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第四十一話 京子先生を両親に紹介したが……

「さあ、行きますわよ」

「待ってください、京子先生」

 日曜日になり、約束通り、京子先生と一緒に俺の実家へと行く事になってしまい、先生に手を引かれて家を出る。

 正直、ちょっと気が重いんだが、両親に挨拶したら、もう後戻り出来そうにないので、覚悟を決めるしかないか。


「うーん、良い天気ですね。英輔さんの御実家までもうすぐですね。ストリートビューで確認済みですが、実際に見るのは初めてなので、緊張してしまいます」

「はは、別に普通の家ですよ」

 今は便利な時代になったもので、実際に現地まで行かなくても、住所を入力しちまえば、どんな家か分かってしまうので、ちょっと複雑な気分だ。


「えへへ、こうしてふたりで電車に乗るのも良いですね♪」

「そうですか?」

「はい。デートって感じがするじゃないですか」

 俺の腕を組みながら、京子先生が嬉しそうに甘えて来た。


 何だか緊張しちゃうな……もう、こんな事で喜ぶような段階は過ぎ去っているのだけど、こうやって俺にイチャついている姿はまるで十代の少女みたいなあどけなさを感じてしまう。

 この人も普段は、白衣を着て、医者として活躍しているんだな。

(この人が本当に俺の嫁に?)

 そう思っても、全く実感が湧かない。

 本当に良いんだろうかと思ってしまうし、いわゆる下方婚という奴だろう。


 彼女が年上で美人な上に、高収入……いや、傍から見れば羨ましいんだろうけど、俺がその身になると、結構精神的にきつい。

「そうだ、今日の夕飯はどうしましょうか?」

「え? 夕飯ですか?」

「そうですわよ。折角ですし、英輔さんのご両親とディナーをご一緒したいです。私が費用は出しますから」

「いえ、そこまでは……悪いですよ」

「んもう、どうしてです? 遠慮なさることはないですのに」


 どうせ、もうすぐ義理の親子になるんだからと言いたいんだろうが、別にウチの両親に高い飯を奢ってやることもないし、親父もお袋も恐縮してしまうだろう。

 てか、俺がむしろ風当たり強くなりそうだが……大丈夫かな? 不安になってしまった。


「ただいま……」

「あら、本当に帰ってきたのね。そちらの女性は?」

「え、えっと……」

 何て考えている間に、遂に実家についてしまい、お袋が訝し気な目で京子先生を見る。

 一応、彼女を連れて来るとは事前に言ったんだけど、冗談だと思ったのか、先生を見て、信じられないような顔をしていた。


「はじめまして。英輔さんとお付き合いさせていただいている、宇田島京子と申します」

「えっ!? 英輔の彼女さん……ほ、本当に? こんな美人さんが?」

 案の定、ビックリして目を丸くしていたが、まあ気持ちはわかるよ。

 信じられないだろうな、俺が京子先生みたいな綺麗な女性を連れて来たなんてさ。

「メールで言っただろ。彼女、紹介するって」

「だ、だって、絶対冗談だろって、お父さんとも言ってたし……ああ、ごめんなさい。ちょっと、待っててくださいね」


 どうやら、全く信用されていなかったみたいだが、何より京子先生みたいな美人が来た事に狼狽してしまい、お袋も慌てて家の片づけを始めていったのであった。


「どうぞ」

「あ、おかまいなく……」

 お袋も親父も緊張した面持ちで、京子先生と俺を居間に案内し、京子先生にお茶を差し出す。

 俺も両親も緊張しているのだが、先生はいつも通りの感じで、初対面であるはずの俺の両親と対面していた。

 この人、緊張とかしないのかな?

