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第二十八話 女医さんの一方的な選択

「ねえ、あなた。そろそろ式場の下見とか行かない?」

「行きません。いい加減にしてくださいよ。俺達は付き合ってもいなければ、結婚の約束もしていない。ただの医者と患者です。そうですよね?」

「ふーん、ハッキリ言ってくれるじゃない。英輔のくせに、生意気ね」

 もうハッキリと突き放した様に言ってやるが、京子先生も全く理解してくれる様子はなく、段々と言葉遣いも馴れ馴れしくなっていった。


 もちろん、俺の事をどう呼ぼうが勝手だし、タメ口でも一向に構わないんだが、流石に一方的に婚約者面は困る。

 どうにか逃げ出す方法を考えないとな……あるんだろうか、良い逃げ場が。


「そうですね。確かに一方的過ぎたかもしれません。なら、私も少し考えます」

 おっ、急に前みたいな丁寧な言葉遣いに戻ったぞ。

 何を考えているか、わからないが、京子先生はやはりこっちの方がしっくり来る。


 京子先生は美人で魅力的な女性だとは思うが……やはり、彼女との関係は『医師と患者』だ。

 それが一番良い気がするし、落ち着くんだよなあ。

「私の事を医師としてしか見ないつもりなら、こっちもそれなりに考えますので」

「考えるとは?」

「ふふ、医師と患者だというなら、英輔さんは基本的に私の指示に従ってもらいますよ」


 と何やら不敵な笑みでそう言ってきたが、まさかパニック障害の治療の為に、結婚しろとか言わないだろうな?

 まあ、そう言ってきても拒否するだけだがな。


 医者が患者にそんな事をいうのおかしいじゃん。

「おまたせしました。さあ、英輔さん。メディカルチェックを行いますわよ」

「へ? またですか?」

 京子先生が一旦、席を外した後、白衣を身に纏って俺の前に現れ、そう告げてきた。


「また? あなたは入院中だという事をお忘れなく。そうであるなら、健康診断はこまめに行うのが常識ですわよ」

「そ、そうですね。じゃあ、お願いします」

 あからさまに怒っているような口調でそう言ってきたので、あまり刺激しないように、素直に京子先生の健康診断を行う事を了承する。

 何だかすごく嫌な予感もするんだが、大丈夫だろうか?


「では、服をめくってください。息を大きく吸って……吐いて」

 京子先生は聴診器を胸に当てて、診察を行っていくが、いつになく厳しい口調をしているので、何か変な病気でも言い渡されるんじゃないかと緊張してしまう。

 まあ、お医者さんだし、そこまで変な事はしないだろうと言い聞かせて、診察を受けていった。


「次は体温と血圧です。はい、腕を出してください」

 聴診器を当てた後、体温と血圧を測り、慣れた手つきで数値を記入していく。

 こういう仕草は本当に女医って感じだな。


「次は体重ですわ。さあ、ここに乗ってくださいませ。ついでに体脂肪も測れますから」

「は、はい」

 指示された通り体重計に乗って、体重を計っていき、体脂肪らしき数値も出てくる。


 こんなものまでわかるんだなと感心してしまったが、本当にこのままただ健康診断するだけで終わってしまうのか……そうとは思えないけど、とにかく淡々と健診が続いていった。


「健康な体をしていますわね。感心してしまいますわ」

「それはどうも。先生のおかげですかね」

「ふふ、ありがとうございます」

「健康なら、もう退院しても良いんじゃないですかね。パニック障害なら、やっぱり専門の心療内科にでも診てもらいますので」

「へえ、そういう事を言うんですか。そんな事を私が許すとでも?」


 許すも何も、京子先生は産婦人科だから、専門外のはずだけど、そんな事を指図する権利があるとでも言うのだろうか?

 ちょっとそれは横暴すぎやしないかと思ってしまうんだけど、考えてみれば京子先生の言うことを聞く権利は俺にはないな。


「では、次は服を全て脱いでください」

「はい?」

「服を脱いで裸になってくださいと言ってるんです。さあ、今すぐ」

「な、何でですか?」


 カルテみたいなのを見ながら、京子先生がいきなりそんな事を言ってきたの驚いてしまったが、京子先生は構わず、

「英輔さんの体をチェックする為です。医師の言う事が聞けないのですか?」

「いや、はは……俺、手術経験とかもないですよ」

「そんな事を聞いてるんじゃないですわ。さあ、全部脱ぎなさい。医師の指示ですよ」


 おいおい、何をする気なのかせめて説明してくれよ。

「京子先生、今日もお美しいですね。そんなに怒っていたら、折角の美人も台無しだ」

「ありがとうございます。では、付き合ってください」

「な、何にですか?」

「とぼけるんじゃないわよ。さっさと結婚を前提に付き合えって言ってるんです。こんな茶番はもうおしまいよ。何が医師と患者よ……そんな関係がお望みなら、一生そうさせてあげますわ。英輔は死ぬまで私の担当患者です。だから、私生活の全てを私が全て管理させていただきますわ」

 いきなり、高圧的な口調になり、京子先生は俺に理不尽極まりない事を言ってくるが、どうしてそこまで俺に執着するんだろう?


「いや、それはきついですって。勘弁してもらえますか?」

「黙りなさい! 私の言う事が聞けないのですか? さっさと脱ぎなさいって言ってるんです。あなたの体を心配して言ってるんですよ」

「…………嫌と言ったらどうします?」

「嫌なら、これを飲んでください」

「何ですか、これ?」


 先生はコップに何か牛乳のような液体を入れて、俺に飲めと要求してきたが、これバリュームって奴か?

 いや、飲むヨーグルトっぽい匂いもするけど、何か怪しい薬が入ってないだろうな?

「飲んでください。毒はありませんから」

「だから、何なのか教えてくださいよ。知る権利くらいありますよね?」

「飲みたくないなら、これにサインしてください」

「はい? いや、何でそうなるんですか?」


 何かの用紙を出すと、また俺に婚姻届けを出してきたが、この人も懲りない人だな。

「最後のチャンスです。ねえ、英輔。私と結婚してえ……そうすれば、好きにしていいわ」

「ちょっと、いいですか? 何で俺とそこまで結婚したいんです?」

「英輔が好きだからよ……というか、あなたが私の一番の理解者だわ。一緒に住んでいて、ますます確信したの。私の幸せのために結婚してくれる? んっ……」


 と、京子先生は座っている俺の前に対面するような形で跨り、キスをする。

 うう……ちょっと一方的過ぎる気もするが……どうしよう?


「んっ、ちゅ……ねえ、結婚してえ……私は英輔以外の男は嫌なの~~」

「はは、嬉しいですよ。でも、俺の方も心の準備が……」

「いつ出来るの? 一分後?」

「早いですね」

「もう猶予はいくらでも与えたでしょう。さあ、結婚して。これが最後のチャンスよ」

「いや、そんなの……う」


 首筋に何かチクっとしたので、背後を見てみると、何か注射器のようなものを俺の首に刺そうとしていた。

「な、何ですか、その注射器は?」

「さあ。何だと思う?」

「教えてください。でないと警察を呼びますけど」

「くく、そんな暇あると思う? 何の薬かしら。何か危険な薬かもしれないわねえ」


 おいおい、そんなやべー薬を医者だからと言って手に入れられる物なのか?

 脅しに決まっている……と思いつつも、万が一の可能性も考えて、迂闊に動けない。

「英輔……私を殺人犯にしたくないなら、言う事を聞いて。ま、仮にそうなっても、死んじゃったから関係ないわよね。アハハっ!」


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