表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/70

目録作り

 図書室を新たに開館してから、3日が経った。

 利用する学生が少しずつ増え始めたけど、学園の規模にしては少ない気がする。

 

 図書室をもっと利用してもらうために、イベントとか考えないとね。


 とりあえず整頓した、司書用のカウンター。

 貸出手続きなどができるところと、色々な作業ができるところ。

 それぞれに椅子を用意して、私とフィスロが座れるように整えた。

 私は、本棚から何冊か抜いてきた本を、どっさりと置く。


「進捗はどう?」

「……僕の行く道は、どこもかしこも真っ暗な闇です」

「なるほど。全然終わらないって訳ね」


 一昨日から初めた、目録の作成。

 本を一冊ずつ用意して、目録を作る上で必要な情報を集める。

 そして、一枚のカードに記して貼るのだ。

 ここまでが、一冊の本に対する作業。

 この作業×蔵書数を、今から2人で行うのだ。


「スイ様の国では、これが当たり前だったんですか?」


 やる気がゼロになったらしいフィスロは、ぐでーんとカウンターに突っ伏す。

 溶け切ったバターみたいで何だかおもしろい。

 そのバター……じゃなくてフィスロは、私の方へちらりと目を向けてきた。


「まぁ、おおかたはね。手書きじゃないから、やろうと思えば今よりも楽に作れるんだよ」

「手書きではない!? どんな方法ですか、それ!」


 いきなり元気になったフィスロが、効果音が付きそうな勢いで体を起こす。

 目をきらきらと輝かせて、私を見つめてくる。

 あぁ、がんばってくれてるんだね。


 でも、そんなフィスロに残念なお知らせ。

 この世界に、コンピューターシステムはありません~。

 文明の利器って、本当にすごいんだなぁ。


「この世界じゃ、地道にやっていくしか方法はないよ」

「そんなぁ」


 目録作りは、なかなかに大変だ。





「スイ様の国の図書室は、随分と発展していたのですね」


 司書カウンターの後ろには、扉がある。

 そこを開けると、司書が作業する部屋に繋がっていた。

 その部屋の隅には、給湯室がある。

 部屋に応接セットも置いてあるため、私とフィスロはいつもそこで休憩をしていた。


「色々なシステムがあったからね。ここよりは発展してるように見えるんじゃないかな」


 蔵書検索システムに、資料印刷用のコピー機。

 レファレンスサービスが充実しているところもある。

 それは、人間が作り出した文明の利器。

 この世界にはない、特別なものだ。


 今日の3時のお茶は、ミルクティーだ。

 リンちゃん特製のフルーツパイは、本当に美味しい。

 もぐもぐと食べていれば、ふとフィスロが微笑んでいることに気が付いた。


「どうしたの?」

「いえ。スイ様は食が細いのに、甘いものはよくお食べになられるなぁと」

「甘いものは別腹なの」


 甘いものは正義である。

 こんなに美味しいスイーツを、お腹いっぱい食べられるなんて最高だ。

 ちょっぴり和菓子が懐かしいけど、リンちゃんのお菓子は美味しいから問題はなし!


「目録作り、飽きたね」

「お先真っ暗ですよ、本当に」

「こういう作業は好きだけどさ、手が疲れてきちゃう」


 書きやすいボールペンとか、指にタコができないように配慮されたペンとか。

 そんなものは一切ない。

 あるとしたら、羽ペンが万年筆だ。

 素材が固いから、ずっと使っていると指が痛くなる。


 打開案はある。

 それは、自分の指に回復魔法をかけることだ。

 痛みがすっと和らぎ、まだ書けるような気分になる。

 しかし、次に訪れるのは『飽き』だ。

 同じ内容のことを繰り返しているから、すぐに飽きてしまう。

 さすがの私でも、少し本と距離を置きたいと思ってしまったのだ。


「少し、お出かけでもします?」


 紅茶のカップを置いたフィスロ。

 エメラルドグリーンの瞳を細めて、私を見る。


「明日は、聖女としてのお仕事があるので」

「えぇ、嫌だよ。私の仕事は司書教諭なんだから」


 一応聖女ではあるけど。

 大好きな仕事を放り出すのは、なんだか気が乗らなかった。


 そんな私を見たフィスロが、くすっと笑った。

 相変わらずのイケメンスマイル。

 しかし、その目は鋭い光を宿していた。


「聖女の仕事は、街の視察ですよ」

「……なるほど。視察と銘打って出かけようっていう魂胆ね」

「魂胆とは、お酷い。名案と仰ってください」


 つまり。

 聖女としての街の視察、という仕事を聖女補佐官が入れる。

 そうすれば、司書教諭の仕事は休み。

 これで堂々とサボれることができる。


 ……フィスロ、さてはサボりの経験者だな。


「決定ですね。明日一日、羽を伸ばしましょうね」


 フィスロは穏やかな笑みを浮かべた。

 その顔は、どこか嬉しそう。

 久しぶりの休みに心が躍っているのか、それとも街に出るのが嬉しいのか。

 

 まぁ、どっちもだろうな。


 聖女補佐官なんて、年中無休のようなもの。

 フィスロは貴族っぽいから、街に出ること自体が珍しいのかもしれない。

 そう考えると、明日は大事に使うべきだ。

 せっかくの休み(サボり)なんだから、有効に使わないとね。


「楽しみかも」

「えぇ、僕もです」


 私とフィスロは、顔を見合わせて笑ったのだった。


次回はちょっとデートみたいになるかもしれません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