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第三十一話 久しぶりの帰省で思いもかけない再会

「本当にもう大丈夫なんだな?」

「ああ、もう落ち着いてきたよ。昨日は死ぬかと思ったがな」

 翌日、朝早くの電車で実家に帰り、入院した親父の見舞いに行くが、大した事はなさそうで何よりだ。


「昨日は大変だったからね。それより、英輔。あんた、もう会社辞めちゃったんでしょ? 新しい仕事は見つかったの?」

「今、探しているところだよ。雇用保険の待機期間とか色々あるんだって」

 案の定、お袋に転職活動の事を聞かれてしまったが、今はそう言い訳するしかない。


 京子先生と同棲して、ヒモ状態ですなんて、とても言えやしないからな。

「本当かしら? まさか、闇バイトとか手を出してないわよね?」

「そんなわけ無いだろ。なんとかやってるから、大丈夫だよ」

 全く、息子を何だと思っているんだか……だが、京子先生との事を話す勇気はとてもない。


 女医さんと同棲していますなんて聞いたら、ビックリするだろうしな……それこそ、騙されてるんじゃないかと思われるだろう。

「あんた、今日はウチに泊まってく?」

「ああ、どうしようかな……明日には退院出来そうなんだろ?」


 親父は明日には退院出来るらしいので、オレが長居する理由はあんまりないんだよなあ。

 でも、お盆は実家に帰省できなかったし、たまには実家でのんびりするか。

「ちょっと、飲み物でも買ってくるわ」

 喉が渇いたので、席を外し、一階にある自販機に向かう。


 この病院、俺も子供の頃に何度か行ったことあるから、懐かしいな……病院と言えば、どうしても京子先生を思い出してしまうが、先生は今頃、診察しているんだろうか。

 自販機で、ジュースを一本買い、近くのベンチで座って、一服する。


 思いもかけない事で帰省したけど、このまま実家に……と言う訳には、いかないのかな。

「あの……」

「ん? はい?」

 ジュースを飲みながら、今後の事を考えていると、看護師っぽい女性に声をかけられる。


「も、もしかして……紀藤君?」

「え? えっと……っ!」

 俺と同い年くらいだろうか?

 黒髪で髪を後ろで結っており、清楚でおとなしげな雰囲気にキレイな女性であったが、よく見ると、見覚えがあった。


「葉山さん……だよね?」

「う、うん。久しぶり……」

 ネームプレートに書いてあったその名前を見て、確信する。

 葉山祐希はやまゆうき……学生時代に、合コンをやった時に知り合った同い年の女子。

 あまり乗り気でなかった合コンで、何となく意気投合し、連絡先を交換して、しばらくSNSでやり取りしていたのだが、自然消滅してしまい、ずっと会っていなかったのだが……。


「ここで働いていたんだ」

「うん。今、レントゲンの技師をしているんだ」

「へえ、凄いじゃん。今、親父が入院してさ。そのお見舞いに来たんだよ」

「そ、そうだったの? 大変だね」

「いや、そうだけど、尿路結石って奴でさ。明日には退院できるらしいんだ」

「そう。でも、あれって再発する可能性高いから、退院した後も気を付けないといけないみたいだよ」


 何と再発の可能性がある病気なのか。

 調べると滅茶苦茶痛いらしいので、俺も他人事として捉えてられないな。

「くす、まさかここで会うなんてね」

「だなあ」

「今、何をしているの?」

「いや、その……この前、会社を辞めちゃってさ。絶賛、職探し中ってやつ」


 現在の事を聞かれると、ちょっと気まずいが、一先ずそう言い訳するしかなかった。

「へえ。大変だね。紀藤君、この近くに住んでいるって言っていたよね」

「今、実家出て一人暮らしなんだ」

 ではないのだけど、京子先生と一緒に暮らしているとはやっぱり言いにくい。


 付き合っているつもりはないし、俺は先生と結婚する気は今はない訳でしてね。

「私、この近くにアパート借りて、一人暮らしなの。実家からだと、ちょっと通うのに大変で……」

「そっか」

 葉山さんは一人暮らしなのか……女性の一人暮らしというのも大変だが、京子先生も俺に会うまでは一人で大変だったろうにな。


「あ、ゴメンね。私、もう行かないと。ねえ、後で連絡しても良い?」

「え? ああ、いいよ」

「うん、またね」

 勤務中だったのか、葉山さんは院内に戻り、俺も残ったジュースを飲む。


「葉山さんか……まさか、こんな所で再会する事になるとは」

 合コンで知り合った後、確か一回だけ会う約束をしたんだけど、急用が入ってしまって、駄目になってしまい、それっきりだったんだよなあ。

 しかし、親父の入院からこんな再会が待っていようとは。

 人生ってのは何が起きるかわからんもんだと思いつつ、俺も院内に戻り、親父の病室に戻っていった。


「ただいまー」

 その後、結局、今日は実家に泊まることにし、久しぶりの我が家、我が部屋に戻る。

 おお、懐かしい匂いがする……夏休みは面倒くさくて帰らなかったから、今年の正月以来の我が家か。


「何だかんだで落ち着くな」

 周りは畑もある田舎だが、大学を卒業するまではずっと住んでいた実家なので、何だかだでくつろいでしまう。

 京子先生にもちょっと連絡しようっと。


「あ、京子先生ですか? すみませんけど、今日は実家に泊まらせてもらいます」

『まあ、そうだったんですか。お父様の容態は……』

「いえ、大丈夫でしたよ。明日には退院できるそうです」

『そうですか。でも、尿路結石は再発の恐れもあるので、しばらくは気を付けてくださいね』

 と、さっき葉山さんに言われた事とまんま同じことを先生にも言われてしまった。


 まあ、俺がなった訳ではないし、医者にも同じことは言われているみたいなので、親父に告げる間でもないか。

『くす、でもよかったです。英輔さんのお父様に何かあったら、私にとっても他人ごとではないので』

「ですよね。はは」

『そうですよ。未来のお義父様なんですから。あ、もう診察があるので、そろそろ切りますね」

「はい。頑張ってください」


 今、昼休みらしかったが、もう終わりらしく、早々に電話を切ってしまった。

 京子先生も頑張っているな……というか、やっぱり先生は今のような敬語の方がしっくりくる。

 女医さんとしての彼女が俺はやっぱり好きなんだ。

 最近は無理して、ため口で喋っていたけど、京子先生はやっぱりああでないと嫌だし、あれがむしろ素なんだと思う。


「帰ったら、お願いしてみようっと。ん? 今度は葉山さんからラインか」

 今度は葉山さんからラインメッセージが着たので開いてみると、

『こんにちは。今、話せる?』

 と来たので通話に切り替える。


「はい。どうしたの?」

『紀藤君。えっと、今、良い?』

「いいけど。今、昼休み中?」

『うん。その……こ、今度会えないっ!?』

「は、はい? どうしたの?」


 急に会えないかと誘われたので、ビックリすると、

『そ、その……前、会おうって約束をしたのに、駄目になっちゃったじゃない。だから、その……折角の機会だし、今、どうかなって……』

 あ、ああ……その約束、まだ覚えていたのか。

 どうしよう? 俺は構わないのだけど、京子先生の事もあり、

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