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第二十話 女医さんとドライブデートの行先は……

「さあ、英輔さん。デートですよ、デート」

 次の日になり、京子先生はとても嬉しそうな口調で俺の元に駆け寄ってそう言って来た。

 京子先生とのデートは確かに嬉しいことは嬉しいんだが、それにしても先生もはしゃぎ過ぎじゃないかな。


「今日は私の車で出かけましょう。車の中で発作が起きないか確かめたいので」

「良いですよ。俺が運転しましょうか?」 「まあ、そんなに気を遣わなくても宜しいのですよ。私の車なので、患者さんに運転なんかさせられませんわ」

 うーん、相変わらず患者扱いしてきたり、実に都合よく俺との関係を使い分けてきてるが、もうこんな扱いにもなれていかないといけないのかもな。


「では、行きますね」

 駐車場に行って二人で車に乗り込み、京子先生の運転で車が発進する。

 京子先生の車は国産の軽自動車だが、新車の様で中々乗り心地は良かった。


「英輔さん、車の運転とか好きなんですか?」

「実家に居るころは親の車を借りたり、友達の車とか運転してましたけど、最近は全然する機会なくて。新車も高くて、中々手が届かないんですよ」 

「あー、わかります。この車も二百万近くしましたから」

 軽なのにそんなにしたのか。

 あーあ、俺の給料じゃ車を買う余裕なかったし、ましてや今は無職……。

 マイカーを持てるなんていつになるやら。


「車が欲しいなら、私が買いますよ」

「い、いえ……流石に悪いですって」

 車を運転しながら、さらりと恐ろしい事を言ってきたが、よくもまあ簡単に言えるものだ。

 お医者さんだから、収入はあるんだろうけど、まだ引越ししたばかりで家賃も二十万近くするってのに、それだけの財力があるのが凄い。


「ふふ、遠慮なさらないで宜しいのに。どうですか? 気分が悪いとかないですか?」

「今のところはないですね」

 走行中の自動車という密室の中なので、発作が起きやすい環境ではあるが、まだ大丈夫だ。

 一応、エチケット袋も持っているし、いざという時は隣に女医さんもいるんだから、安心だろう。


「英輔さんに運転を任せても良いのですけど、運転中に発作が起きたら危険もあるので……私が無理な時はお任せしますけど、しばらくは助手席でドライブを楽しんでください」

「すみません、気を遣っていただいて」

「いえ。車の運転は好きなんですか?」

「まあ、嫌いではないですよ。あと、バイク乗るのも好きですね。大学の頃はツーリングやサイクリングをするサークルに入っていたんで」

「凄いじゃないですか。私はバイクなんて、とても無理ですわ」

 別にバイクの運転も難しくはないんだけど、京子先生にはちょっと似合わない気もする。


「はは、別に難しくはないですよ。でも、海岸沿いの道路をツーリングした時は最高な気分でしたね。潮風に乗って、青い海を走っていくの、本当良い気分です」

「いいですね、そういうの。英輔さん、とても活発な方で羨ましいですわ」

 またツーリングかサイクリングもしたいんだけど、実家にあるバイクは売りに出してしまったんだよな……就職したら時間も気力もなくなってしまったが、いつかまた行きたいなあ。


「私も学生の頃は、ボランティアや英会話のサークルに入っていたんですが、課題も多くて中々時間も取れなくて……まあ、ちゃんと両立させていた人もいたんですけど、私、要領が良くないので、どうしても勉強優先になってしまって」

