「仕事」について④
階段を六階まで上る。上がれば上がるほど見晴らしはよくなるものの、数多くの段を連続して上り続けるのは、なかなかどうして大変な作業である。生まれてからこれまでずっと繰り返してきたことではあるが、いつまでも慣れることができない。もちろん、その「大変さ」のほとんどは、精神面のしんどさに由来しているのだが。
例によってパトロールから帰ってきたタイミングだった。その日2度目、昼過ぎの見回りの後で、だいたい15時になるかならないかと言った時間帯だったと記憶する。4月の半ばで、父親が仕事を辞めてから早くも3ヶ月以上が経過していた。その間、財政面で不自由を覚えた記憶はないので、たぶん家計的には蓄えがそれなりにあったということなのだろうが、反面、全く活動を再開する気配のない父親の姿に、さすがにそろそろ収入源を見つけなければならないと、私の方がひどく焦り始めていた。
目的の階まで上り切った後は、西日が強く差し込む廊下をゆっくりと進む。
八階建てマンションの602号室、鍵穴にキーを差し込む時、いつもわずかながら躊躇いの気持ちが生じる。しかし結局のところ私は、それを捻り、扉を開錠し、中に入っていかないというわけにはいかない。
玄関で靴を脱いでいる時だった。
「大きな」というよりも、地鳴りのように「慌ただしい」足音が響いてきて、ぎょっとした私は反射的に息をひそめた。
「あ、やっと帰ってきたあ、お帰りい」
顔を上げるまでもなく、声を聞いただけで誰が近づいてきたのかがわかった。端的に言えば、「姉」である。




