街の本屋さん
「店主さん。私の図書室に本を入れてくれませんか?」
街で出会った、聖女ヲタクの本屋の店主さん。
自分の本棚をアレンジして楽しんでいる姿に、私は親しみを持った。
そして、この提案をしてみることにした。
「本を? 聖女様の図書室に?」
「えぇ。魔法学園の学生たちは、なかなか図書室を利用しなくて。だから、選書の方もじっくりとやっていきたいなぁと。どうです?」
「……大手本屋でなくてもいいのか?」
国には、もちろん大きな本屋がある。
そっちの本屋さんは、本の数が豊富で店内は広い。
比べると、様々なところにおいて異なることが多くある。
だから、店主さんは「大手本屋でなくていいのか」と聞いてきたのだろう。
もちろん! 店主さんに頼みたい!
どんなに本の数な大手本屋よりも、きっとこっちの本屋さんの本の方が愛されている。
店主さんが大切に扱っているからこそ、ここの本たちは煌めているのだ。
「おじいさんのところから本を入れたいです。おじいさんは、本を愛して大切に扱っているように見えるから」
「嬉しいのう」
おじいさんは、ふんわりと微笑んだ。
「分かった、本を入れよう。こんな機会は滅多にないからな」
「ありがとうございます!」
やった、大成功!
これで、選書した本を入れてくれるところを確保だ!
安心したところで、そうだと思い出す。
そうだそうだ、お願いしたいこともあったんだよね。
「こちらが決めた本以外にも、店主さんが入れたいって思った本がありましたら、リストアップして欲しいです」
「入れたい本? 自由にか?」
「いえ。この国に関する本とか、地域の継承していくべき文化とかが書かれた本です。後世に残しておきたい本って感じですね」
学生時代、散々考えた『地域教育』の学習。
地域の人々と協力して、児童生徒の学習を深めていくこと。
学校という社会以外にも目を向けて、学習の幅を広げてくこと。
それを、この国でもやってみたいんだ。
「分かった。任せなさい」
私の熱意が伝わったのか、おじいさんはにっこり笑顔になった。
これで、私の理想の図書室が一歩前に進んだ。
*
「チイキガクシュウって、なんです?」
本屋さんを出て、露店を楽しむ。
1つの露店でクレープを買い、噴水前のベンチに座って頬張っていると。
フルーツがゴロッと入った紅茶を飲みながら、フィスロが聞いてきた。
「地域学習ね。地域の人たちと連携して、子どもたちの学習をサポートしていくのよ」
「地域の人たちと協力……。スイ様の国では、学校の者以外とも学習を共にするんですか?」
「うん。だって、学校だけじゃ学びが限られてるもん」
例えば、日本の昔の遊び。
学校では、本やインターネットで調べることができる。でも、それは実践することができない。
だから、地域の方の力を借りる。
昔の遊びを知っている人、遊び方を教えられる人。
そんな人たちが集まって、子どもたちの学びを深めてくれる。
だから、地域学習は大切なのだ。
「なるほど。確かに、貴族学校では習いませんでしたね」
「学校と関係ない人と学習するって、そんな簡単に発想できるものじゃないよ」
でも、私の小学校時代にはもうそのような学習があった。
きっと、早くから地域の重要性について見抜いていたのだろう。
「おもしろいですね」
フルーツティーの中にある、燦々とした太陽色のオレンジ。
それをツンツンと突きながら、フィスロは笑みを浮かべた。
「そんな教育方法があるなんて。聖女様らしく、広く見聞がおありなんですね」
「聖女じゃないよ、司書教諭です」
それだけは譲れない!
私は、司書教諭だ!
「スイ様。なんか授業できそうですね」
ふと、フィスロが言った。
食べ終えたクレープの包み紙を、そっと回収してくれる。
ありがとう。
「えぇ?」
「地域学習とか、おもしろそうだなって。もしスイ様が授業を行うのでしたら、僕も参加しますね」
「その年齢で?」
「大丈夫です。変装には自信があります」
「自信は持たなくていいのよ」
フィスロが生徒としている授業?
そんなの、フィスロにずっと突っ込まれる未来が見えるよ。
だから、お断りです!
他にも、綺麗な景色が見える場所や雑貨屋さんにも行った。
王子会長がお土産をご所望していたので、焼き菓子のセットを買う。
「スイ様は、他に何か買われないのですか?」
「え、買っていいの?」
「……本は、3冊までです」
「そんなぁ!」
聖女殿の部屋の本棚は、もう満員御礼だ。
そのため、本を大量に買おうという目論見は儚く散ったのだった。
図書室の整備しながら、聖女殿も改造してやるんだ!




