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第四十五話 女医さんとの結婚をどうするか

「ふふ、ねえ英輔。ウェディングドレスはどれが良い?」

 京子先生が何処からか貰ってきたのか、ウェディングドレスのカタログを俺に見せつけて来た。

 先生みたいな美人なら、どんなドレスでも似合いそうだなーと思うが、未だに乗り気はしなかった。


「ねえ、聞いてる?」

「聞いてますよ。どれも先生には似合ってます」

「むう……真面目に選んでよね!」

 ちょっと投げ遣りな口調でそう言うと、京子先生も気に入らなかったのか、カタログを床に叩きつけて、立ち上がる。


「すみません。でも、京子先生は綺麗だから、どんなドレスも似合うってのは本当です」

「つまんないわね、そういうの。、英輔の気に入ったドレスを着てみたいと思ったのにさ」

「よくわからないんですよ……機嫌、直してください」

 急に京子先生の機嫌が悪くなってしまい、何とか宥めようとするが、先生はキッチンに向かい、ウィスキーの瓶とグラスを取り出して、一杯飲む。


 あまり、酒は飲まない人なんだが、最近は急に酒を口に入れる事が多くなってきていた。

「私だってさあ、我慢の限界ってものがあるのよ。いつまで結婚を引き延ばす気?」

「あのー……そんなに焦る必要あります? まだ、付き合ってそんなに経ってない訳ですし……」

「何年付き合ったって、上手く行かない人はいかないの。この前、私の家に行った時に食堂で会った美奈ちゃん覚えているでしょう? 彼女だって、旦那さんと五年以上付き合ってから、結婚したのに、あっさり離婚しちゃったのよ。わかる? 何年付き合おうが、別れる時はすぐなんだからね」

「ああ、それはわかります」


 交際期間が長ければ、結婚生活が円満になる訳ではないってのは、俺もよくわかるし、長ければ良いってもんじゃないってのは正論だろう。

 しかし、俺達はそのだな……馴れ初めがかなり特殊というか、いきなり同棲しちゃったんで、心の整理が付いてないと言うか。

「ほら、飲みなさい」

「いただきます」


 京子先生にかなり高価なウィスキーを差し出されたので、遠慮なくグラスに注いでいただく事にする。

 やっぱり、女医さんだけあって、普段飲んでいる酒も違うんだなと感心してしまったが、そんな所からも俺との格差を感じてしまった。


「英輔、どんな酒が好き?」

「ビールか日本酒ですかね」

「そう。ビール、良く買っていたもんね」

「え? 何で知っているんですか?」

「くす、お隣さんだったんだし、よくマンションの前のコンビニ利用していたでしょう。見ているわよ、そのくらい」

 マジか……そんな所まで先生に見られていたのか。


「はは、まいりましたね。全然、気付かなかったです」

「ふふ、私の事なんて眼中にもなかったって感じ?」

「そんな事はないですけど……ただ、綺麗な女性だなって思っていただけですよ」

 眼中になかったって事は全くなく、仕事を辞める前から、ずっと気になってはいた。

 顔を合わせれば挨拶をするくらいだったので、何をしている人なのかも知らなかったが、凛とした感じで、いかにもキャリアウーマンって感じの美人さんで……。


(まさか、こんな性格の人とは思わなかったけどな)

 俺にとっては高嶺の花だと思っていたから、同棲して結婚を迫られるなんて、夢にも思わなかったな。

「結婚してくれるわよね?」

「しますけど、もうちょっと……」

「きっ……やっぱり、止めたわ。んぐっ!」

「え?」

 もう少し待ってくれと言おうとした所で、京子先生はグラスに注いであったウィスキーを一気に飲み、


「英輔の方から結婚してくれと言うまで、してやらないことにした」

「え? いや、どうしたんですか、急に?」

「どうもこうもない! 私の気が収まらないの! ああ、あんたといると本当にイライラする……何が不満なのか言いなさいよ」

「いえ、不満というか……先生との結婚って言うのが実感湧かなくて……すみません、気を悪くさせたのなら、本当に謝りますから」

「謝るだけなら、誰でも出来るの。行動と口で示しなさい! ほら、婚姻届けよ! あんたに預けるわ。それを出す気になったら、私に言って」

「きょ、京子先生?」

 既に記入済みの婚姻届けを机に叩きつけて、リビングを去っていく。


「どうしちゃったんだろうな……」

 あれだけ問答無用で結婚しろと迫っておいて、この心変わり……酔っているんだろうか?

 まあ、優柔不断過ぎて、苛立っているのはわかるけど、こんなチキンな男に拘る理由がよくわからないんだよなあ。


「先生、いいですか?」

「何……?」

 その後、京子先生の部屋に行き、ベッドで不貞寝していた彼女に声をかける。

「あの、怒っているんですか?」

「怒っているに決まっているでしょう。結婚する決意はまだ固まらないの?」

「えっと、まだ早いかなって……うおっ!」

 というと、京子先生は俺の顔に枕を思いっきり投げつける。


「そういう態度よ! ああ、気に入らないわ……どうしてくれよう、この苛立ち」

「わかりました。じゃあ、今夜も……」

「もう抱いたくらいじゃ、機嫌は直らないわよ」

 先生を抱こうとすると、京子先生も膨れた顔をして、俺の胸に顔を預ける。


「あの、そこまで俺と結婚したい理由教えてくれませんか?」

「ふふ、そう。好きだからってのと、憎いからよ」

「憎いって、何でです?」

「私の心を散々弄んで置いて、別れて自分だけ幸せになろうなんて絶対許さない。責任取って、私に死ぬまで尽くしてもらうわ。出来るわよね、責任を感じているなら?」

 何だかよくわからない理屈だが、憎いってのは、俺が優柔不断な態度を取った事への怒りだろう。


 そこは申し訳ないと思ってるんだけどさあ。

「何で私との結婚が嫌なのよ?」

「まだ、先生と釣り合いが取れないんじゃないかって思いが拭えなくて」

「ふん、くだらない。周りの目なんか気にしなきゃ良いのに」

 そりゃそうだが、周りの目だけでなくて、俺自身の心がどうにもなあ。


 俺から見れば、上方婚って事になるんだろうが、


「先生も普段、お酒飲むんですよね?」


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