河童②/莉玖ちゃんは準備完了
続けて3話まで書かせていただきました。
御笑読いただければ幸いです。
ファンタジー作品で、モンスターを倒したらお金を貰える説明があると思います。そんな回です。
河童。
水に棲む怪異の一つでございます。
小さいものでも私たち子どもくらいの大きさがあり、大きいものでは2mを超過すると言われる怪物でございます。その頭部には、お皿のような器官があり、そこには常に水が満ちております。河童は、この皿の中の水をもって、陸上で呼吸をしているらしいのです。
特徴はお皿だけでありません。お皿の周りには角のような器官もあります、この角は年月が経つにつれ伸びるようなので、どのくらいの生存個体なのかを確かめる指標となるそうです。また、魚類と猿を混ぜたような顔は年月を経ると爬虫類のように変化し、鱗のある人じみた四肢は首も含め、年を経るごとに伸びていくのだそうです。そちらもまた指標となるのだそうです。
鱗猿とは言え人に近かった容姿は、長い年月を経ることで、”龍”のように変わり、力も強くなり脅威が増すのだそうです。そうなると河童から”龍”へと呼称が変わり、地元の自警団、消防、猟友軍、軍警察とが連携し討伐にあたる必要が出るのだそうです。
発見された龍の中で特に大きかったものは、5mを超えており、鱗は硬度を増したことで銃弾をはじき、肉に到達しないため討伐に苦慮したと記録に残っておりました。力強く長い四肢から振り出される暴力で少なくない犠牲が出たと、ニュースにもなったことがあるそうです。
そのため、行政は、河童が龍にならないよう、早期発見、早期対処を報奨金を出してまで推進しているのだそうです。
その河童は元々、どこかのお寺の建築の際に造られたホムンクルスの成れの果てだそうです。河童を生みだした呪術師は、その辺にあった木材の破片や泥などから彼らを造り、労働の後、不法投棄したそうです(なんだかかわいそうです)。そして捨てられた河童は、同様材料で再生増殖するようになり、媒介となる水が有り続ける限り、何処かで生み出され続ける感染呪術となり、現在も災いを広げて続けているのでした。つまり、河童は人災だったのです。
そう、おじいさんが河童の由来と生態(?)を教えてくださいました。
「詳しくは本を読んで勉強しなさい。何を言いたいかっていうとな、つまりは河童は生き物じゃあない。なので、命を奪うとか、そういう倫理観やプレッシャーは感じんでよいんじゃな。じゃが、放置すれば、人間や馬なんかの動物の命が狙われる。じゃから、見つけたら撃たなくちゃならん」
そういった後、おじいさんは私と父から離れ、銃を構えました。河童に照準を合わせ「耳をふさいどれ」とおっしゃられました。
パァーンッ
銃声の後、びりびりと振動が私の身体を襲いました。河童は、と申しますと、眉間に穴が空いておりました。しばらく直立しておりましたが、数秒すると仰向けに池に倒れ、水音をたてたのでした。それと同時に私の感じていた敵意は消えてなくなったのでした。
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「あれが河童の残り滓じゃ」とおじいさんが撃った河童を指さしました。
そこには、先ほどまでの鱗のついた猿のようなものはなく、泥と材木の破片で出来たいびつなヒトガタが水に浮いていたのでした。そして、そのヒトガタの真ん中に半透明の小さなお皿が浮いておりました。これが河童のお皿なのでしょう。父の言っていた3000円のお皿です。
「こんくらいの河童なら、体の芯のどこかに当たれば、土くれに戻るんだわ」とおじいさんは笑顔でおっしゃいました。
「お嬢ちゃんの銃なら、思ったとおりに当たるじゃろうからなぁ。河童なんぞ目じゃないだろうよ。じゃけんど、頭にある皿には当てちゃなんねぇぞ?討伐の証明に使うから、割れてなくなったら証明が出来んことなる。そしたら、なんで撃ったのか書類を書かなきゃならんことなるぞ?いいな?」
「承知いたしましたわ」
そう言うとおじいさんは笑顔になり、私の頭をなでてくださいました。
「しっかり勉強して、はよ試験に受かってくれ。良いブッパさんになること間違いなしだ。おじちゃんの仕事を減らして、助けてくれ。ははは」
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それから必死になって勉強をいたしました。免許の試験はとても難しかったです。分からない言葉の意味を調べたり、大人の人に聞いたりをずっと繰り返しておりましたら(ヤギおじさんは教えてくれませんでしたし、時々明らかにわかる嘘をおっしゃり惑わそうとしてきました。もうっ!)、あっという間に4ヶ月が経っておりました。もちろん、その間も射的の練習は欠かさずしておりました。
そしてようやく小学校4年生の春休みに試験を受けたのでございます。難しかったのですが、勉強の甲斐あり、なんとか合格点を得て、晴れて”猟銃所持許可”と”銃猟免許”を取得したのでございました。
「ようやく嬢ちゃんも銃を持ち歩けるようになったか。思ったよりも長かったなぁ」
「10歳の脳には、あの文章は難し過ぎましたのよ」
私とヤギおじさんは、いただいた証明書状を挟んで、座談に花を咲かせていたのでございました。
「まぁおめでとうよ。これで何の問題もなく銃で身を守れるようになったわけだ。うんうん。これはよ、俺の悪魔的勘によるものなんだがな。嬢ちゃんの来年は波乱万丈な1年間になると思う」
「はぁ、なんでです?根拠はございます?子どもの厄年って13歳ではなかったでしょうか」
「虚空蔵菩薩詣りなんてよく知っているなぁ嬢ちゃん。いや、そういうのと関係なくだな。多分なんだがよ、とんでもないことが起きるんじゃねぇかって思ってる。期待してる、ってのが正解だな。よく言うだろ?”神は乗り越えられる試練を与える”って。嬢ちゃんにはとんでもない試練が降り注ぐんじゃあねぇかって思うわけよぉ。だが、そのための俺よぉ。大船に乗ったつもりでいていいぜ、ガハハハッ」
「その船、タイタニック号じゃないとよろしいのですけれど。なんだか、4月からが恐ろしいですわ」
莉玖のこの予感は、彼女の放つ銃弾と同じように、それは見事に的中することになるのでありました。
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莉玖 10歳
ギフト:野伏の感覚 LV 1
*敵意の方向や距離がだいたいわかる
装備品:悪魔の猟銃 LV 1
*単発装填式ボルトアクション式のライフル
**狙ったものに当てやすいが、1日に6発しか撃てない
お読みいただきありがとうございました。
河童のホムンクルスの元ネタは、奈良の春日神社の建造のエピソードです。