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第四十七話 結婚の条件が整ったかと思ったら

「何とか面接まで辿り着けたけど、どうなるかなあ……」

 取り敢えず、近くにあるホテルの従業員募集の求人に応募し、面接を終えるが、手応えがイマイチだったので、肩を落としながら家路につく。


 ホテル業界には少し興味があったが、何となくキツそうな印象があったので、新卒時には応募しなかった。

 まあ、応募しても内定貰えたかは不明だが、今は仕事は選んでられない。

 とにかく仕事を早く見つけて、京子先生と……結婚するのか?


 うん、もうそうするしかないわな。

 京子先生を散々待たせてしまったんだから、こっちもさっさと決めて、先生と正式に一緒になるのだ。

 まあ、苦労はあるかもしれないけど、京子先生を支えたい気持ちはあるからな。


「うーん、今日も遅いなあ」

 家に帰り、夕飯を作って京子先生の帰りを待つが、一向に帰って来ない。

 最近、かなり仕事が忙しいらしく、日付をまたぐこともあり、しかも急患で呼び出しもあるので、それもあって夜も一緒出来ない事が多い。


 何でも女医さんに診てもらいたい妊婦さんも多いようで、京子先生の事を口コミで聞いて、かなりの患者が押し寄せてきているのだとか。

 はあ……何だか、やっぱり俺とは別世界に住んでいるんだな、先生は。

 難関の医学部をストレートで出て医者になって、バリバリ働いて、順調にキャリアを積んでいる京子先生と俺を比較すると、どうしてもコンプレックスを感じちゃうんだよ。


「ああ、もう止めよう、こんなの」

 未だにこんな考えが払拭出来ないようじゃ、先が思いやられるわ。

 今は先生の帰りを待つしか出来ないだろう。


「ただいま」

「あ……おかえりなさい」

 何て考えていると、ようやく京子先生が帰ってきた。

 連日の残業で、流石に彼女の顔にも疲れが出ていたようであった。


「大丈夫ですか?」

「はい。でも、ちょっと疲れてしまって……先にシャワー浴びさせていただきますね」

 と笑顔を無理に作り、京子先生は浴室へとむかう。

 産婦人科の医者って人手不足で大変らしいが、仕事の手伝いが出来ないのがもどかしい。


 看護師とかになれば、先生の手伝いも少しは出来るのだろうかと思ってしまうが、先生のクリニックって、基本女性しか雇ってないぽいんだよな……。

「あの、先生……明日も仕事ですか?」

「え? ああ、そうですね。今、患者さんが多くて大変で……」

 浴室から出てきて、遅めの夕飯を食べるが、心なしか反応が鈍い。


 やばい……これはかなり疲労が溜まっているんじゃないのか?

「たまには休んだ方が……」

「そういう訳にはいきませんよ。患者が待っているのに、どうして私が休めるんですか? 出産はいつ来るかわからないので、私は常に待機しないといけないんです。休んで何かいられないですよ」

 ご飯を食べながら、そう淡々と告げるが、体が壊れちゃうんじゃないかと心配になってしまう。


 でも、先生がそう言うなら、仕方ないと言いたいが、過労死なんかされたら俺は……。

「ご馳走様でした。美味しかったですよ」

「あ、ええ……片づけはしますから、休んでください」

「ありがとうございます。すみません、もう寝ますね。明日も早いので」

 夕飯を食べ終えて、京子先生はそそくさとキッチンを後にしてしまった。

 あーあ、何だか先生がいよいよ忙しくなってきて、寂しくなってきたな。


 数日後――

「本当ですか? ありがとうございます」

「じゃあ、明後日からお願いするね」

 面接の結果がようやく出て、何とかビジネスホテルのスタッフとして働かせてもらう事になった。

 いやー、やっとヒモ状態から脱却出来そうだ。

 といっても契約社員なんですけどね……まあ、それは良いや。

 正社員の登用もあるらしいので、それを信じて頑張るしかないな。


「という訳で、仕事決まりました」

「そうですか。よかったですね」

 帰宅して早速、ホテルの仕事が決まった事を京子先生に伝えるが、先生は生返事をするだけで、特に喜んでいる様子もなかった。

「あ、あの……近くのビジネスホテルなんですけど、問題ありますか?」

「ラブホテルとかでしたら殴っていますけど、普通のホテルならいいんじゃないですか」

「ですよね、はは……」


 微妙にラブホテルへの偏見があるような気がしたが、とにかくこれで一歩前進だ。

「これで結婚出来ますよね?」

「そうですね……本当にいいんですか?」

「は、はい? いえ、そういう約束でしたよね?」

 俺が仕事を決めたから、約束通り結婚することになるので、喜ぶかと思いきや、先生は憮然とした顔をしてそっぽを向いていた。


「英輔さん、契約社員なんですよね。それ、仕事を決めたと言えるんですか?」

「あ、あの……正社員じゃないと駄目なんですか?」

「別に、そういう訳じゃないですけど、英輔さん、あんなに働かせてくれと言っておいて、そんなので良いのかと思いまして。正社員じゃなくても良いなら、いっそバイトかパートでも良いじゃないですか」

「え、いや……正社員の登用もあるらしいので……」

 何だかすごく機嫌が悪いので、困惑しているが、先生は溜息を付きながら、ソファーから立ち上がり、


「私、これから当分忙しくなるんですよ。英輔さんもお仕事なら、ますます会う機会も少なくなりますね。ましてやホテルの仕事だと時間が不規則なんじゃないですか」

「あ、はい……夜勤とかもあるんで」

「き……何で、そんな仕事選んだのよ! 夜中、一緒にいる機会なくなるじゃない!」

「はい? いえ、前からホテルの仕事、興味あったんで……」

 先生がバンっと机を叩いて、俺にそう迫るが、そんなの言い出したら、先生だって夜中に急患の呼び出しがあるじゃん……。


「ああ、もうっ! そんなに私と一緒にいたくないの、英輔は!?」

「い、一緒に居たいから、仕事を始めるんですよ。金の問題じゃなくて、俺も少しは……」

「ああ、そうね。あんたの自己満足に付き合わされた私がバカだったわ! 結婚はしばらく様子見ね。今のままだと上手く行きそうにないから!」

「え、そんな……」

 折角、京子先生の為に結婚を決めたって言うのに、思いもかけない事を言われて、落胆してしまう。


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