青薔薇聖女
聖女祭当日。
街はお祭り騒ぎとなり、たくさんの露店が出ている。
どこからともなく陽気な音楽が流れ、人々が楽しそうに歩き回っていた。
「今日は、図書室行けない?」
「聖女祭なので。魔法学園自体がお休みです」
「国会図書館とかは?」
「……行けなくもないですが」
フィスロが、またまた煌めく笑顔を浮かべた。
「その格好で行くんですか?」
「そうなんだよねぇ!」
今の私は、かなり着飾った状態だ。
国民の前に出るため、聖女としての正装を着ている。
白いシルクの生地に、金と青の刺繍。
黒髪は、両サイドを編み込まれ、青い宝石のアクセサリーで留められている。
……よかった、エメラルドじゃなくて。
「聖女って、青がイメージカラーなの?」
「なぜです?」
「だってほら、白と金の他に青が入ってるじゃん。なんで青なのかなって」
「あぁ、それは」
そう言って、フィスロが何かを差し出してきた。
銀色の柄に、大きな宝石が付いた杖。『聖杖』というらしく、私が召喚されたときに溢れた魔力で作られたものみたい。
これが『聖女の証』となると、打ち合わせのときに渡されたのだ。
「スイ様が『浄化』や『転位』を行った際、空色の光が溢れましたよね。それは、スイ様の魔力の色です。ここに嵌まっているのは、スイ様の魔力で染められた宝石です。なので、青がお召し物にも使われているんですよ」
なるほど。
つまりは、魔力の色で代々の聖女のカラーが決まっているらしい。
でも、私はサファイアのようでターコイズのような青色だ。
完璧な真っ青じゃなくて、何かを混ぜたような。
ちょうど、フィスロのエメラルドグリーンを混ぜたらこんな色になりそう。
……ん?
今、私なにを考えた?
「うわぁ!」
「どうしました?」
声を上げれば、フィスロが慌てて近寄ってきた。
やめて!
近寄らないで!
こうなってるのは、フィスロのせいなんだから!
*
聖女祭は、国王の一声で始まる。
王城のバルコニー。そこは、王城前広場に面した、一番大きなバルコニーだ。
「今代の聖女、スイ殿である!」
国王がそう述べたのと同時に、私はリハーサル通りに前へ進み出る。
王城前広場には、人がたくさん集まっていた。
みんな、興味津々で私のことを見上げている。
こんにちは、と声をかけたいが、上がる歓声のせいで何も聞こえていない。
ならば、と思って手を振ってみる。
すると、みんなはわぁ! ともっと盛り上がった。
あれ、そう言えばフィスロは?
そう思って振り返ると、バルコニーの影にフィスロはいた。
民衆には見えない位置に、そっと佇んでいる。
手招きしてみたけど、フィスロは静かに首を横に振った。
なんでだろう。
聖女祭は、三日三晩続くのだそう。
お祭りが大好きな国民たちなのか、まだ初日だというのに食べたり飲んだり楽しそうだ。
「楽しそうだね」
お披露目が終わると、国民たちは思い思いに散っていく。
その様子を、バルコニーの影からそっと見守った。
隣では、フィスロが立っている。
「平和ですからね」
「平和なら、聖女はいらなんじゃないの?」
ずっと思っていたことだ。
争いがなく平和なら、平和をもたらす聖女は召喚しなくてもよかったのではないかと。
召喚された意味はなんだったんだろう、と。
「聖女の力は、半端ないものです」
サワ、と風が吹く。
その勢いで、フィスロの髪がふわりと持ち上がった。
エメラルドグリーンの瞳が、国民たちを静かに見下ろしている。
「平和というのは、争いごとと表裏一体の関係です。すぐに壊れる、脆いガラスみたいなものです。それを、聖女様は存在するだけで安定してくれます。だから、聖女は必要なんです」
分かったようで、分からないような……。
でも、とりあえずなんとか分かった。
聖女がいるということで、きっと何かの力が働いているんだと思う。
だから、聖女がいるだけで世の中が平和になるのだ。
「じゃあ、聖女っぽいことした方がいいね」
「え?」
だって、聖女がいると安心するんでしょ?
なら、「聖女はいるよ」って示してあげた方がいい。
虚構ではなく現実を。
「そうだなぁ。……『花霞』!」
杖を空に向けて、思いっきり魔力を込める。
すごいすごい、杖が魔力を吸い取ってくれる!
吸い取った魔力は、空色の光と共に青空へ昇っていく。
そして。
「は、花びら?」
フィスロの手に、青い花びらが落ちてきた。
空から降り注いできたのは、花びらだ。
白、青、水色。
私が聖女であることを示す色の花びらが、雨のように優しく降ってきた。
「すごーい!」
「花の雨だ!」
国民のみんなが、手をかざして花びらを掴む。
青い薔薇、ネモフィラ、マーガレット。
さまざまな花びらが降り、広場を青に染めていく。
「ようやく、聖女っぽくなりましたね」
フィスロが、にこりと微笑んだ。
花びらを一枚一枚拾い、一輪の花を作る。
違うお花なのに、まるでもともと同じお花だったかのように。
そして、何かを唱えた。
エメラルドの光が溢れたかと思うと、すっとすぐに消える。
その光の中にあったのは、煌めく一輪の花だった。
枯れないような魔法が凝らされて、茎のような部分もあって。
それを、フィスロが私に見せてきた。
「いつまでも、このフィスロがお支えします。神に誓って」
その花は、かんざしのように変形した。
花のアクセサリーを、フィスロは私の髪にそっと挿す。
「スイ様への贈り物です。きっといつか、あなたを守ってくれますよ」
「あ、ありがとう……」
男の人から、面と向かってプレゼントを貰ったことなんてない。
だから、どんな顔をすればいいか分からなかった。
その日。
国は、青い花びらで埋め尽くされたという。
第84代聖女、スイ。
『青薔薇聖女』という名が付いたのは、この日を境になっていたと伝わる。




