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第二十二話 女医さんとの関係が怪しまれる

「お待たせしましたー。海鮮丼二つでーす。あ、大盛りはそちらで良いですか?」

「ありがとう。さあ、食べて」

「いただきます。本当に美味しそうですね」

 間もなくして、注文した海鮮丼が届き、刺身やイクラがふんだんに盛られて、海の香りがする丼をいただく。

 京子先生がオススメするだけあって、美味しそうだなあ……海の近くに住むと、こういうのが毎日食べらりたりするんかな?


「いただきます。うーん、この味も久しぶりです。昔は良く食べに行ったんですよね」

 京子先生も一緒に食べ始め、二人で楽しいランチタイムとなる。

 が、やはり店員さんの視線がかなり気になってしまった。


「ニヤニヤ……」

 と、京子先生のお友達の店員さんはあからさまにこちらをニヤニヤしながら見つめていた。

 あーあ、完全に終わったなこりゃ……口止めしようにもわざわざ先生の地元まで来て、誰にも言うなは無理があるし、出来る限り早くこの町から出る以外なさそうだ。


「まあ、京子ちゃん! 久しぶりだねえ」

「おばさん。どうもお久しぶりです」

 食べている最中、中高年の女性店員が席にやってきて、京子先生に声をかけてきた。

 多分、さっきの女性店員さんのお母さんなんだろう。

 そりゃ娘の幼馴染が来たら挨拶くらいはするわな。


「今、産婦人科のお医者さんやってるんだって? 偉いわねえ」

「いえ、そんなことは……」

「そうよ。それに比べて、ウチの娘ったら……」

 と、二人とも久しぶりの再会に会話が弾んでいるが、俺の事をどう紹介されるか怖くて、ヒヤヒヤしてしまい、折角の海鮮丼も味がよくわからなかった。


「あら、そちらの男性は?」

「え、あの……」

「私とお付き合いしている紀藤さんです」

 と、お店のおばちゃんが俺の事を訊ねると、京子先生も涼しい顔をして、実にあっさりとそう紹介する。

 何というか、よく恥ずかしげもなく言えるなと感心してしまう。


「ええっ! あら、まあ……じゃあ、お邪魔しちゃ悪いわね。お二人ともごゆっくり~~」

「どうも。くす、おばさん相変わらずだったなあ」

 京子先生が俺を彼氏と紹介すると、おばさんも俺達に気を遣ったのか、そそくさとこの場を去っていった。


「あの、先生……本当にいいんですか?」

「何が?」

「いや、あの……俺達が付き合ってるって紹介しちゃうのは、その……」

「ふふ、本当の事なんだから、良いじゃない。あーあ、これじゃウチの両親に知られるのも時間の問題かなー♪」

 と、平然とした顔をしてそう言い放ち、京子先生のそんなふてぶてしさを見て、溜息を付いてしまう。


 見た目はおとなしくて、清楚な雰囲気な女性なのに、やる事がかなりエゲつない。

 もう外堀が埋められていて、俺、先生の彼氏として振る舞わないと逆におかしく見えちゃいそうで、頭が痛い。


「この海鮮丼、美味しいでしょう。あー、やっぱり地元は良いなあ。今度、英輔の実家にも行きたいな。連れてってくれる?」

「別に何もない田舎ですよ」

「それはこっちも同じだよ。ああ、英輔のご両親と会うの楽しみですわ」

 と、目を輝かせて言う京子先生だったが、普通、交際相手の両親と会うのってめっちゃ緊張する物じゃないの?

 というか、俺達は付き合っている訳ではないので……そもそも、こんな男と付き合っていると聞いたら、先生のご両親もどう反応するのか想像しただけで怖い。


「ご馳走様でした。美味しかったですね」

「でしょう。もうちょっとゆっくりしようか」

「ですね。すみません、ちょっと席外します。トイレは……」

「そこの奥だよ」

 先生が店の奥を指差すと、トイレがあったので、ちょっとそこで一服する。


 この後、どうするかなあ……先生のご実家に行く流れは不可避なので、想像しただけで緊張してしまい、ちょっと気分が悪くなりそうだ。

「ふう……」

 トイレを出た後、脇にある水道で手を洗い、この状況をどう切り抜けるか考える。


 京子先生は俺みたいな無職のヒモ男を彼氏として紹介する事に抵抗はないんだろうか……普通に考えたら、絶対に嫌なはずだけど、あの人の感性はちょっと常識では測れない部分があるのかもしれない。

