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開館日

 中庭の花は、今日も華やかに咲き誇っている。

 風もあたたかで、春の陽気のよう。

 そんな日、魔法学園の図書室は新たに開館する。


「今日は、少しおしゃれに行きましょうよ!」


 図書室の開館日。

 その日の朝は、リンちゃんがものすごく張り切っていた。


「えぇ、いつも通りで大丈夫だよ」

「そんな訳には行きません! 聖女様御自ら整備された図書室ですよ? いつもよりおしゃれにして、学生さんを迎え入れないと!」


 リンちゃんが腕まくりをし、目を輝かせている。

 開館初日だから、この熱量らしい。

 私は別に、特に着飾らなくていいんだけど。


「髪飾りは、こちらでよろしいですか?」


 綺麗に編み込まれた髪。

 そこに飾るのは……。


「こちら、ですよねっ!?」

「圧がすごいよ、リンちゃん……」


 リンちゃんが差し出してきたのは、青い花の髪飾り。

 それはあの聖女祭の日、私が降らせた花びらを使って、フィスロが作ってくれたもの。

 どうやら保護魔法が付与されているらしく、聖女補佐官直々の一点物である。


「でもまぁ、気に入らない訳じゃないんだよね」


 綺麗な髪飾り。

 青い薔薇の花びらに囲われた中には、ネモフィラと白いガーベラの花びらがいくつも連なっている。

 そして、それは緑色の茎を模したかんざし部分へ。

 その茎の部分が、ほんの少しだけエメラルドグリーンに見えた。


「さぁ、できました!」


 白いシルクに、青と金の刺繍が入った服。

 魔法学園の職員であることを示す、濃紺のローブ。

 胸元には、金字で名前が刺繍されている。


「ローブを着るなら、下は聖女服じゃなくてもいいのでは?」

「スイ様は、一応は聖女様ですから」


 準備が整ったことを察知したのか、失礼な言葉が飛び込んできた。

 見れば、フィスロが扉を開けて室内に入ってきた。


「本当に失礼ね、フィスロは」

「フィスロ様もお似合いですね」


 フィスロもまた、濃紺のローブを羽織っている。

 学校司書になることを学園長から許されたため、彼もまた魔法学園の職員の一人として動くのだ。

 

 ……聖女補佐官って大変だなぁ。

 時代ごと、聖女がやりたいことにとことん付き合うんでしょ?

 聖女がいなかったら、本来はどんな仕事をしてるんだろうね。

 どこかの官僚だったりするのかな。


「さて、行きましょうか」


 フィスロが微笑んで言った。

 エメラルドグリーンの瞳が、陽の光を浴びてきらりと揺らめいた。





「聖女先生、来たよー!」

「あれ、なんか前のときより本が探しやすくなってる」

「机が空いてるのが、なんか新鮮」


 図書室の扉にかけたプレートを、『開館』にする。

 そうすると、図書室に学生がやってきた。


「机が空いてるのが不思議って、一体今までどんな図書室だったのよ」


 机は、本を読んだり勉強をしたりするところ。

 本棚に入りきらなかった本を置くための場所ではないのだ。

 学生たちの反応によって、この図書室がどれだけ機能していなかったのかを身を持って知った。


「スイ様のおかげで、図書室を利用する学生が増えそうですね」

「フィスロだって手伝ってくれたんだから、フィスロのおかげでもあるよ?」


 そう言えば、フィスロはふいっと顔を逸らした。


「そうですよね」


 あれ、照れてる?

 こういうところがかわいいよね、フィスロは。

 

 始業の鐘が鳴り、図書室から学生が出ていく。

 少しだけ賑やかだった図書室は、いつも通りの静けさを取り戻す。

 そんな空気に少し寂しさを覚えた、そのとき。


「スイ様。様子はいかがですか?」


 慈悲のある声と共に、学園長が入ってきた。

 私は、カウンターの椅子から立ち上がって、頭を下げる。


「おはようございます、学園長先生」

「いいのよ、そんなにかしこまらないで。綺麗になったわね、図書室」

「ありがとうございます」


 学園長はにこりと笑うと、一番近くの本棚に近づいた。

 本を眺めてから、図書室の中をぐるりと見渡す。

 

 え、なにか言われるのかな。

 抜き打ち検査が行われている気分だ。

 私は、ドキドキしながら学園長を見つめる。


「スイ様」

「は、はい!」

「これで、整備は終わりなんですか?」


 学園長は、私を見て問いかけてきた。

 えっと、終わりか終わりじゃないかって言われると……。


「終わりではないですね」

「あら」

「うげ」


 学園長の驚いたような声に重なるように、余計な声が聞こえた。

 犯人は、フィスロである。

 学園長がいてもいなくても、失礼な人であることは変わりないらしい。

 私は、フィスロの足を思いっきり踏んづけてから口を開く。


「次は、目録カードを作ろうかなと」

「目録カード……。それは一体、なんですか?」


 学園長に椅子を勧めて、私も腰を下ろす。

 フィスロは、私が踏んづけた足を押さえて涙目になっていた。

 ふん、これくらいしておかないとね。

 でもなんだか可哀想だったから、椅子は用意してあげた。


「本の情報を記すものです。出版された年であったり、著者の概要だったり。本が探しやすくなりますし、情報収集にも役立つんですよ」


 この世界の本には、目録があまり存在していない。

 でも、目録がある本はいくつかあったから、概念的なものは残っているのだろう。

 

 どうせだったら、統一しちゃいたいよね。

 この世界にないのなら、もう日本のものを取り入れちゃおう。

 日本の図書館が資料を目録に記入するときの手順や規則には、代表的なものがある。

 それは『日本目録規則』だ。


「ニホン……。スイ様のおられた国の名ですか?」

「はい。そこのものを参考にしようかと」


 記すものは、主にこんな感じ。

・書名、副書名

・著者名

・出版地、出版者、出版年

・ページ数、大きさ

・シリーズものであれば、シリーズ名とシリーズ番号

・注記 ISBM


 ISBMは、「国際標準図書番号」というコードだ。

 出版国や出版者、書名を13桁の数字で表したものである。

 本のバーコードにある数字こそが、ISBMコードだ。


 この世界には、ISBMが存在していない。

 なら、その情報は書かなくていい。


「そんなものがあるのね。論文の参考文献に有効活用できそうだわ」


 一通り説明し終えると、学園長は納得したように頷いた。

 うんうん、この学園長先生は良い人だ。

 私の話を熱心に聞いてくれて、否定せずに感心してくれる。

 問題なのは、私の後ろにいる男である。


「……まためんどくさそうな仕事が」

「なにか言った?」

「いえ。スイ様と図書室を改善していくことができて、大変嬉しく光栄であると言ったまでです」


 嘘つけ。

 めんどくさそう、って聞こえてたよ。

 だから、その営業スマイルやめてよね。


「図書室の運営やりながら、少しずつやってくからね。覚悟しといて、フィスロ」

「……選書、少なくします。そしたら、目録を作る量が減りますよね」

「何言ってるの。きちんと選書してよね、学生と私のために!」

「選書なんて、スイ様が本を読みたいだけじゃないですかぁ!」

「そんなことないよっ」


 私たちは、学園長がいることも忘れて言い合い続けたのだった。


「仲良しね」

「「どこがですか!」」

「そういうところよ」


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