キ:力ずくには力ずくで
ラージゴロロック・スピン Lv20
【防御低下】
逆三角の体から太い腕が生えてる岩系モンスター。
多分この襲撃のボスなんだと思うけど、やっぱりというかなんというか、攻撃方法はコマみたいな回転からのラリアットだった。
「ですよねー」
「だと思った」
しかも周りの岩壁を殴る度に反動でズレるから人に対してはノーコンっていう大味加減。
つまり、離れた所から魔法撃ってれば全然怖くはないんだけど……街から出てきたプレイヤーっぽい人達がそのラリアットにブチ切れた。
「やめんかぁい! 岩壁を削られたら街も道も崩れ落ちるじゃろがぁ!!」
そっか、そういう街破壊の仕方もあるんだね。
もちろんモンスターがそんな言葉に耳を貸すわけもない。お構いなしにグルグル回って周りをボコボコ殴る。
すると、ロックスの壁の上にいる魔法使いが杖をボスに向けた。
「【ロッククリエイト】!」
あ、土魔法の上位属性だ!
ボスの真下の岩に、一箇所ボコッと穴が空いた。
コマみたいな形のボスの体の下部がガポッと穴にはまって、回転してもそこから動かない。
オオーッ! と歓声が上がった。
そしてボスは……実に冷静に両手を地面に当てて自分の体を持ち上げて穴から抜けた。
オオー……と落胆の声が上がった。
「普通に対応したね」
「普通に頭いいな」
そんな単純じゃないってことかぁ。やってることは単純なんだけどなぁ。
少し離れた高い位置にいるのを良い事に、僕と相棒は小声でひそひそと対策を考える。
「ゲームなんだし、ああいう硬いボスは弱点ありそうなもんだけどな」
「弱点」
なるほど確かに、一箇所だけヒビが入ってるとか色が違うとかよくあるよね。
ただじっくり観察するには回転があまりにも邪魔。
……あ、また石魔法で穴が空いてボスがはまった。
でもそうだね、抜け出す時は回転止まるもんね。さっきもその隙に近接が叩いてた。
じゃあ、その隙をできるだけ延長しよう。
「【ツリークリエイト】」
声を変えていても、ついつい小声で唱えた魔法。
頑丈な木で両腕を外に引っ張るイメージ。
その通りに伸びた太い枝が岩の腕に絡みついて、ボスの動きを止める。
……?
なんで何人か僕の方を見るの?
……ああ! そういえば木魔法って草魔法の上位だっけ。ごめんよ、僕はコダマ爺ちゃん効果で先取りしただけなんだ。そんなに強いわけじゃないから、気にしないで!
って、キッツ!!
コダマ爺ちゃんが杖の籠に入ってるのに、力負けしそう!
MPが減る減る!!
「【ダークネスクリエイト】」
僕の様子を見た相棒が闇魔法を唱える。
ボスの腕に闇が纏わりついて……でも弾かれた。
相棒は舌打ちをひとつ。
「ネビュラ、【モルテム】」
間髪入れずに唱えたのは、ネビュラと相棒が決めた同化の合言葉。ラテン語で『死』の意味の言葉。
狼要素が入った相棒が、底上げされた闇魔法をもう一度唱えた。
「【ダークネスクリエイト】」
今度は闇がボスの体に入り込んだ。
効果は……肉体デバフ。
ラージゴロロック・スピン Lv20
【防御低下】【筋力低下】
あ、すごい。
わかりやすくMPの目減りが少なくなった。
そして下から聞こえる誰かの魔法の声。
「「「【リーフクリエイト】!!」」」
木の上から追加で巻き付く緑の蔦。
数人がかりで、やっとボスは動きを止めた。
一瞬、ボスの肩のあたりが、光を反射してキラリと光る。
「腕の付け根!!」
「ばーさん出番だ!!」
「あいよ! 退きなぁ小僧共!!」
呼びかけに応えてすごいカッコイイお婆ちゃん出てきた!
肩当て胸当てだけ金属製の軽鎧で、身長より大きな出刃包丁みたいなの取り出した!!
「【フルスロットル】!」
お婆ちゃんの全身に、細い光の帯がグルグルと巻き付いた。
どう見ても光魔法……肉体バフかな?
「【チョップバースト】!!」
構えた巨大包丁を振り下ろしながら唱えた魔法。
包丁の背の部分に空いた穴が爆発したみたいに火を噴いて、振り下ろしが加速する。
──ガギギギッ!!
すごい音を立てながら、巨大包丁が肩の半ばまで食い込んだ。
そこに跳び上がる一人の影。
あれは……ピリオ防衛で蛇を手甲で殴ってた人!
お婆ちゃんの背後から飛び掛かった人が、跳躍からのパンチを食い込んだ包丁の背に叩き込む!
──ゴ ガッ!!
骨が硬い魚の頭を落とすみたいに、ボスの腕が肩関節で切り落とされた!
「ナイス部位破壊!」
「オラ! 畳みかけろ!!」
「こんのクソ坊主! アタシの愛刀がへし折れたらどうしてくれんだい!?」
「貴女の愛刀そんなやわな作りしてないでしょうに」
「かぁっこいいのニャー!!」
ラージゴロロック・スピンは身体に対して腕が大きいから、片方失ったらバランスが致命的に崩れてもう身動きはとれなかった。
僕を含めた数人の魔法使いが片腕を拘束したままの本体を、近接職がボッコボコに殴る殴る。
もうこうなったら元がどんなに頑丈でもあんまり関係ないね。
最終的には、どこか哀愁まで漂わせてボスは儚く消えていった。
──突発ミッションクエスト
──『石の街ロックスの防衛』をクリアしました。
「いよっしゃあああああああああ!!」
「防衛乙ー!!」
「おつかれええええええ!!」
「ここの敵めんっどくせぇなぁ!」
「ポイントうめえええええええ!!」
参戦していたみんなが、お互いの武器をガツンガツンとぶつけあって健闘を称え合ってる。
そっか、接触許可が無いからハイタッチ代わりに武器をぶつけてるんだね。
……なんて微笑ましく見下ろしてたら、白いヒゲを生やしたお爺ちゃんみたいな人が、何故か僕らを見てニヤリと笑った。
「後はシメに今回の功労者を担ぎ上げるだけじゃな!!」
「「「うおおおおおおおおおおお!!」」」
……エッ?
待って、なにその神輿みたいな物は?
接触システム的に胴上げが難しいから、それに載せてワッショイしようって事??
そしてなんで皆キラキラした顔でこっちを見上げてるの???
頭が真っ白になりかけながら隣の相棒を見ると、何かを素早く操作した相棒が、棒のような物を一本僕に手渡した。
【リターンスティック】
折ると拠点に帰還するアイテム。一度使うと無くなる。
「帰るよ」
「ウイッス」
折った直後に「逃げたーっ!?」って聞こえた気がするけど……気のせいって事にしておこう。




