目録作り
図書室を新たに開館してから、3日が経った。
利用する学生が少しずつ増え始めたけど、学園の規模にしては少ない気がする。
図書室をもっと利用してもらうために、イベントとか考えないとね。
とりあえず整頓した、司書用のカウンター。
貸出手続きなどができるところと、色々な作業ができるところ。
それぞれに椅子を用意して、私とフィスロが座れるように整えた。
私は、本棚から何冊か抜いてきた本を、どっさりと置く。
「進捗はどう?」
「……僕の行く道は、どこもかしこも真っ暗な闇です」
「なるほど。全然終わらないって訳ね」
一昨日から初めた、目録の作成。
本を一冊ずつ用意して、目録を作る上で必要な情報を集める。
そして、一枚のカードに記して貼るのだ。
ここまでが、一冊の本に対する作業。
この作業×蔵書数を、今から2人で行うのだ。
「スイ様の国では、これが当たり前だったんですか?」
やる気がゼロになったらしいフィスロは、ぐでーんとカウンターに突っ伏す。
溶け切ったバターみたいで何だかおもしろい。
そのバター……じゃなくてフィスロは、私の方へちらりと目を向けてきた。
「まぁ、おおかたはね。手書きじゃないから、やろうと思えば今よりも楽に作れるんだよ」
「手書きではない!? どんな方法ですか、それ!」
いきなり元気になったフィスロが、効果音が付きそうな勢いで体を起こす。
目をきらきらと輝かせて、私を見つめてくる。
あぁ、がんばってくれてるんだね。
でも、そんなフィスロに残念なお知らせ。
この世界に、コンピューターシステムはありません~。
文明の利器って、本当にすごいんだなぁ。
「この世界じゃ、地道にやっていくしか方法はないよ」
「そんなぁ」
目録作りは、なかなかに大変だ。
*
「スイ様の国の図書室は、随分と発展していたのですね」
司書カウンターの後ろには、扉がある。
そこを開けると、司書が作業する部屋に繋がっていた。
その部屋の隅には、給湯室がある。
部屋に応接セットも置いてあるため、私とフィスロはいつもそこで休憩をしていた。
「色々なシステムがあったからね。ここよりは発展してるように見えるんじゃないかな」
蔵書検索システムに、資料印刷用のコピー機。
レファレンスサービスが充実しているところもある。
それは、人間が作り出した文明の利器。
この世界にはない、特別なものだ。
今日の3時のお茶は、ミルクティーだ。
リンちゃん特製のフルーツパイは、本当に美味しい。
もぐもぐと食べていれば、ふとフィスロが微笑んでいることに気が付いた。
「どうしたの?」
「いえ。スイ様は食が細いのに、甘いものはよくお食べになられるなぁと」
「甘いものは別腹なの」
甘いものは正義である。
こんなに美味しいスイーツを、お腹いっぱい食べられるなんて最高だ。
ちょっぴり和菓子が懐かしいけど、リンちゃんのお菓子は美味しいから問題はなし!
「目録作り、飽きたね」
「お先真っ暗ですよ、本当に」
「こういう作業は好きだけどさ、手が疲れてきちゃう」
書きやすいボールペンとか、指にタコができないように配慮されたペンとか。
そんなものは一切ない。
あるとしたら、羽ペンが万年筆だ。
素材が固いから、ずっと使っていると指が痛くなる。
打開案はある。
それは、自分の指に回復魔法をかけることだ。
痛みがすっと和らぎ、まだ書けるような気分になる。
しかし、次に訪れるのは『飽き』だ。
同じ内容のことを繰り返しているから、すぐに飽きてしまう。
さすがの私でも、少し本と距離を置きたいと思ってしまったのだ。
「少し、お出かけでもします?」
紅茶のカップを置いたフィスロ。
エメラルドグリーンの瞳を細めて、私を見る。
「明日は、聖女としてのお仕事があるので」
「えぇ、嫌だよ。私の仕事は司書教諭なんだから」
一応聖女ではあるけど。
大好きな仕事を放り出すのは、なんだか気が乗らなかった。
そんな私を見たフィスロが、くすっと笑った。
相変わらずのイケメンスマイル。
しかし、その目は鋭い光を宿していた。
「聖女の仕事は、街の視察ですよ」
「……なるほど。視察と銘打って出かけようっていう魂胆ね」
「魂胆とは、お酷い。名案と仰ってください」
つまり。
聖女としての街の視察、という仕事を聖女補佐官が入れる。
そうすれば、司書教諭の仕事は休み。
これで堂々とサボれることができる。
……フィスロ、さてはサボりの経験者だな。
「決定ですね。明日一日、羽を伸ばしましょうね」
フィスロは穏やかな笑みを浮かべた。
その顔は、どこか嬉しそう。
久しぶりの休みに心が躍っているのか、それとも街に出るのが嬉しいのか。
まぁ、どっちもだろうな。
聖女補佐官なんて、年中無休のようなもの。
フィスロは貴族っぽいから、街に出ること自体が珍しいのかもしれない。
そう考えると、明日は大事に使うべきだ。
せっかくの休み(サボり)なんだから、有効に使わないとね。
「楽しみかも」
「えぇ、僕もです」
私とフィスロは、顔を見合わせて笑ったのだった。
次回はちょっとデートみたいになるかもしれません




