贈り物選び/お守り売り①
ちょっとだけ不穏になっていきます。あくまでちょっとだけ。
そして今回は、装備(防具)を整える回です。
4月のとある土曜日。
さっそく仲良くなった秋山さんと、ご近所に住んでいる登下校班のお姉さんと3人で、大型商業施設で遊ぶことにしました。集合したドーナツ屋さんでオールドファッションやらを頼み、まずはお互いに紹介をすることにしました。間にいる私が他者紹介をいたします。
「秋山さん。こちらは桔梗さん。桔梗さんは、私の登下校班のリーダーさんで、”祈り手”の才と、”星の神様”の縁をお持ちです。毎朝、怪異の場所を占って教えてくださり、安全に登校させてくれるすごい方です」
「すごいですね、桔梗さん」と秋山さんがびっくりされます。
「いえ。えへへ。でも私がまだ未熟なので、1日に1回しか占うことができないんです」
「それでもすごいですよ」
「お姉さん。こちらは秋山さんです。5年生になってお隣の席になりました。”太公望”の才と、”幽霊さん”の縁をお持ちです」
「はじめまして」「ええ、こちらこそ」と挨拶を交わします。
「太公望って、釣り人で間違いないでしょうか?釣りの才能ってことでしょうか?」
「たぶんそうなんだと思いますが、まだ私も未熟でして。少し”流れを読む”とか”動きを読む”って感じです。実際に釣りに応用は出来ていません」
「なるほどー、勉強になります」
顔合わせ、挨拶、雑談と流れていきます。お姉さんと秋山さんが仲良くなれそうで良かったです。
私がオールドファッションを2個程食べ終わった頃でしょうか。お姉さんから「そろそろ本屋さんに移動しましょうか?あまり遅いと良い本が無くなってしまうかもしれないわ」と声がかかりました。
遊ぶのもそうですが、本日は3人で、4月23日に贈る薔薇と本を選びに来たのです。
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皆様はご存知でしょうか、”サンジョルディの日”。これは海外の怪異の解決した英雄譚を由来とした記念日なのですが、親しい人に本を贈るというイベントになります。商業的にも教育的も良いということで日本に入ってきて、文化として根付いたものです。父と母とが互いに本を贈り合っているのを、幼い私がみて「私も、私も」と混ぜてもらったのを覚えています。その時に父から贈ってもらった本(選んでもらったのは良いですが難しすぎて読めなかったです)は、随分とボロボロになってしまいましたが、今も本棚にたたずんでいます。
元となった英雄譚の発祥国はスペインのカルターニア地方。そこでは、毎年この時期になると龍が発生するらしいのです。決まったタイミングで発生する怪異、所謂”習慣的怪異”となってしまっており、事態は深刻なのだそうです。事前に準備ができるため、台風と同じように備えることが出来る分はマシと言え、被害者も出るため、とてもお祭りなんて感じではないそうです。日本とは違います。
日本の龍は討伐した際に、体は木片や泥に変わり、その中に河童だった頃の名残でお皿を残すのですが、向こうの龍の亡骸は薔薇の花に変わるそうなのです。聞く限りはロマンティックなのですけれど、向こうでは”血の薔薇”とか、”鎮魂華”なんで言われているみたいです。
文化の魔改造が過ぎるなぁ、なんて思ったりしました。
”サンジョルディの日”は日本でも龍が活性化しやすいという統計があるようなのですが、それよりも明確にヤバい日が4月にはあります。
4月30日の”魔女の夜”です。
簡単に申しますと「”魔女”と呼ばれる半怪異存在の同窓会(同門会?)が、自分の所属するコミューンの集まりやすい場所で行われる」というものなのですが、そこに”悪魔”やら”鬼火”やらも集まってしまうので、精神異常耐性の才を持っていない人は、惑わされたり、悪乗りした魔女や悪魔、鬼火の儀式的行為の材料にされてしまうのだそうです。
その夜は庚申講の如く、明かりを絶やさず、怪しげな場所に行かないようにしなくてはいけない危ない日なのです。
