莉玖ちゃんの七五三詣り/悪魔からの贈り物
趣味っぽい冒険物が書ければと思います。
ちみちみ書いていきます。よろしくお願いいたします。
七五三詣りという行事がございます。11月の15日に氏神様に挨拶をする行事で、私たち子どもの成長と安寧を祝う祭りごとでございます。
私の近所の七五三詣りは、一般的なものと大差なく、3歳の時に氏神様に顔見せをする形式のものでございます。顔見せの際に氏神様に両親が子どもの名刺を渡し、顔と名前を覚えてもらうといった一般的なものです。これが大変重要でして、名前と顔を覚えていただいた氏神様が、5歳の時のお詣りの時に”生きていく上で必要な才”を授けてくださり、7歳の時に”生涯ともに歩む者”を紹介してくださるのです。ですので、七五三詣りを忘れたり、両親の態度や子どもの態度が悪かったりすると、氏神様からの覚えが悪くなり、”才”も”縁”もいただけないことがあるというのです。
更には、いただいた”才”の方は確実に物になりますが、”縁”は結びが弱ければほどけてしまうこともございます。そのため、幼少期から両親より「しっかりとコミュニケーションの取れる子になりなさい。それが生きていく上でとても重要なことなのだ」と厳しく教えられるのでした。私も挨拶塾に通っていたと聞き及んでいます。
3歳の時の記憶は朧げなのですけれども、山の中にあるお社で、顔を能面で隠した大きな鹿さんに挨拶したような記憶がございます。あの大きな鹿さんが氏神様だったのでしょう。後から「言葉足らずながらにしっかり挨拶出来ていたぞ」と両親から褒められたのは覚えております。
時間を経て5歳の時。七五三詣りで再び訪れた山の中のお社で、再会いたしました氏神様の鹿さんより「2年間、あなたの才を考えました。あなたには”野伏”の才を授けます」とお言葉をいただいたのを覚えています。
その後くらいからでしょうか。時折、変な感覚、ゾワゾワァが背中に走るようになったのです。それが”向けられた敵意の方向と距離がある程度感じられるようになるもの”だったと分かったのは、最近なのですが。おかげで君子危うきに近寄らずの故事の如く、敵意のある方を避けて通る生き方となったのでした。
更に時間を経て、7歳の挨拶の時。鹿さんは「”彼”と良き友となれることを祈っていますよ」とおっしゃられました。お社からの帰りの車の中で両親と「どんな方がいらっしゃられるのだろうね」と話しました。そして、家に帰りつき、自分の部屋に入った時、部屋の中の姿見にヤギの角の生えたおじさんが映っていたのをみて、悲鳴を上げたのを覚えております。悲鳴を上げた私をみてそのヤギおじさんは声を出して笑っていました。なんともムカつく奴だと思ったのを今でも覚えています。
そのことを含め、両親に伝えましたが、両親の眼には見えない”友”なので、「失礼のないようにしなさい」と一言だけ注意をされました。
「よろしくな、嬢ちゃん。嫌になったらいつでも言ってくれ。いなくなるから。ガハハハッ」がヤギおじさんの最初の一言でございました。
ヤギおじさんは自分を”悪魔”と呼称されておりました。あの態度からはまさに、と言った感じでございました。氏神様からの縁で悪魔と繋がりが出来るとは、思いもいたしませんでしたが、「悪魔というのはな、元々人間に興味があってな、商売だったり、契約だったりを切っ掛けに繋がりを持ちたがるんだよ。俺もだがな、ガハハハッ」とおっしゃられておりました。
「3年後。嬢ちゃんが10歳になるまで、俺と縁があったら、俺が良い物をくれてやろう。生きにくい世の中だからな、自衛を身に着けるには、俺の力はちょうどいいぞ、ガハハハッ」
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そんな会話あった日からあっという間に3年が経ちました。私も10歳になり、小学校ももうすぐ5年生です。来年には登下校の班行動でも副リーダーを指名される学年でございます。
この登下校班というのは、変なものが顕現する世の中において、子ども同士で身を守り合うのにとても重要なのです。勿論、”緑のおばさん”もいらっしゃるのでよほどのことはないのでしょうが。
そんなある日、ヤギおじさんから「ついに来年は小学校5年生か。月日が経つのは早いな、嬢ちゃん。あっという間におばあちゃんになるかもな」なんて下らないことを言われました。3年が経ち、段々とフランクさが増してくるヤギおじさんですが、私をからかうのがとても楽しいようで、酷いことをおっしゃるのです。
「ふてくされるなよ、嬢ちゃん。ちょっと早いが進級祝いをくれてやろうと思ったんだ。ほれ、姿見の裏を見てみな」
後ろには、筒の長い銃が置いてありました。
「これは、ピストルじゃないですね。あれですね。ごんぎつねの挿絵でみたことがある奴です」
「いや、あれは火縄銃だ。違うぜ、嬢ちゃん。これは嬢ちゃんの爺さんの家にあった奴を、そういや爺さんはマタギかなんかだったのか?18年式なんかが飾ってあるとは思いもしなかったぜ。まぁ、それよ。それを嬢ちゃん用にカスタマイズしたもんだ。俺は元々銃に造詣が深いからな。この程度はお茶の子さいさいってもんだ」
「両親に見せてきますね」
「おおよ。持ち歩いたりするのに手続きとかいるだろうからなぁ。その辺も相談しておけ、ガハハハッ」
夜、父が仕事から帰宅してきた時に、ヤギおじさんからもらった銃をお見せしました。
「おお。親父の村田銃じゃないか。いや、少し小さいか?ヤギのおじさんからもらったのかい?」
「はい。ヤギおじさんからいただきましたの」
「そうか。なら今度の休みに、”猟友軍”の人たちと顔合わせをしようか。莉玖は”狩人”の才じゃなかったら、向こうと面識はないだろう?せっかく銃をいただいたんだ。使わないと勿体ない。猟友軍で”猟銃所持許可”と”銃猟免許”もその時に申請しよう。それと市役所に行って、”河童狩猟許可証”も申請しないといけないな」
「河童って私でも撃ってよろしいのですか?」
「免許があれば撃っていいんだ。アレは、まぁ害獣、だからね。討伐したら、残ったお皿を市役所に持っていってごらん。3000円の報奨金がもらえるようになる」
「俄然やる気が出てきました」
「でもね、莉玖」
父が真面目な顔で私を見つめます。
「銃は人を傷つけることもある。決して注意を疎かにし、優越感や万能感に浸ってはいけないよ。足元を掬われて、大事な娘をなくしてしまっては、父さんも母さんも悔やみきれないからね」
「承知いたしました。肝に銘じておきますわ」
「うん。それで良いよ」
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莉玖 10歳
ギフト:野伏の感覚 LV 1
*敵意の方向や距離がだいたいわかる
装備品:悪魔の猟銃 LV 1
*単発装填式ボルトアクション式のライフル
お読みいただきありがとうございました。
河童の討伐報奨金を3000円としたのは、アライグマみたいなものだからとご理解いただければ幸いです。