表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/70

青薔薇聖女

 聖女祭当日。

 街はお祭り騒ぎとなり、たくさんの露店が出ている。

 どこからともなく陽気な音楽が流れ、人々が楽しそうに歩き回っていた。


「今日は、図書室行けない?」

「聖女祭なので。魔法学園自体がお休みです」

「国会図書館とかは?」

「……行けなくもないですが」


 フィスロが、またまた煌めく笑顔を浮かべた。


「その格好で行くんですか?」

「そうなんだよねぇ!」


 今の私は、かなり着飾った状態だ。

 国民の前に出るため、聖女としての正装を着ている。

 白いシルクの生地に、金と青の刺繍。

 黒髪は、両サイドを編み込まれ、青い宝石のアクセサリーで留められている。


 ……よかった、エメラルドじゃなくて。


「聖女って、青がイメージカラーなの?」

「なぜです?」

「だってほら、白と金の他に青が入ってるじゃん。なんで青なのかなって」

「あぁ、それは」


 そう言って、フィスロが何かを差し出してきた。

 銀色の柄に、大きな宝石が付いた杖。『聖杖』というらしく、私が召喚されたときに溢れた魔力で作られたものみたい。

 これが『聖女の証』となると、打ち合わせのときに渡されたのだ。


「スイ様が『浄化』や『転位』を行った際、空色の光が溢れましたよね。それは、スイ様の魔力の色です。ここに嵌まっているのは、スイ様の魔力で染められた宝石です。なので、青がお召し物にも使われているんですよ」


 なるほど。

 つまりは、魔力の色で代々の聖女のカラーが決まっているらしい。

 でも、私はサファイアのようでターコイズのような青色だ。

 完璧な真っ青じゃなくて、何かを混ぜたような。


 ちょうど、フィスロのエメラルドグリーンを混ぜたらこんな色になりそう。


 ……ん?

 今、私なにを考えた?


「うわぁ!」

「どうしました?」


 声を上げれば、フィスロが慌てて近寄ってきた。


 やめて!

 近寄らないで!

 こうなってるのは、フィスロのせいなんだから!





 聖女祭は、国王の一声で始まる。

 王城のバルコニー。そこは、王城前広場に面した、一番大きなバルコニーだ。


「今代の聖女、スイ殿である!」


 国王がそう述べたのと同時に、私はリハーサル通りに前へ進み出る。

 王城前広場には、人がたくさん集まっていた。

 みんな、興味津々で私のことを見上げている。

 

 こんにちは、と声をかけたいが、上がる歓声のせいで何も聞こえていない。

 ならば、と思って手を振ってみる。

 すると、みんなはわぁ! ともっと盛り上がった。


 あれ、そう言えばフィスロは?


 そう思って振り返ると、バルコニーの影にフィスロはいた。

 民衆には見えない位置に、そっと佇んでいる。

 手招きしてみたけど、フィスロは静かに首を横に振った。

 なんでだろう。

 



 聖女祭は、三日三晩続くのだそう。

 お祭りが大好きな国民たちなのか、まだ初日だというのに食べたり飲んだり楽しそうだ。


「楽しそうだね」


 お披露目が終わると、国民たちは思い思いに散っていく。

 その様子を、バルコニーの影からそっと見守った。

 隣では、フィスロが立っている。


「平和ですからね」

「平和なら、聖女はいらなんじゃないの?」


 ずっと思っていたことだ。

 争いがなく平和なら、平和をもたらす聖女は召喚しなくてもよかったのではないかと。

 召喚された意味はなんだったんだろう、と。


「聖女の力は、半端ないものです」


 サワ、と風が吹く。

 その勢いで、フィスロの髪がふわりと持ち上がった。

 エメラルドグリーンの瞳が、国民たちを静かに見下ろしている。


「平和というのは、争いごとと表裏一体の関係です。すぐに壊れる、脆いガラスみたいなものです。それを、聖女様は存在するだけで安定してくれます。だから、聖女は必要なんです」


 分かったようで、分からないような……。

 でも、とりあえずなんとか分かった。

 聖女がいるということで、きっと何かの力が働いているんだと思う。

 だから、聖女がいるだけで世の中が平和になるのだ。


「じゃあ、聖女っぽいことした方がいいね」

「え?」


 だって、聖女がいると安心するんでしょ?

 なら、「聖女はいるよ」って示してあげた方がいい。

 虚構ではなく現実を。


「そうだなぁ。……『花霞』!」


 杖を空に向けて、思いっきり魔力を込める。

 すごいすごい、杖が魔力を吸い取ってくれる!

 吸い取った魔力は、空色の光と共に青空へ昇っていく。

 そして。


 「は、花びら?」


 フィスロの手に、青い花びらが落ちてきた。

 空から降り注いできたのは、花びらだ。

 白、青、水色。

 私が聖女であることを示す色の花びらが、雨のように優しく降ってきた。


「すごーい!」

「花の雨だ!」


 国民のみんなが、手をかざして花びらを掴む。

 青い薔薇、ネモフィラ、マーガレット。

 さまざまな花びらが降り、広場を青に染めていく。


「ようやく、聖女っぽくなりましたね」


 フィスロが、にこりと微笑んだ。

 花びらを一枚一枚拾い、一輪の花を作る。

 違うお花なのに、まるでもともと同じお花だったかのように。

 

 そして、何かを唱えた。

 エメラルドの光が溢れたかと思うと、すっとすぐに消える。

 その光の中にあったのは、煌めく一輪の花だった。

 枯れないような魔法が凝らされて、茎のような部分もあって。

 それを、フィスロが私に見せてきた。


「いつまでも、このフィスロがお支えします。神に誓って」


 その花は、かんざしのように変形した。

 花のアクセサリーを、フィスロは私の髪にそっと挿す。


「スイ様への贈り物です。きっといつか、あなたを守ってくれますよ」

「あ、ありがとう……」


 男の人から、面と向かってプレゼントを貰ったことなんてない。

 だから、どんな顔をすればいいか分からなかった。


 その日。

 国は、青い花びらで埋め尽くされたという。




 第84代聖女、スイ。

 『青薔薇聖女』という名が付いたのは、この日を境になっていたと伝わる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