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第十八話 女医さんの個人的なメディカルチェック

「では、いってまいります。今日は午前診だけなので、早めに帰れると思います」

「いってらっしゃい」

 朝になり京子先生はいつもの様に出勤して、俺も彼女を見送る。


 さて洗い物に洗濯、掃除に……後、夕飯の買い物とかもしないといけないな……。

「はっ! い、いかん……」

 すっかり主夫みたいになってしまった事に気が付き、ブンブン首を横に振る。


 まいったな……最近、すっかりこの生活に慣れてしまったぞ。

 早い所、抜け出して転職活動をしないといけないのに……雇用保険の手続きをしようとしたが、調べたら待機期間とかいうのがあり、その間はバイトもしちゃいけないらしい。


 有休全部消化して辞めた上に消化し終わる前に引っ越ししたから、まだ必要書類揃ってないし、手続きが思ったより面倒なんだな。

 まあ、そんな事は今となっては大した問題ではない。


 京子先生との関係をどうしたら良いか、悩んでしまうが、このまま二人で同居を続けちゃうのも何か違う気がするんだよな。

 決して先生が嫌いな訳では無いが、酷い目に遭いそうな気がしてちょっと怖い。


「やっぱり、いつでも逃げれる準備はしておいた方が良いよな」

 まだまだ彼女への疑惑が晴れた訳ではないので、心を許すのは危険だ。

 俺に合鍵を託してくれたので、信用はしてくれてるんだろうけど、いきなり婚姻届けを出して結婚してくれとか非常識な行動が多いからなあ。

 取り敢えず、新居と職探しはいない間にしておこうっと。


「一応、調べてみるか」

 掃除のついでに家の中に怪しい薬が置いてないか調べてみる事にする。

 京子先生の事だから、簡単にボロを出すとは思えないが、一応な。


「うーん、特に変わった薬はないな」

 キッチンや京子先生の部屋なんかも調べたが、睡眠薬とかは見当たらなかった。

 あるのは救急箱や包帯、マスクに医療用ガーゼ、手袋に白衣とかか……うーむ、やはり頭がいいだけあって、ボロは簡単には出さないか。

 仕方ないので、棚なんかも元に戻し、いつも通り家事に専念することにしたのであった。


「ただいまです。すみません、ちょっと急患が入って遅くなってしまいました」

 今日は午前だけの診察だったが、急なお産がまた入ったようで夕方になって、ようやく京子先生が帰ってきた。

「おかえりなさい。今日も大変だったみたいですね」

「はい。でも、無事に生まれたので、良かったです。疲れてしまいましたので、先にシャワーを浴びても良いですか?」

「どうぞ」


 どうやら、また急なお産が入ったようで、京子先生もかなり疲れていたようで汗を掻いていたので、シャワーを浴びに浴室へと向かう。

 大変な仕事なんだな……彼女を支えたい気持ちはあるんだけど、俺は俺で先の事を考えないといけない。

 何とか理解してくれると良いんだけど、今は先生のサポートとパニック障害の治療に専念しておくか。


「英輔さん、今日の夕飯はどうするか決めていますか?」

「え? ああ、一応、ハンバーグでも作ろうかなと思っていますけど」

「まあ、素敵ですわ。そんな物も作れるんですね」

 ハンバーグ自体はそこまで難しい料理ではないので、別に自慢も出来ないのだが、

「ねえ、英輔さん。明日、また私とデートしませんか?」

「デートですか……えっと……良いですけど、明日は……あ、日曜日でしたっけ」

「はい。ついでに月曜日も祝日でお休みなので連休です。二人で、ランチでもどうかと思いまして」


 最近は曜日の感覚も麻痺していたが、そうか明日と明後日は連休な訳か。

 京子先生のクリニックは休日は日曜と祝日、後は年末年始だけっぽいので、まとまった休みも取れなくて大変だな。

「いいですね、行きましょうか」

「はい。嬉しいです。それと、英輔さん。今日、私の部屋に入りましたね?」

「えっ? あ、はい……掃除の為に入りましたよ」

 一瞬、ドキっとしたが、掃除や洗濯した衣服などをしまう際に京子先生の寝室に入る事はあると事前に告げてはいるので、正直に答える。


「まあ、掃除ですか。棚の中を見たりはしてないですわよね?」

「み、見てないですよ……あ、白衣とか洗濯しなくて大丈夫なのかって思って、ちょっとクローゼットは見ましたが……」

 やべえ。変な薬がないか、探すために京子先生の机の中や洋服ダンスの中なんかはのぞかせて貰ったのだが、バレてしまったのか?


