「仕事」について⑧
「買ってきてやれよ、お前、弟だろ」
「は?」
「プリン、買って来てやれよ」
要するにここぞとばかりに父親面を見せつけ始めてくれたわけである。先ほどまで酔いつぶれてほとんど白目を剥く感じになっていたにもかかわらず、いきなり打って変わって横柄な態度を取り始めることのできる厚顔無恥さには、もはや反論する気力さえ沸かない。マジで、本当に、なぜそんなに偉そうな真似ができるのか?
だがそれでもわずかに残っていたらしい「(人間としての)尊厳」が、私の口をかろうじてこじ開ける。
「なんで俺が……?」
「弟がお姉ちゃんの言うことを聞く、それのどこがおかしいんだ?」
「……」
初めから重々承知していたが、まともな言葉の通じる相手でないことが改めて知れたので、私は一つ小さくため息をつくと、パトロール時の制服である野球のユニフォーム姿のまま再び外に出た。もちろん単に「出た」だけでなく、今まさに自分に期待されているらしい、「プリンを買う」とか何とかいうクソみたいな役割を律儀に果たそうとしたのである。繰り返しになるが、ついさっき戻ってきたばかりというのにだ!
何かを考えるとおかしくなりそうだったので、無心でマンションの階段を駆け下りた。
しかしそういう時に限って、「誰か」が声をかけてくるものである。
ちょうどエントランスに足を踏み入れたタイミングだった。
「よお、久しぶりだな」
こちらが急いでいる様子なのを気にも留めず、無遠慮に話しかけてきたらしい人物を一瞥した私は驚き、足を止めた。
「どうした? ぼおっとして、というかそれ、なんて恰好してんだよ」
「……いや、お前、……もしかして、ナカムラか?」
そう、その時目の前に現れたのが、あの、ナカムラだった。