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第四十九話 京子先生にどうしても会いたくて

「ふわああ……今日も疲れたな……」

 夜勤を終えて、眠い目を擦りながら、家路に着く。

 ビジネスホテルではあったが、外国人なんかも利用しているので、その対応が色々と難しいし、なかなか仕事がハードだ。

 しかも、夜勤だから、生活のリズムが狂ってしまうのがしんどい。


 あー、何となく格好いいかなと思って、ホテルマンを選んでしまったが、やっぱり現実は甘くなかったか。

 変な客もいるから、クレーム対応とかも地味に面倒だ。

 まあ、仕事内容より何より……。


「ただいま」

 と、誰も居ない家に帰宅し、静まり返った室内を溜息を付きながら、歩いていく。

 いやー、京子先生との時間もなくなってきているのが地味にしんどい。

 俺も先生と会えないのが、流石に寂しくなってきた。


 あの人も今は仕事が忙しくなっているんだが、こうもスレ違いが多いと、こうして一緒に住んでいる意味って何なんだろうって思ってしまう。

 京子先生が俺にきつく当たっている姿も今となっては懐かしいくらいだ。

「はあ……俺、本当に京子先生の事、好きだったんだな」

 誰もいないキッチンで、朝食のパンをかじりながら、そんな事を呟く。


 休みもシフト制だから、余計に時間が合わなくなってしまった。

 先生に会いたいけど、産婦人科の医者だから、俺が診察してもらえるわけじゃないし、それが余計に辛い。

 いや、京子先生も同じ気持ちなのか? 毎日、俺に会えない事にストレスが溜まっているのだとしたら……。

(はあ、職場選び失敗したかな?)

 ホテルの仕事なんか、休みも時間も不定期なのはわかりきっていた事なんだが、とにかく仕事を早く決めないとと焦ってしまい、後先を考えていなかった。


 とはいえ、まだ転職したばかりなのに、もう辞職してしまうのはちょっとなあ……そうなると、職歴にも傷がついてしまう事になる。

 もうちょっと様子を見たい。

 何てことを考えながら、朝食を終えた後、風呂に入って、夜勤に備えて眠りに就いたのであった。


「英輔さん、起きてください」

「う……はっ! きょ、京子先生っ!」

 ベッドに寝ていた所で、先生に起こされて目を覚ます。

「そろそろ起きないと遅刻するのでは?」

「す、すみません! あの、もう帰っていたんですね」

「ええ。今日は定時に帰れたので」

 思いもかけず、先生に起こされてしまい、慌てて仕事に行く準備をする。


 おかしいなあ……目覚ましはかけておいたはずなんだけど、ならなかったのか?

「あ……スマホのバッテリー切れていたのか」

 これじゃ、アラームが鳴らない訳だよ……うっかり充電するのを忘れてしまっていた。

「はあ……いつまで、この仕事、続けるのよ?」

「え、えっと……夜勤は明日まで何で……それが終わったら、休みですよ」

「その日、私は仕事なんですけど」

「あ、そうでしたね……」

 明後日から休みがあるんだが、その日は京子先生は仕事なのを忘れていた。


 いかん、スレ違いが多すぎて、先生と二人きりの時間がない。

 仕事には慣れてきたのだが、京子先生とイチャつける時間がここまでないとは想定外だった。

「あの……結婚の話は……」

「こんな状況で結婚なんてされても、上手く行くわけないでしょう。英輔さん、その位の事もわからなかったんですか?」


「申し訳ないです! で、でも俺は……」

「ああ、もう良いわよ。さっさと、支度して仕事に行ってください。私も疲れているから、休みたいんです」

「ですね……」

 必至に平謝りするけど、京子先生も呆れたような顔をしてそっぽを向いて、部屋から出てしまい、俺もガックリと肩を落とす。

 いやー、先生の為に仕事を早く決めたんだけど、まさかこんな事態になってしまうとはな……。

 この調子だと確かに、先生と結婚しても上手く行きそうにない気がする。


 もうちょっと考えて仕事を選ぶべきだったが、仕方ない。

 折角決めた仕事なんだから、俺ももうちょっと頑張らないとな。


「うおお……先生との時間が欲しい」

 仕事を終えて、そんな事を呻きながら、家路へと着く。

 自宅のマンションに帰っても、彼女が既に出勤しているはずなので、帰っても意味はない。

 であるなら……。


「ここに行けば会えるかな?」

 自転車を走らせて着いた先は、京子先生が勤めるクリニック。

 ここに来るのも久しぶりなんだが、この時間は先生がいるはずだ。

 とは言っても、外からだと京子先生が居るかどうかも見えないんだよな……診察室は多分、奥の方にあるから、窓からは見えないようになっているし、院内に入る訳にもいかない。


 ちょっとクリニックの建物の周囲を歩いてみるが、先生は……あ、車が置いてあるから、出勤済みなのは間違いないな。

「ん? え、英輔さん!?」

「え……きょ、京子先生!」

 先生の車が停めてある駐車場にまで行くと、裏口から出て来た京子先生にバッタリ会ってしまった。


 おお、白衣を身に纏っている京子先生だ……家で見たことはあるけど、これが正真正銘の女医さんとして働いている彼女の姿なんだな。

「どうしたんですか、こんな所で?」

「え? いやー、はは……先生に会いたくて、ついでに寄ったんです」

「ついでにって……ぷっ、そうだったんですか」

 と、いうと、先生もちょっと呆れた顔をしたあと、ぷっと吹き出す。


「そんな理由でしたか。私は車にスマホを忘れてしまったので、ちょっと戻ってきたんです」

「あ、そうだったんですか。すみません、邪魔をしちゃって」

「いいんですよ。私に会いに来てくれたのであれば嬉しいですよ」

 おっ、怒るかと思ったけど、先生も思いのほか嬉しそうにしたので、ちょっとホッとした。


「くす、実は私もこの前、英輔さんの職場のホテルに行ってみたんです」

「え? そうだったんですか」

「はい。一度、見ておきたいと思って。残念ながら、英輔さんには会えなかったですけど、考える事は同じなんですね」

「す、すみません。全然、気付かなくて……」

 まさか、京子先生も俺の職場に来ていたなんて、全く気付かなかった。

 考える事は同じか……いやー、そうであれば嬉しいなあ。

 俺と先生は心で繋がっていると思うと嬉しかった。


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