第四十話 女医さんに養われる羽目に
「ふむ、特に体調面で問題はないという事ですね」
「はい」
先生と結ばれてから、早くも二週間が経過し、今日は何故か白衣を着て女医モードの京子先生に問診を受けていた。
あれから、ほぼ毎晩、俺と先生は一緒に寝ている。
先週、夜中に急患があった時だけは、京子先生とご一緒出来なかったが、それ以外はもう……ね。
「最近はようやく改善の兆しが見えてきましたが、英輔さんの御病気は重症ですからね。長期の治療と経過観察が必要になると言う事を覚えておいてください」
「あの、俺の病気って……」
「決まっているでしょう。優柔不断で恋愛恐怖症とでも言いましょうか。本当に呆れるくらいの重症だったので、私も手の施しようがないと思っていましたが、やっと治療の成果が出て来たようですね」
「はは……すみません」
俺がヘタレてしまったせいで、京子先生に不快な思いをさせてしまい、申し訳ないと言う気持ちでいっぱいになってしまったので、彼女に強く言う事も出来なくなってしまった。
「まあ、これからは妻であり担当医でもある私の言う事をしっかり聞いてもらいますわよ。英輔さんは、私が付いてないと駄目になってしまう事が確実なので、私の保護観察下に置いて差し上げます」
「あのー、俺達、まだ結婚はしてないですよね」
「いずれなるのですから、問題ありませんわ。それより、英輔~~♪ 英輔の両親に挨拶したいんだけど、今度の週末とかどう?」
まだ籍を入れてもいないのに、夫婦を気取っているのは、ちょっと複雑な気分ではあるが、ここまで来ちゃうともう後戻りは出来そうにない。
(トホホ、選択肢を何処かでミスったのか)
別に京子先生と付き合う事自体はめでたい事なのかもしれないが、何か違う気がして仕方ない。
すっかり尻に敷かれる事になった上に、このまま先生の実質的なヒモとして生活させられる羽目になると考えるとちょっとなあって思ってしまう。
「それで、どうなの?」
「あ、ああ……そうですね。ちょっと親に話してみますね」
「お願いしますわ。ああ、何を着ていこうかしら。ちゃんとした格好をしないと、恥を掻いてしまいますからね」
と、ウキウキした顔をして、先生は自室に戻り、俺の実家に行くときに着ていく服を物色する。
そんなに俺の親に会いたいのかね……交際相手の親と会うとか、普通に嫌じゃない?
「すみません、買い物に行ってきますね」
「はい。お気をつけて」
そろそろ夕飯の買い出しに行かないといけないので、近くのスーパーまで暇潰しがてら行く。
最近は外出も自由に出来るので、もう京子先生もすっかり夫婦気分になっているんだろう。
(まあ、京子先生と結婚することになっても今と変わらないだろう)
先生と一緒なら金には困る事はないと前向きに考えておこう。
ちょっとゲスな考えだったかな……美人の女医さんと付き合っているってだけでも、夢みたいな話なのに、何でこんなに気が重いのだろうな。
「色々と買わないといけない物があるなあ」
スーパーに行き、食材だけなく、色々と足りなくなった日用品とかが出て来たので、買い足していく。
二人分だから、一人暮らしの時よりなくなるのが速い……いや、当たり前だけどさ。
「はっ! これじゃ、すっかり主夫じゃないか」
俺は京子先生の主夫になりたいのか? そうじゃないだろう。
仮に先生がそれで良いと思っても、俺が嫌なんだよ。
何とか、働かせてくれと京子先生に頼まないとな……というか、いい加減、転職先を見つけないと俺も金がなくなる。
「あの、京子先生」
「何でしょう?」
「えっと……そろそろ、仕事しないと、俺、金がなくなっちゃうんで……」
買い物から帰ってきた後、早速、京子先生に相談をする。
「へえ……お仕事ですか。何がしたいんですか?」
「あー、その……まだハッキリ決めてないんですけど、興味があるのは……」
何だろう? やってみたい仕事は漫然とではあるんだが、ちょっと思い浮かばない。
医療関係とかどうかなと思ったが、どうもイメージが湧かないんだよな。
「医療関係とかどうですかね?」
「駄目です」
「即答ですか! 何でです!?」
「英輔さん、医療関係は女性が多いのご存知ないのですか? 医者だけは男性が多いですけど、それ以外の看護師や事務とかの仕事をしているのは圧倒的に女性ばかりなのです。そんな環境にあなたを置かせる訳にはいかないでしょう」
ああ、言われてみれば、病院って女性の職員が多い気がするな。
だから、京子先生が俺が浮気する可能性を恐れて……って事か。
「わ、わかりました。とにかく、失業保険にも限りがあるので、一刻も早く転職先を見つけないとまずいんですよ」
「英輔、あなたは何か勘違いをしているわね。あなたは、私の保護観察下にあるの。だから、私の許可もなしに勝手な行動は許さないわ」
「ですから……お金がないんですって」
「わかったわよ。いくら必要なの?」
と言って、京子先生は財布を出して、一万円札を何枚か差し出す。
あー、俺に小遣いをあげるって事ね。
「悔しいわ……まだ、私の事信用してない。転職して、お金を貯めたら、いつか逃げ出そうとしているんだわ」
「してませんって。何を言いだすんですか?」
「そうに決まっているじゃない。いい? 英輔は、しばらくこの家で療養するの。それが命令よ。主治医である私の。聞けますわよね?」
「う……」
主治医の命令かよ……そんなに俺を束縛したいのかよ。
「あんたの株は、もう地に落ちているの。わかるわよね? だから、英輔は私の治療と経過観察をずっと受ける義務があるわ。ほら、お金が欲しいんでしょ。これで、足りないなら、またあげるから」
「これは受け取りますけど……後で返しますね」
「夫婦になれば、財産は共有でしょう。なら、返す必要はないわ」
「いや、夫婦でも財布は別にしましょうよ。それがトラブルを防ぐ元ですよ」
「ゴチャゴチャ抜かさない。英輔、私はあなたの保護者なの。これからはそう振舞うから。あなたの財布も私が管理するわ。良いわね」
何だか母親みたいな事を言ってきたが、そんなに俺を自分の手元に置いておきたいのかよ。
「




