始業日/その辺にいる100万円
日常に潜む怪異が出てくる回です。
でも戦ったりはありません。
4月最初の登校日には、イベントが盛り沢山です。
まずは、クラス替えでございます。5年生の教室の前には、自分がどのクラスなのかを記した紙が貼ってありました。みんなも紙を見ては「また、おんなじクラスだな、よろしく」「お前とはこれで5年間連続じゃあないか!」「あー、クラス分かれちゃった」「休み時間に遊びに行くね」「私だけクラス違うじゃん!みんな一緒なの、ずーるーい」などと感想を言っておりました。
私は5年2組に所属となりました。
教室に入りますと、黒板に座席表が貼ってあり、あいうえお順に前から座っていくようでございました。毎年のことでございますが、私は一番前の席になりました。後ほど、ホームルーム活動の時に、席替えが行われるのでしょう。束の間の一番前の席です。相変わらず、この時だけは黒板が大きく見えます。
「席替えまで隣、よろしくね」と隣の席の子が声をかけてくださいました。これまでの4年間1度も同じクラスになったことのない子です。「よろしくお願いします」とお返事します。彼女は秋山さんという名前でした。
チャイムが鳴った後、担任の先生が教室に入ってこられました。4年生の時に受け持っていただいたのと同じベテランのおじいちゃん先生です。当麻先生という名前なのですが、国語の時間の朗読で、クラスの大半を眠りに誘うので”ドルマ先生”というあだ名がついています。Nessun Dorma、つまり”誰も寝てはならぬ”からの引用です。このあだ名をつけた人のセンスには驚かされたものでした。
「はい。今年、このクラスを受け持つ当麻です。当麻先生でも、ドルマ先生でも、どちらでも構いません。1年間よろしくお願いしますね」と間延びした声でドルマ先生は仰いました。まさか、最初の挨拶から眠りに誘ってくるとは思いませんでした。歳を追うことに、催眠技術が向上しているように思われます。春の陽気も合わさり、今日のドルマ先生は、かなりの強敵となっております。頑張って起きなければ、必要事項をメモし忘れてしまいます。こんな時、父が飲んでいた珈琲という黒い飲み物が欲しくなります。「前、莉玖が飲んだ時、夜2時くらいまで眠れなくなったからね。飲ませないよ」と我が家の禁則事項になっております。近いうちに、解禁が必要な気がしてまいりました。
ドルマ先生は20分程話され、クラスのおよそ半分が夢の世界に旅立った後、「では、席替えをしましょうか」とおっしゃられました。
目が悪く、配慮のいる子を除いて、くじ引きです。引いてみますと、窓際の後ろの席でした。「いいなー」という声を受けながら、自分の荷物を持って移動します。
「また、隣ね。よろしくね」と秋山さんが声をかけてくれました。先程声をかけてくださった秋山さんがお隣でした。「こちらこそ、秋山さん」とお返事をかえします。楽しい1学期になりそうな気がしてきました。
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最初の日が終わり、下校の時間になりました。全国の学校と同様に、登校の時と同じように下校の時も班で行動して帰路に着きます。怪異や不審者への対策です。しかし、今日は6年生のホームルーム活動がまだ終わっていないのか、数組の班がまだ校庭でウロウロしていました。
私の班も、お姉さんがいませんので、出発できません。
よく見ると、今日仲良くなった秋山さんの班もまだ出発していませんでした。ちらりと見ていると、秋山さんと目があいました。
「そちらも6年生が揃わないの?」「そうです」「私のところも」と時間つぶしに花が咲いてしまったのは仕方のないことなのでした。
秋山さんと、お話をしていると、お互いの班の下級生の子が何やら騒いていました。
「そっち行った」「すっごい跳ぶよ、気をつけて」「先生呼んできて」という声が聞こえます。
2人で近寄って見てみると、校庭の隅の方に何か、縄のようなものがいました。
その縄は「チーッ」と威嚇しております。ずんぐりむっくりな腹部をした縄のようなものは、よく見れば棍棒のようにもみえ
「つ、つちのこじゃないですか!」と思わず大きな声を出してしまいました。
「お姉ちゃん、しー!」「逃げちゃうでしょ、逃がしたらお姉ちゃんのせいだよ」「100万円が逃げちゃう」と批難轟轟でした。いえ、分かります。”河童狩猟許可証”を市役所に申請しに行った時に、ポスターが貼ってあり、職員さんたちがやたらと耳に残る音楽と共に踊るPV映像(つちのこのこのこ こしたんたん、なる怪奇なフレーズが延々と続く妙な歌)が流れておりました。映像の最後に報奨金100万円を手にした猟友軍の方の作り笑顔も印象深かったので覚えているのでしょう。
「お酒を呑ませて眠らせるんでしょ」「お酒なんて持ってないよ」「それ、八岐大蛇じゃない?」「いびきをかいて寝るところとかおんなじだよ、一緒だって」「そうかな」と話しがごちゃごちゃになっております。
そうこうしておりますと「みんな、お待たせしました。何やっているの?」とお姉さんがやってきました。下級生がみんな集まってきます。「つちのこ!」「100万円!」「先生呼んできて!」と一斉に声をかけてきました。流石お姉さん。カリスマ性があります。
しかし
「あ!包囲から逃げた!」と1人が大きな声を出しました。見てみると、みんながお姉さんの方に集まったことで隙間が出来、そこからつちのこは、気持ちの悪いくらいのスピードで尺取移動をして逃げて行ってしまったのでした。
「あれだと、網とかないと捕まえられないわね。さあみんな、自分の班に戻ってね。3丁目班のみんなは点呼するよ。明日、また妙見さまに見てもらった時に、もしかしたら分かるかもしれないから。我慢だよ」とみんなをまとめたのでした。
その帰り、みんなで100万円あったら何を買うかを話しながら帰路についたのでした。
私としてはBVLGARIのチョコレートを満足するまで食べたいな、とか考えていました。
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翌朝。姿見の中で、優雅に珈琲を飲みながら新聞を読んでいるヤギおじさんから「この辺でつちのこを捕まえた奴がいるみたいだぞ。ラッキーな奴もいるもんだな、ガハハハッ」と言われ、しょんぼりしたのでした。
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