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ユ:夜に行く遠征クエスト


 今日は休日二日目。

 用事は特に無いから、諸々済ませれば後は遊べる。

 今朝は挽き肉を入れたオムレツとトーストにした。真紀奈は蜂蜜トースト、俺はケチャップとウインナーとチーズでピザトーストモドキ。


「「ごちそうさま」」


 さ、ログインしよう。

 昨日は結局小さな羊小屋を作って俺の装備を引き取った後はグダグダのまま終わったから、今日はしっかりポイントを稼ぎたいところだ。



 * * *



 休日の午前にのんびりログインすると、ゲーム内では大体夜。

 朝食なのか夕食なのかわからない食事を済ませて、就寝するジャックを見送って、今日はどうするか考える。


「夜なんだよねー」

「だな」


 この時間帯もイベントのミッションクエストは普通にできる。

 ただ、夜目が効いても夜の森はやりにくいんだよな。


「とりあえずどんなクエストがあるか見に行ってみる? 何か増えてるかもしれないし」

「そうするか」


 転移オーブでピリオに飛ぶ。

 広場は街灯が点いていて歩くのには困らない。

 でも暗くて休憩しているプレイヤーが多いのか、クエスト受付のテントは空いていた。


「新しいのあるかなー?」


 相棒がそう言うと、受付の兵士が反応した。


「変わったクエストを御所望かい? ならこんなのはどうかな」

「んー……『施工拠点の先行設置』?」


 兵士が出してきたのは、一定の間隔で必要になる作業場兼休憩所を、先行して作成するクエストだった。


「予定地を伐採して整地してテントを建てる仕事なんだけど、移動が長いからかいまいち人気が無くてね」


 あー、効率重視のプレイヤーには微妙かもしれないな。

 討伐と同時に受けるにしても、今度は道の予定地から離れられないから討伐対象を探しにくいだろうし。


「面白そう! 相棒、これでもいい?」

「好きにしなー」


 うん、相棒には刺さるよな。散歩みたいなものだし。

 景色の綺麗なオープンワールドゲームをやると、敵そっちのけで観光に走るのがいつものキーナだ。


「とりあえず北側でいい? 夜だから、草原の丘陵は森よりは歩きやすいかなって」

「うん、いいよ」


 受注して、必要な物資を受け取る。


 出発前に、俺達も二人用のテントを買った。

 NPCの必需品の店が24時間営業なのはありがたいな。さすがにパン屋なんかは開いてないが。


「じゃあ出発ー!」


 北側の出来たばかりの街道を歩き始める。

 星空には大きな月と小さな月が浮かんで、二つの月明かりで草原の丘陵はかなり明るかった。


「木が無いと全然違うね」

「だな」


 渡されたコンパスのような魔道具の指す方へ直進する。

 緩やかな上り坂と下り坂を何度か繰り返すと、草原の一部が花畑になっていて、月明かりの下で青く幻想的に光っている所を見つけた。


「わぁ〜、綺麗! 前はこんな所あったっけ?」

「さぁ……昼間だったから見逃したかもしれない」

「ちょっと採っていってもいい? 拠点に欲しい!」

「いいよ」


 土魔法で植木鉢に植え替えを始める相棒を見守る。

【感知】に気配は……引っかかってこないな。とりあえずは大丈夫か。

 ……ところで、これは何の花なんだ?

 青い花はピンポン玉より少し大きい位で何枚も重なった花弁が丸い形を作っている。

 一輪摘んで【鑑定】してみた。



【月光雫の花】…品質★★★

月の光を蜜に溜め込む花。蜜はMP回復薬の素材になる。

満月の夜に摘むと蜜が多く、効果も強い。



 わかりやすいファンタジー素材だった。

 相棒はMP消費が激しいから、拠点で栽培してもいいかもしれないな。


「相棒、草魔法でこの花の種とか採れたりしない?」

「おお! やってみよう……【リーフクリエイト】!」


 相棒の手の中の花が萎れて花弁が落ちる。

 残って膨らんだ莢はすぐに茶色く固まって、それを開けると黒い小さな粒がポロポロとこぼれ落ちた。


「採れた!」

「じゃあいくつか採っていこう。MP回復薬の材料みたいだから」

「あ、それは助かる」


 鉢植えと種があれば、まぁ栽培は出来るだろう。

 失敗したらまた取りに来てもいい。


「こんなもんかな?」

「うん。じゃあ進むか」


 思わぬ拾い物だったな。

 夜の遠出も、もっと積極的にやってもいいかもしれない。



 * * *



 しばらく歩いて道の施工現場を通過。

 そこからさらにしばし歩くと、クエスト用の魔道具が砕けてサラサラと消滅した。

 目的地に着いたらしい。


「魔道具儚いね」

「丈夫すぎると売れないから……」

「世知辛ーい」


 早速作業を始めよう。

 必要なのは、何度か見たテント付きの作業場と同じくらいの広さ。

 丘陵は木が無いが、背の高い草が生い茂っている。


「【火魔法】で焼くのは怖いよね」

「【風魔法】が無難じゃないか?」


 出来るだけ根本のあたりから風の魔法でスパッと広範囲を刈り取っていく。


「こんなもんか……なんで刈った草集めてるの?」

「羊ちゃん食べるかなって」


 ああ、確かに。羊だもんな。


 大量の草をある程度回収したら、【土魔法】で必要な範囲を平らに均して固めた。


「後はテントと、篝火の準備だね」


 支給の物資からテントと木材を取り出して二人で組み立てれば、ちょっとしたキャンプ場みたいな場所が出来上がった。


「いい感じになるもんだねぇ」

「だな」


 ついでだから焚き火の準備も始めた。

 食事はクエストの物資にお弁当が入ってるから楽で良いな。


「キリもいいし、食べたら一回落ちて昼ご飯にしよう」

「オッケー」


 空も白んできたし、戻る頃には日も昇ってるだろう。


「このクエスト楽しいねぇ」

「まぁかかる時間考えると効率はかなり微妙だけどね」

「相棒はやりたくない?」

「いや別に?」

「じゃあ今日はこれ系やって周りたいなぁ」

「良いよ」


 相棒は相当気に入ったらしい。

 それなら同じ方向の同じクエストをまとめて受けた方が効率がいいな。

 ちょうど休みだから長距離移動にも向いてるし。



 休日の二日目は、この後のんびりと作業場を作って周って終わったのだった。


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