二人の女子学生
図書室は、オアシスである。
毎日通うことが、私の最高の楽しみであった。
「そんな図書室にしたいのよ」
「でしたら、他にない図書室を作ることが大切ですね。どの図書館にも負けないくらい、魅力的な場所にしないと」
今日も今日とて、図書室の分類分けである。
ジャンルごとに置く机を決めて、そこに分類していく。
分類していって分かったことは、圧倒的に学問書が多いことだ。
文学や芸術系に比べたら、その倍くらいはある。
「フィスロには選書をお願いしたいんだ」
「センショ?」
哲学系を集めている机に本を置いたフィスロは、私を見て聞き返してくる。
私は、近くにあった椅子に座った。
説明がてら、ちょっと休憩しようっと。
「図書室に入れる本を選ぶことだよ。校風とか流行とかを考慮して、本を選ぶの」
時代に合わせた本だったり、人気作家の過去作だったり。
選書する人によって、蔵書というのは変わってくる。
だから、同じ図書室というものはない。
それぞれの図書室が違う特徴を持っているからこそ、その学校の図書室は輝く場所になると思うんだ。
「それって、スイ様が一番やりたい作業のようにも思いますけど」
「ほら、私はこの世界にきたばかりだから、どんな本があるのかとか分からないのよ。だから、選書はフィスロに任せるね」
選書はフィスロに任せて、私はぜひともやりたいことをするんだ!
図書室のためにもなるし、私のためにもなる。
一石二鳥の行動が一番楽しいのだ。
「……スイ様。その選書を僕に押し付けて、自分は違うことをしようと思っていません?」
ギクッ。
「もしかして、この図書室の本を読破しようとしてます?」
「な、なんで分かったの!?」
そう!
ここにある本を全部読み尽くすこと。
それが私の目標なのだ!
「だいたい分かりますよ、スイ様の行動は」
「好きな本がたくさん読めるし、この図書室にはどんな本があるのか知ることもできるんだよ? 最高じゃない!」
時間に縛られないで、好きな本を好きなだけ読むこと。
これは、日本にいたら叶わなかったことかもしれない。
毎日仕事に追われて、本を読む時間すらないだろう。
教育実習のときですら、あまり時間はなかったんだから。
「まぁ、スイ様の本好きは止められないですからね」
フィスロがそう言って笑った。
この世界に来てまだそんなに経ってないけど、フィスロのこの笑顔だけは慣れない。
超イケメンの笑顔は、きっと破壊力が桁違いなんだと思う。
と、そのとき。
「聖女先生~!」
「来ちゃいました!」
陽気な声が、図書室に響き渡った。
*
王子会長がいるクラスを図書室に転位させて以来、そのクラスの学生がよく図書室に来るようになった。
特に、二人の女子学生がよく来てくれる。
「いらっしゃい、リアちゃんとセイラちゃん」
「えへへ、やっほう!」
「また来ちゃいました!」
リアとセイラ。
リアは、ふわふわとした茶髪をピンクのリボンで止めた女の子。
セイラは、紺色で艶のあるストレートヘアが自慢の女の子。
二人とも貴族で、仲のいい二人組だった。
この世界にも、どこへ行くにも一緒な女子たちがいるんだね。
女子三人組のトラブルとかもあるのかな。
少し気になってしまうのは、指導者としての教育を受けた私の癖である。
「フィスロ様も、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
「どうも。では、私は向こうに行っていますね」
フィスロは、簡単な挨拶をした後、本棚の向こうに姿を消した。
女子同士でのコミュニケーションは、きっとこの世界の疲れを癒してくれますよ。そう言って、フィスロが配慮してくれているのだ。
なんだかんだ頼れる男・フィスロである。
「棚はどんな感じなんですか?」
フィスロがいなくなったのを見て、セイラが私の前の椅子に座る。
リアも、ちょんとセイラの隣の椅子に腰かけた。
なんだか姉妹みたいでかわいらしい。
「分類がまだ終わらないんですよ。本が多くて大変で」
「ここはたくさん本がありますよね~。でも、多すぎてどこに何があるか分からないから、あまり使わないんです~」
確かに、リアの言う通りだ。
多量の蔵書に加えて、ジャンル分けされていない本棚。
日本みたいにコンピューターシステムがないから、蔵書検索もできない。
そんな図書室は使いづらいに決まっている。
「とりあえず、図書室に入ってすぐの棚は学問書がいいと思います」
セイラが、図書室を見回していった。
真面目で知的な彼女は、クラス委員もしている優等生。
そんなセイラが言うのだから、きっと間違いはないだろう。
「やっぱりそうだよね。学問書をメインに置いてみます」
学問書の需要は、やっぱり大きいらしい。
なら、最新の学問書を入れるのもいいかもしれない。
私の中の理想が、どんどんと膨らんでいく。
学生との距離感は、友達と同じ距離感にならないことを大切にしている。
どれだけ仲良くなっても、教員と学生という立場は変わらないから。
それでも、時折会話の中にタメ口を混ぜてみる。
そうすることで、学生との距離がほどよく縮めることができると思うんだ。
「そうだ、聖女先生。ちょっと聞きたいことがあったんです~」
突然、リアがにやりと笑った。
その顔を見たセイラも、いたずらっ子のような笑みを浮かべる。
え、何?
その笑顔、けっこう怖いんだけど。
「フィスロ様と、どんな感じなんですか~?」
「んえ?」
「ほら、毎日一緒でしょう? 少し意識するところがあるのではなくて?」
フィ、フィスロに意識を持っているかだって?
つまりは恋バナだ!
この二人、恋バナに対してなかなかに手練れだ。
相手に聞こえないように配慮しつつ、にっこり笑顔で迫ってくる。
逃げ道は、とうの昔に塞がれてしまった。
「意識するかって……まぁ、かっこいいよねフィスロは」
「ドキドキします? キュンってします?」
「キュンってした瞬間は?」
「知らないよっ!」
ここは図書室!
恋バナをするところじゃなーい!
ふと、窓に映る自分が見えた。
窓の向こう側の私は、なぜか顔が真っ赤だった。
慌てて頬を触ると、それは嘘みたいに熱い。
なに、これ?
「今日お答えしなくてもいいです~。いつか聞かせてくださいね!」
「首を長くして待っていますわ」
「ちょっと、爆弾だけ置いて帰らないで!」
そんな質問されたら、変に意識しちゃうでしょうが!
リアとセイラは、笑いながら図書室を後にした。
慌てて追いかけるも虚しく、二人は颯爽と去っていく。
扉が閉められ、二人を掴めなかった私の手が空中に残された。
ちょっと待ってよ~!
「あれ、帰られたんですか?」
そのとき。
呆然としてる私の目の前に、ひょいとフィスロが現れた。
「ん? スイ様、なんで固まって──」
「っぎゃあぁぁぁ!」
心臓が飛び跳ねた瞬間だった。