「あの、ちょっと良いかな?」

「え……あ、あなたは……」

 急に肩をポンと叩かれて声をかけられたので、何事かと振り向くと、京子先生の幼馴染の女性店員さんが目の前に立っていた。


「こんにちは。京子の彼氏君だよね。ちょっと、話があるから、こっち来てもらって良い?」

「は、はい」

 話? 何だろうと思い、彼女の後を付いていくと、店の控室? みたいな部屋に案内された。


「ごめんなさいね、急に。えっと、私京子の幼馴染の、高浜美奈っていうの。京子とは小学生からの付き合いだよ」

「あ、どうも。紀藤英輔です。京子先生とはその……」

 付き合っていると言ってしまって良いのか、凄く悩んでしまう。

 俺は彼女と付き合っているつもりはないのだが、仕方ないので、ちょっと言葉を濁しておこう。


 しかし、間近で見ると、この人も結構美人だな。

 背も結構高くてスタイルも良く、ちょっと亜麻色に染めた長い髪を束ねて三角頭巾をかぶっており、快活な感じがする姉御っぽい感じの女性だ。


「先生とは、その……めっちゃお世話になっているんです」

「へえ。てか、紀藤君って、もしかして学生? 凄く若く見えるけど」

「いえ、二十四歳です」

「二十四かー。ウチらより三つ下かあ。いいな、若くて」

 三つ下……という事は、京子先生は二十七歳って事か。

 年齢を聞くの失礼だったので、敢えて聞かなかったけど、二十七歳の女医ってかなり若いよな。


「いやー、あの京子が年下の子とね。二人ってどう知り合ったの?」

「う……先生とはもともと、部屋が隣同士だったんです。前に仕事の帰りにちょっと気分悪くなっちゃった時に介抱してくれて、それで……」

「へー、お隣さんだったんだ。というか、二人って付き合って同棲までしているんだよね? 何で、京子の事、『先生』って呼んでいるの?」

「えっ!? そ、それは……」


 しまったっ! いつもの癖で、つい『先生』って呼んでしまった。

 ここは京子さんとでも呼ばないとまずかったかも……。

「いや、その……体調悪い時に診てくれたんで、ついその時の癖で」

「でも、あの子って産婦人科のお医者さんでしょ。紀藤君を診てくれたり出来るの?」

「いいっ! あ、あの……個人的に色々と相談に乗ってもらって……」


 やべえ。京子先生との仲を誤魔化そうとすると、どんどんボロが出てしまう。

 これならいっそ、素直に同棲して付き合っていると認めちゃった方が良かったかも……。

「へえ。でも、ビックリしたよ。あの子が彼氏を連れて来てさ。京子って、昔から気難しくて男子の事、嫌っている感じあったから」

「そ、そうだったんですか?」

「うん。何て言うか、可愛いんだけど、男子から見ると見下されてるって感じる事が多かったらしくて、むしろ嫌われていたかも。成績もずっと学年トップだったから、嫉妬されていたってのもあるし」


 何と……普段はほんわかした感じなので、そう見られていたのは意外だ。

 でも成績良かったから嫉妬されていたってのはちょっとだけわかるかも。

 男子って何か頭の良い女を見ると、近寄りがたい印象受けちゃうんだよな。


「お医者さんとかじゃないんだよね?」

「違います。普通の会社員……でした。今、ちょっと求職中っていうか……」

「へえ。ん? て事はつまり、君って……」

 はい、京子先生のヒモも同然の無職です。

 流石に引くわなあ……


「まあ、真面目そうな人で良かったよ。ごめんね、引き留めちゃって。また、機会があったら、色々と聞かせてね」

「はい。また」

 ちょっと俺達の関係を怪しんでいたみたいだが、それ以上は深く追及はせず、取り敢えずホッとする。

 トホホ……やっぱり、惨めな気分になるな……先生のヒモですなんて。

 




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