 考えてみれば、毎日初対面の患者を診察している訳で、人見知りなんかしていたら、女医なんて絶対に出来ない訳だが、それにしたってもうちょっと表情を険しくしても良さそうなもんだが。


「京子さんでしたっけ? ウチの息子と付き合っているって本当ですか?」

「本当ですわよ。もう同棲もしている仲ですし」

「ぶっ!」

「えっ! ど、同棲っ!? あんた、そんな事、一言も言ってなかったじゃないっ!」

「い、いや……その、恥ずかしかったんだよ」

 同棲していることまで、笑顔でさらりと言ってしまい、お袋も俺に血相を変えて問い詰める。


「ああ、そういう事か……仕事辞めたばかりなのに引っ越しなんて変だと思ったら、彼女の家に同棲していたんだな」

「あ、ああ……」

「え? ちょっと待って。英輔、あんた、今無職なのよね? じゃあ、今、生活費って……」

 う……ああ、そうだよ。京子先生のヒモだよ。


 ようやく俺の現状を理解してきたウチの親父もお袋も段々と引き気味の顔をしている。

 本来なら、美人の彼女を連れて来た事は、喜ぶべき事なんだろうが、俺みたいな凡人が明らかに不釣り合いな美人を連れて来た上に、しかも息子を養っているとあればそりゃ引きますわな。


「あのー、京子さん、失礼ですけど、お仕事は?」

「今、産婦人科の医師をしていますわ」

「い、医者っ!? 女医さんがどうして、英輔なんかと?」

「ふふ、元々、前のアパートでお隣同士だったんです。それが縁で、色々あって、お付き合いをはじめまして」

「ああ……そうだったの」

 一応、経緯としては間違ってないのだが、やっぱり信じられないと言う顔をして、親父とお袋はヒソヒソ話をしている。


 もしかして、騙されているんじゃないかというくらい、険しい顔をしているが、そりゃ女医と付き合っているなんてビックリだよな。

「英輔、ちょっとこっち来なさい」

「何だよ?」

「すみません、席を外しますね」

 両親が俺を手招きして、居間から退出し、近くの台所に招く。


「どういう事? 本当なの、彼女の言っている事?」

「医者をやっているってこと? 本当だよ。医師免許も見せてもらったし」

「かああ……本当なら、なおさらおかしいわね。何で、あんな綺麗な女医さんがウチの息子なんかと。ちなみにおいくつなの?」

「二十七だよ」

「ああ、やっぱりあんたより上なのね。ますますおかしいわね……騙されているんじゃないの?」

「こら、あの子に失礼だろう。お前、本当に良いのか? どう考えても彼女と釣り合ってないだろ」

 親父もお袋も、俺が社会的なステータスが最強クラスの女医さんと付き合っている事がお気に召さないようだが、俺だって、悩んでいるんだよ、そんなの。


「良いも何もないだろ。俺が女医と付き合って、何か悪いの?」

「悪くはないけど……何か心配になっちゃうわ。あんた、今、彼女のヒモじゃない。もっとしっかりしないと絶対に捨てられるわよ」

 俺が気にしている事を、ズバズバ言いやがって……二人の反応は予想通りだけど、それでももうちょっと祝福してくれても良いだろうに。


「仕事ならすぐに見つけるから、心配しないで」

「本当よ。今のあんた、恥ずかしくて、とてもじゃないけど、ご近所さんにも何をやっているか言えない状況なんだからね。ましてや、女医さんのヒモなんて……ああ、まさかこんな事になるなんて……」

 よっぽどショックだったのか、お袋は立ち眩みを起こしそうになる。

 こういう反応されるから、京子先生を紹介するの嫌だったんだよな。

 せめて、転職してからと思ったけど、京子先生がどうしてもって言うから、会わせてみたら……俺だけがボロクソに言われる始末だよ。


「お待たせしましたー。すみません、これ、この前九州に旅行に行った時に買った物なんです。良かったら、どうぞ」

「あ、ありがとうございます。それで、お父様、お母様。私達、結婚を考えているのですけど、息子さんの元に嫁がせてもらっても宜しいでしょうか?」

「はあっ!? け、結婚って……」

 旅行のお土産に買った菓子折りを、京子先生に差し出した所で、先生がまた爆弾発言をし、両親を驚かせる。



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