「はは、医学部に行って医者になれただけでも凄いですよ」

「そう言ってくれると嬉しいんですけど、やっぱりもっと学生らしい事をしたかったなって思っちゃいます。今更どうにもならないんですけどね」


 国立の医学部に行ってるなんて時点で、実に贅沢な悩みだと思うが、それでも悩みや後悔がない訳じゃないんだな。

 俺なんか実に甘ちゃんだよなー……マジで何をやってきたんだろう、

「さあ、高速に乗りますよ。二人で海を見に行きましょう」

「はい。先生、運転上手じゃないですか」

「別に上手ではないですよ。普通ですわ」


 京子先生の運転はかなり丁寧で、乗り心地も快適なので、結構慣れている感じだ。

 高速に入っちゃったけど、大丈夫かな……まあ、エチケット袋も用意してあるし、平気だろう。

「気分が悪かったら、すぐに言ってください。パーキングエリアに入りますから」

「はい。海とかよく行くんですか?」

「泳ぐのが苦手ですけど、海を見るのは気持ち良いですよね。もう海水浴の時期ではありませんが、潮風が心地よくて静かで良いですよ」

「そうですか。俺、海のない県で育ったんで、海は結構憧れなんですよね」

「くす、綺麗な海を見れば、きっと心もリフレッシュできますわ」

 何て会話をしながら、京子先生は高速道路を走らせていき、あっという間に時間は過ぎていった。


「さあ、着きましたわよ」

「おお、綺麗な海ですね」

 高速を一時間近く走らせ、その後、目的地の海岸沿いの駐車場に車を停めると、何処までも続く青い海が広がっており、潮風が非常に心地よかった。


「うーん、良いですね、この雰囲気。もう海水浴のシーズンじゃないから、人もいないですし、静かで心地よいです」

「ですね」

 潮風に吹かれている京子先生の姿がとてもキレイで見惚れてしまう。

 あー、この人とデートできるってだけでもマジで幸せものだな、俺は。


 本当に付き合っても良いかなと思っちゃうけど、

「ねえ、英輔」

「な、何ですか?」

 京子先生が急に俺の腕をがっしり組んで、俺に寄り添い、しかも名前を呼び捨てしてきたので、

「将来、こういう所に住みたい?」

「え? いやー、はは……考えたことないですけど、悪くはないですかね」

「くす、そうですか。海と山ならどっちが好きですか? 私は海の方が好きですけど、英輔の好みを優先したいわ」


 急に下の名前を呼び捨てな上に敬語も使わなくなってきたので、ビックリしたが、これはもしや誘っているのか?

 ま、今更だけど、こういう雰囲気だと流されちゃいそうになるな。


「山育ちだったんで、海ですかね。京子先生は出身は何処ですか?」

「千葉です。というか、実家がこの近くなの」

「あ、そうなんですか。じゃあ、海育ちなんですね」

 どうりで運転に慣れている感じがあったが、ここが地元だったのか。


「ふふ、ねえ、英輔。私の実家に行かない? 両親に紹介したいなって思ってるんだけど」

「ぶっ! しょ、紹介ってどう紹介するんですかね?」

「んもう、しらばっくれてー。結婚を約束した同棲相手ですって正直に言うに決まっているじゃない♪あ、敬語だと怪しまれるから、お互いタメ口で喋り合おう。ね? その方が恋人らしく見えるよ」

「う……」

 急にタメ口になったのはそういう事か。

 しかし、ちょっと待って欲しい。


「いやー、まずいですって。俺、今、無職ですよ。そんな男と付き合っているなんて紹介したら、反対されるんじゃないですかね」

 俺が父親ならそんな男とはまず交際は認めない。

 しかし、京子先生は俺の腕をがっしりと組みながら、

「大丈夫よー。今、病気療養中ですとか求職中ですって、言い訳すれば良いじゃない。ね、私の実家行こう?」

「か、勘弁してください。本当、困りますって」

 なおもせがんでくる京子先生だったが、俺も恥を掻きそうなので、頑として抵抗する。


 くそ、まさか京子先生の地元に連れ込まれるとは……何とか阻止はしたいが、ここから逃げ出せないだろうか?

 うっかり、先生の運転に身を任せてしまったのがまずかったか……

「ふふ、逃げられると思わないでねー、英輔♪ 今日は絶対に実家に連れて行くから」

「あ、あの……」

 やべえ、本気みたいだ。どうしよう? 何とか逃げ出す方法を考えるが、土地勘も全くないし、逃げようがないので、一気に追い込まれた気分になってしまった。



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