校庭隅のディスカッション/見廻り隊結成
「怪しいわ、とっても怪しいと思うわ」「私も怪しいと思います」と私に告げるのは、秋山さんとお姉さんです。話題は私の家で夕食を食べる貧乏女子大生の夢野さんです。昼休みの校庭、その片隅で私たちはナザールの店員さんの行動の怪しさをディスカッションしておりました。
「花も恥じらう女子大生が、あのように無軌道なことをするかしら」
「趣味、とおっしゃられておりましたけど、無益どころか自分の暮らしを脅かしております故、あれは道楽ではないでしょうか?」
「人は自分の益がないことをするものでしょうか?きっと何か得があるはずですわ。そうでなければ人は動きませんもの」
「人がみんな資本主義思想とは思いませんが、言いたいことはわかります」
「もしかしてなのですけれども」
「おっしゃられて、秋山さん」
一呼吸おいて秋山さんが声を発します。
「夢野さんは魔女なのではないでしょうか?」
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もう間もなく、4月30日、所謂”魔女の夜”がやってきます。その際にサバトに赴く際の手土産として、私を持参しようとしているのはないか、と恐ろしいことをおっしゃります。
「でも秋山さん。夢野さんは、むしろ魔女除けのナザールを販売しておりましたよ?夢野さんが魔女なら、わざわざ自分の苦手なものを作るでしょうか?」
「莉玖ちゃん、その考えは油断というものですわ。ナザールがあるから安心、というのは視野の狭窄と言わざるを得ませんわ。映画でご覧になったことはありませんか?撃つことが出来ない銃を渡して、わざと敵の前に出るシーン。勝ち誇った悪役が銃を撃とうとして撃てず、命乞いをし出したところを主人公が射殺する、そんなシーン。安心は慢心ですわ」
なるほど。秋山さんは賢くてらっしゃいます。
「確かに私の家にいる悪魔のおじさんも、このナザールのお守りパワーは、うすい膜のような結界が1枚あるだけ、とおっしゃっていました。Lv1のお守りとしても、かなり弱い部類なのかもしれませんね」
「それを装着させ油断させ、さらには監視ができるよう家に訪れている。やはり魔女では?」
おお。流石秋山さん。流石です。もう、夢野さんが魔女としか思えなくなってきました。
「えぇっと。取説には元々書いてありましたし、家にお呼びしてご飯を御馳走しているのは、莉玖ちゃんのところの御両親なのですよね?秋山さんの考えはやや飛躍してはいらっしゃらないかしら」
ヒートアップしていた夢野さん魔女疑惑論に、しっかりとブレーキをかけてくれるお姉さん。そうでした。取説にはナザールの弱さも書いてあったし、夢野さんが家に来るのは、私の両親が呼んでいるからでした。うっかりです。
秋山さんも、「むむむ、確かに」と腕を組んで再思考に入り始めました。
「私が怪しいと思っているのは、3000円という価値の安さです。後から調べてみたのですけれど、1桁高いのです、呪術的付与がされたものは、どれも」
そう言ってお姉さんが、1枚の紙をポケットから出しました。それは、折りたたまれた雑誌のページでしたが、そこに書いてあった内容に私と秋山さんは驚愕したのです。夢野さんが売っていたのと似たようなものなのに、それもこれもとんでもないお値段なのです。
「そこで私、考えたのです。莉玖ちゃんにわざわざ格安で売りつけた理由を」とお姉さんが溜めます。
「夢野さんは魔女ではなく、むしろ逆。魔女狩りをする”異端審問官”なのではないでしょうか」
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お姉さんがおっしゃるには、最初から私には悪魔の縁があることが分かっていた。魔女になる要素がある私に近づき、監視をして、魔女になった瞬間に逮捕しようと考えているのではないか、と。
なるほど。6年生の知識はやはり私たちとは違います。
「最近では、小悪魔が”契約したら魔術を使えるようになる”と半強制的に契約を結び、人間を半怪異存在にして使役、隷属させようとする事案があると聞き及んでいます。莉玖ちゃんの友達の悪魔さんは違うでしょうけれど、異端審問官さんたちはどのように考えているかはわかりません。あえて泳がせている可能性などはないでしょうか?」
おお。流石お姉さん。流石です。もう、夢野さんが異端審問官にしかみえなくなってきました。
「ですけど、だとしてもあんな商業施設の片隅の片隅で、偶然じゃないと遭遇出来ないような場所でお店を開いたりとかしますかねぇ。運の要素があまりにも占め過ぎていますよ、桔梗さん」
秋山さんの指摘に「は!確かにそうですね」とお姉さんが返します。
結局は話は振り出しに戻ってしまったのでした。話しても埒が明かないのです。結局、夢野さんが怪しいということ以外の意見で妥当な意見がないのでございますから。
そこで私は1つ思いついたのです。
「4月30日の夢野さんの行動を見張れば分かるのではないでしょうか」と。
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そこからの動きは大変早かったです。
攻撃面は猟銃を持つ私が担い、夢野さんの動きは、怪異の場所を聞くことが出来るお姉さんこと桔梗さんが把握します。何と秋山さんの縁の幽霊さんが生前は軍人さんだったらしく、行動面でのアドバイスをくれることになりました(そもそもにそのような危ないことをするな、と注意をされたのですけれど)。しかし、秋山さんはこの一連の”流れ”で危険な感じを受けなかったそうなのです。
「よっぽどなことにはならないのではないかしら」と。
4月30日夕方、夢野さんが夕食を食べ、帰宅されるタイミング、つまり日が沈む前に、私たちはお互いがお互いの家にお泊りすることとして、夢野さんを追跡することとしました。
夢野さんが魔女なら、3人の力を利用して撤退し、交番に向かいます。夢野さんが異端審問官なら、魔女が出ても怖くありません。むしろ、夢野さんの近くで1晩過ごすことにします。
「では私たちの住む3丁目を守るため、チームを組みましょう!」
「各々カッコイイチーム名を考えましょう。とりあえずは”3丁目見廻り隊”で」
「異議なしです」
昼休みの校庭でひっそりとパーティを結成したのでございました。
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莉玖 10歳
ギフト:野伏の感覚 LV 1
*敵意の方向や距離がだいたいわかる
装備品①:悪魔の猟銃 LV 1
*単発装填式ボルトアクション式のライフル
**狙ったものに当てやすいが、1日に6発しか撃てない
装備品②:手抜きの邪視除け LV 1
*低級な呪い、祟り、霊障を1度だけ撥ね退けるお守り
ようやくタイトル回収です。