そんな危ない日にも関わらず、ヤギおじさんからは「お嬢ちゃんが行きたいなら連れて行ってやるぜ?まぁ、お嬢ちゃんなら、何となくだがドジ踏まない気がするしな。ガハハハッ」と謎のお墨付きをもらいました。何をおかしなことを申すのやら。ドジを踏むとは?と尋ねますと、ヤギおじさんの知り合いは、そこで失敗して天使に刺されて亡くなられたとおっしゃられました。魔女の夜に天使が来るなんていうのはよく分かりませんが、気をつけるに越したことはありません。というか行きません。
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本屋さんでそれぞれ数冊の本を選びました。
その帰りです。階段の横の薄暗いスペースに小さな出店が開かれていました。ずっと携帯電話をみている怪しげな人がいますが、販売許可証のカードを首から吊るしているため、店員さんなのでしょうけれど、何とも胡散臭い印象です。
しかし、興味関心は惹かれてしまいます。そのためかじっと見つめていたのでしょう。「お嬢ちゃんたちも”サンジョルディの日”の贈り物選びかい?」と携帯から目を離して、頭をあげた店員さんと目が合い、話しかけられてしまいました。私の”野伏”の才からのアラートはありませんでしたので、つい返事をしてしまったのです。妖しい人から声をかけられても反応しないのが正しいとはわかっていたのですが。
「ちょっとしたアクセサリーをね、作って売っているんです。如何です?ちょっと見てみませんか?」
店員さんは、大学のサークルで呪物を研究しており、勉強が高じて、いっそ自分でも作ってみるか、とハンドメイドで呪物を作り始めたそうなのです。ただ、蚤の市などの大きな場所だと抽選に落ち、近所では即売会がないのでお披露目できないとのこと。ネット上での販売は、保証が効かないし、と躊躇していたところ、バイトの伝手で、隅っこの方で良いのならば、と許可を得て出店を出させてもらっただそう。
実際見てみると、綺麗でオカルティックなものがあり、1つ1つの質はとても高そうでした。ただ、品ぞろえはというと、全部で6つしかないという感じで寂しい感じが致しました。
「他は売れちゃったのですか?」とお姉さんが質問しましたが、店員さんは「いえ、最初からこの数ですよぉ。怪しんで誰も近寄ってくれないんです」と、口からよよよと”よ”を漏らしながら答えられました。
ああ、気まずい。
「でも、この青いお手手みたいなアクセサリーとか、綺麗ですね」と秋山さんが気まずさに耐えかねてコメントをしています。
「お目が高いです。そのハムサは特に頑張って作ったんです。あ、後とこの”ファリックチャーム”も……、いえ、こちらはお嬢ちゃんたちには早いですね。見なかったことにしてねぇ。でも、金精さまの依り代だから邪視にはすごく効果があるんですよぃ。あ、こっちのナザールとかどうです。こっちも頑張って作ってみたのですよ。特にこの青を出すのがね、フフッ」と店員さんが早口でニチャァアとした笑顔でセールスしてきます。
誠に申し訳ないのですが、その笑顔に耐えかね「でもお金がもうないんです、ごめんなさい」とセールスを切らせていただきました。
「えっ、あっ、そう。そう、かぁ。うーん」と店員さん。少し申し訳ないんですけど、無いものはないからですね。お財布の中には1000円札が3枚しかないのです。
立ち去ろうとする私たちですが、店員さんがわちゃわちゃしながら、もう一度声をかけてきました。
「あ、そうだ。ならこれ。このナザール、どうかしら?3500円!いえ、3000円」
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莉玖 10歳
ギフト:野伏の感覚 LV 1
*敵意の方向や距離がだいたいわかる
装備品:悪魔の猟銃 LV 1
*単発装填式ボルトアクション式のライフル
**狙ったものに当てやすいが、1日に6発しか撃てない
実際の魔女の夜にあたる”ヴァルプルギスの夜”は、女子修道院のシスターさんの偉業をお祝いする日です。対邪視、対黒魔術の呪術的防御バフがかかり、流行感染症(ペストや百日咳)への身体的防御バフのための追儺、祓の儀式らしいのです。日本でいうところの6月30日の”夏越しの大祓”みたいなものでしょうか。
何故、コロナ禍の時に流行らなかったのでしょう(アマビコは流行ったのに)。