「ふーん、そうですか。とても助かりますわ。ありがとうございます」

「は、はは……どうも」

 あかさらまに疑っているぞという眼差しを向けられていたが、完全にお見通しなのか、それともかまをかけようとしているのかわからないので、言葉を濁しておくのが無難か。


「私の白衣、そんなに気になりますか?」

「はい? え、えっと……」

「ちょうど良いので、英輔さんの健康診断をしましょう。ちょっと待ってくださいね」

「は、はい? あの……」

 唐突にそんな事を言われたので、何事かと首を傾げていると、京子先生は自室へと向かっていく。

 白衣が気になるってどういう意味だろう?

 あー、白衣を洗濯しようか何とか言っていたから、気になっていると思われたか?


「お待たせしました。さあ、英輔さんのメディカルチェックを行いますわよ」

 自室から出てくると、京子先生は白衣を身に纏い、更に聴診器なんかもクビにぶら下げて、俺の前に現れる。

 おお、先生の白衣姿……何気に初めて見たかも。

 普段こんな姿で、診察をしているんだな……やっぱり京子先生に良く似合って美しい。

 患者が羨ましいなーと思ったが、産婦人科だから患者はみんな女なんだよな。


「ふふ、どうですか? 似合いますか?」

「もうバッチリ似合っていますよ。白衣の天使って感じですね」

「くす、白衣の天使ってナースに使う言葉ですよ。医者にはあまり使わないと思います」

 あれ、そうだったかな? 言われてみれば女医には使わない気もしたが、今の京子先生は白衣の天使っぽい姿をしているから間違いではないだろう。


「では、めくってください。息を大きく吸って……」

「すう……」

「はい、結構です」

 聴診器を胸やお腹に当てて、指示通り深呼吸を行う。

 まるで本当に診察されているみたいだ……いや、本当に医者なんだけどね、彼女の場合。


「次は体温と血圧の測定ですね。体温はうん、平熱ですね。では、次は血圧を測りますね」

 検診の後、体温を素早く測り、血圧も手際よく測定器で測っていき、用紙に記入していく。

 こういう手慣れた仕草はやはり医者っぽい。

 今日は白衣を着ているので、本当に健康診断を受けているみたいな緊張感を持っているのだ。


「それでは、お小水を取って来てください」

「…………はい?」

 京子先生が紙コップを手に取り、何かとんでもない事を言ってきたので、聞き返すと、


「おしっこです。さ、おトイレで取って来てください。健康診断でも尿検査は必ずやりますでしょう?」

「そ、そうですけど……マジでやるんですか?」

「まあ、医師の言う事が聞けないのですか? 尿の検査をすれば糖尿病や血糖値を始め、色々な内臓の病気や数値がわかるので、健診では大変重要な検査なのですけど」

 いや、それはわかるんだけど、これって会社とかでやっている正規の健康診断じゃないよね?


「これは健康診断ですよ、英輔さん。あなたは患者だという事を忘れないでくださいね。基本的には主治医の指示に従って行動してもらいますわ」

「わかりました……」

 イマイチ釈然としなかったが、言われた通り、トイレに行き、おしっこを採取する事にする。

 いやさ……パニック障害って心の病気だよね? 尿検査とかする必要あるんかな?


「どうぞ……」

「ありがとうございます。ああ、これが英輔さんのお小水……ふふ、色は問題なさそうですね」

 トイレから出てきて、紙コップに入れたおしっこを差し出すと、京子先生が何処かうっとりとした目をしながら、コップの中身を見て、プラスチックの試験官みたいな容器に吸いだしてキャップをして保管をする。

 ガーゼみたいな手袋をしているので、衛生面は大丈夫なんだろうが……別に俺のおしっこなんぞ検査したところで何が出来る訳でもないと思うが、ちょっとヤバそうな感じも見えてしまった。

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