった。
フィスロ、やるね!
こういうの読みたかったんだ!
「ありがとう、フィスロ!」
「いえいえ。お役に立てられてのであれば」
そう言って、フィスロは微笑む。
その笑みは、何かを訴えているよう。
下がった目尻も、上がった口角も、そのまま美しい比率で保たれ続ける。
……なるほど。
「お礼に選書手伝って、じゃないよ。がんばってやってみなね」
「そんなぁ!」
当たりだったみたい。
どうやら、この数の本を確認するのは嫌らしい。
まぁ、やる気が失せる量なのは分かるけど。
「スイ様は酷いです!」
「知らない、知らない。がんばれ」
「……今度、国で一番大きな本屋に連れて行って差し上げます」
なんだって?
「わ、私は釣られないからね?」
「5冊まででしたら、このフィスロが買って差し上げます」
「……ノッた」
悔しい! フィスロに負けた!
でも、本をエサにされたら弱いのだ!
「私の扱い、慣れすぎじゃない?」
「気のせいですよ」
気のせいじゃないと思うけどね。




