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本業と副業

「はぁ~! 生き返る~っ!」


 魔法学園の図書室に入れば、漂う本の香り。

 小さな窓から差し込む陽の光が、ちらちらと舞う埃を輝かせている。

 本棚の本たちは、光に照らされて宝石のように煌めく。


「やっぱり図書室は最高よね!」

 

 昨日、ようやく終わった聖女祭。

 聖女祭の期間は魔法学園もお休みだから、図書室に行けなかった。

 加えて、私は聖女としての務めをしなくてはならず。

 王宮図書館も国会図書館も行けなくて、本不足に陥っていたのだ。


「一応言いますが、司書教諭は副業ですからね」


 窓を開けて換気を始めたフィスロが、呆れた声を出す。

 いいじゃない、これが私にとっての生きがいなんだから。

 聖女祭が終わるまで我慢した私を褒めて欲しいくらいだよ。


 今日の仕事は、排架場所を決めて本をしまうこと。

 学生にアンケートをおおかた取ったから、後は本をきちんと収めたら完成である。

 でも、やりたいことはまだまだたくさんあるんだけどね。


「とりあえず、入り口付近の図書室は学問書にしようか」


 この図書室は、壁面本棚と中央に並んでいる本棚の2種類がある。

 それぞれ、閲覧頻度で排架場所を決めていこう。


「じゃあ、本棚に並べていきますね」

「ちょっとストップ!」


 フィスロが、学問書を数冊手にして本棚へ向かう。

 それを、私は服の裾を引っ張って止めた。

 

「ぐえっ」


 そのおかげで、フィスロはがくんっと前のめりになる。

 イケメンの口から、聞いたこともない声が聞こえた。


「本棚に並べる前に、まだやることがあるの!」

「えぇ……」


 フィスロが、非常に面倒くさいとでも言いたげな顔になる。

 でも、これは仕方ないことなのだ。

 利用する側が快適に使うことができるようにね。


「本を作者順に並べるの。同じ作者の本が同じところにあった方が見やすいでしょ」

「確かにそうですけど」

「あら、何かご不満でも?」


 使いやすいに越したことはないんだから!

 現に、魔法学園の学生は「図書室が使いにくい」って理由で利用しない訳でしょ。

 ならば、余計に整える価値はある!


「い、いいえ。やらせていただきます」


 私が睨みつけたせいか、フィスロはひくっと顔を引きつらせた。

 さぁ、どんどんやっていくよ!





「そう言えば、スイ様」


 作家順に分けて、本棚に並べて。

 そんな単調な作業をしていれば、不思議と会話をしたくなるものである。

 私とフィスロは、手を動かしながら他愛のない話をしていた。

 その中で、ふとフィスロが口を開いた。


「司書って、『選書』が大事だって仰ってましたよね?」

「うん、そうだけど」


 司書によって選書も変わる。そんな話を前にしたよね。

 私は作家の名前を棚見出しに書きながら、顔を上げる。

 棚見出しは、作家の名前が書かれて本棚からぴょんと飛び出ている『あれ』のこと。

 これがあることによって、より一層本が探しやすくなるのだ。


「僕が司書なら、僕が本を選んでもいいんですよね」

「そうだよ。それがどうしたの?」


 まさか、もう選書を始めてくれるの!?

 図書室の机にはまだまだ大量の本が詰まれ、本棚に戻っていない本がたくさんある。

 とりあえず、全部の本を並べてから選書だと思っていたのに。

 

「うぅ。フィスロが自ら進んで行動できるようになったなんて、私すごく嬉しいよ」


 感動だよ、感動!

 あんなに聖女の力を使おうとしていたフィスロなのに。

 なんか、生徒のやる気を引き出せた教師の気分だ。


「あの、盛大な勘違いしないでください」

「んえ?」


 か、勘違いとは……。

 まさか、まだやる気は出ていなかったの!?


「選書はまだしませんよ。だって、本の流行りとか校風とかまだ調べていませんもん」


 フィスロは、大きく胸を張った。

 いやいや、胸を張るところじゃないんだけど。


「じゃあ、さっきの質問は?」

「僕が入れたい本がありまして」


 そう言って、フィスロが紙を見せてきた。

 そこには、本のタイトルらしき文字がずらり。

 あれ、でもこれって選書になるんじゃ……。

 少し疑問に思いながらも、そのタイトルたちを読み上げてみる。


「えっと、『歴代聖女の活躍物語』に『聖女様親衛隊になった日』、『聖女と紡いだ幸せな家庭』……。なにこれ」

「聖女様関連の本です。売れているものから秘蔵の作品まで、全て入れたいなと!」


 フィスロの目が、キラキラと輝き始めた。


「題して、『聖女様特設コーナー』です!」

「……その目的は?」

「聞きたいですか?」


 フィスロはにっこりと笑った。

 その笑顔は、なにか企んでいる子どものようなものだった。

 私は、直感的に悟る。

 

 あ、これ、やばいやつだ。


「聞きたくな──」

「もちろん、歴代聖女様の活躍を学生の皆さんに読んで貰いたいという想いもあります。ですが!」


 聞きたくない、そんな私の声はガン無視された。

 フィスロは、語尾を強めて言葉を切る。

 大きく胸を張りながら、得意顔で私をじっと見つめてきた。


「この図書室の本を、スイ様は読破なさる予定だと仰っていました。な・ら・ば! スイ様に読んでいただきたい本を置いておけば、必然と読まれると思ったのです!」


 つまり、これらの本を置く理由は『私に読ませたい』ということだ。

 なんだそれ。

 置かれてたら読むけどさ。

 

「聖女様が出てくる本をただ選んだのではないですよ。これらの本には、共通点があります。それはズバリ! 聖女としての心得です!」


 え?


「聖女という役目がどのようなものか、どれだけ国民の拠りどころになっているのかが書かれています。『聖女は副業』という言葉が恥ずかしくなるほどに!」

「はぁ!?」

「それを読めば、きっとスイ様の想いも変わるはず。聖女が本業になるはずです。そんな想いを込めて、選んでみました。少し、選書っぽくなりましたね」


にこにこ笑顔のフィスロは、得意げにえっへんとしている。

 ちょっと待ちなさいよ。

『歴代聖女の活躍物語』は分かるよ。でも、『聖女様親衛隊になった日』と『聖女と紡いだ幸せな家庭』は何!? どこが聖女の心得なのよ!


「却下よ」

「えぇ~!」

「選書が下手! もうちょっと趣旨に合った本を選びなさい!」

「ってことは、『聖女特設コーナー』は許可いただけるんですね!」


 え、違う! そうじゃない!

 それも嫌だし、選書もだめなの!


 そう反論したかったが、もう遅かった。

 フィスロは、リストのタイトルをじっと見つめて何やら考案している。

 今までにないくらい、真剣な顔で。


 ……なんか疲れた。

 フィスロを止める気が失せて、私は大きくため息を吐いた。

 あぁ、私は司書教諭なのに。

 これじゃあ、本業が聖女になっちゃうよ。


「聖女が本業ですからね」

「いや、司書教諭は本業だから!」


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