キ:第一回公式イベント開始!
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今日は僕らも楽しみにしていた公式大型イベント『大街道敷設任務発令!』の初日!
メンテも無しに始まるんだから最近のゲームはすごいね。業界ブレイクスルーがあってから、MMO界隈では定期メンテすら死語になりつつあるって話。
僕はその辺の詳しい事は何もわからんけども、すごいなぁーって事はわかるよ。すごいなぁー。
というわけで、1プレイヤーとして純粋に楽しもうと思う。
いつもお馴染みゲーム内朝食をとりながら、相棒とのんびり予定なんかをお話する。
「今回のポイントはイベントの交換期間が終わったら消えちゃうんだよね?」
「そう。ピリオ襲撃の防衛ポイントみたいに持ち越しはできない」
そもそも我々、欲しい物あるかな?
もう景品リストは公開されてるから、内容をツツーッとチェックする。
ふむふむ……低ポイントの消費アイテムセットはよくあるやーつ。
あとは素材系。
今回は庭付き一戸建てとかは無いんだねぇ。
あ、髪型とか髪色瞳色の変更アイテムなんかがある。
強い装備とかも基本景品にならないゲームだから、素材のラインナップが大量に……おや?
「変わった消耗アイテムがある」
「使い捨ての特殊アイテムっぽい」
「ほー」
どれどれ、ラインナップはー……?
ふむふむ、この『リターンスティック』は、折ると拠点に帰還する。シンプルに便利アイテム。
指定したアイテムを中に入れて自室に送る『転移ボックス』とか……このメガホンっぽいのはそのまんま声が大きくなるアイテムかな? どこで使うの?
大体こんな感じで、ちょっと便利な使い捨てアイテムが色々並んでる。
『リターンスティック』は良いかも。
転移オーブが無いと帰るの大変だもんね。
……そして消耗品のリストを通り過ぎた時にそれを見つけた。
「……『テレパスイヤーカフス』」
「ん、どれ?」
僕は相棒にリストを指して見せた。
「共鳴させたイヤーカフス同士で念話ができるようになる装飾品だって!」
「へぇ……装備スロットは消費しない……結婚指輪と同じか。欲しいの?」
「欲しい! これがあれば離れてても変装しててもメッセージ機能も筆談も使わずに相棒と会話出来る!」
「なるほど。ただ……」
相棒は苦笑いしながら必要ポイントを指した。
……この装飾品が載っているのは、リストのだいぶ下の方。つまりは、とっても高額アイテム。
「とるのかなり大変だよ?」
「が、がんがる」
目指せ、どんな時でも相棒との快適な会話!
* * *
さて、いよいよイベント開始のお時間。
僕と相棒も揃ってピリオノートにやってきた。
……う〜ん、人が多いね。
転移広場は露店広場と冒険者ギルド前広場が隣り合ってるから、全部合わせるとかなり広い空間になる。
どうやらそこで開始宣言をするみたいで、簡単な台が端に組んであって、兵士が傍に立っていた。
だから広場は始まるのを待つ人でいっぱい。
相棒が人混みで息切れしそうだし、僕は手を引いて出来るだけ人が少ない端っこの方に抜けた。
「この辺でいい?」
「うん」
「いっそ屋根の上にでも上がる?」
「いや」
口数が死んだ相棒の背中をさすっていると、周りの人が台の方を見てざわめいた。
台に上がったのはピリオの偉い人三人衆。
魔術師団長さんが一歩前に出て……あ、あれ景品のメガホンだ。
「冒険者諸君。私は魔術師団長サフィーラ・ロズだ。此度は大街道敷設任務に参加の意を示してくれたこと、まずは感謝する」
うんうん、襲撃の時の騎士団長さんは凛々しく熱い感じだったけど、魔術師団長さんはすごく落ち着いてるね。
魔術師団長さんは、今後ピリオノートが一層発展をする為に大街道を敷設する必要があること。
敷設した暁にはそれぞれの街との定期馬車が通るようになるので、物資のやり取りはもちろん冒険者も便利になるだろうということ。
そして四方の街を足がかりに、さらなる展開を予定している事なんかを話した。
「諸君の中には、予め石材等の準備を進めていた者も多くいると報告を受けた。実に頼もしい。よって我々はその熱意に応えて、納品及び労働力の提供には上限を設けないつもりだ」
ほほう?
例えば、石材の納品依頼で街道を敷くのに必要な量を超えたとしても、石材は無限に受け取ってポイントくれるってこと?
「資材も人手もあればあるだけ良いからな。余らせるなどもったいない、というか余らせるという発想自体がありえない! 開拓地において現場がどれだけ火の車だと思っているのだ! フフハハハハ、余すことなく使い倒してくれる!」
「ロズさん……悪い顔になってます」
前言撤回。あんまり落ち着いてない。
隣の騎士団長さんが困った顔して魔術師団長さんにストップをかける囁き声が、そのまんまメガホンに入ってきた。
うん、騎士団長さんの方が若くて年下っぽいもんね……魔術師団長さんの方が先輩なのかな。魔王みたいな先輩のハイテンションに困惑する後輩の図はちょっと面白い。
正気に返った魔術師団長さんは、咳ばらいをひとつした
「……そういうわけなので、街道に使用する分をオーバーした石材は、順次闘技場や不死鳥の間へ回していく事とする。さらにそこさえも超えるのならば、いずれ諸君がピリオノートに家を望んだ時のために計画している第二外壁の建造を前倒して行う事になるだろう」
プレイヤー達から嬉しそうなざわめきが上がった。
そっか、プレイヤーの家とかどこに建てるんだろうって思ってたけど、外側にもう一周外壁を作って、そこがプレイヤーの街になる予定だったんだね。
「全ての街道敷設が期間内に終わった場合、現場施工はそのまま闘技場、不死鳥の間、そして第二外壁へと移ってもらう。その他防衛任務や支援も同様に継続する。任務期間中は望むならば望むだけ活躍できる場を提供しよう」
つまりプレイヤーが頑張れば頑張った分だけ、後の楽しみ要素が前倒しになるって事かぁ。
クエストが前倒しで終わって、やる事なくなったーみたいな事にはならないんだね。
どのジャンルも、最後までポイントたっぷり。
「──ではここに、大街道敷設任務の開始を宣言する!! 冒険者諸君! 望みの報酬へ向けて、死に物狂いで稼ぐがいい!」
──ウオオオオオオオオオッ!!!
怒号と拍手と腕が天へ突き上げられた。
なんだろう。イベントの開始宣言というより、出稼ぎ労働者に発破かけたみたいになってる。魔術師団長さん疲れてるのでは?
「依頼・納品受付はこちらでーす!!」
「四方各門にも依頼・納品受付所は用意してありますので、そちらもどうぞ!」
偉い人達が去って行くと、兵士さん達が声を張り上げてイベントミッションの案内を始めた。
目の前のテントに並ぶ人もいるけど、ほとんどの人は混むのが嫌なのか四方の門に散っていく。
僕も相棒も人の波にもみくちゃにされるのが嫌だから、二人で壁際から動かずにしばしその流れを眺めていると、兵士さん数人が大きな案内板を持って来て近くの地面に設置した。そしてまた、同じ物を別の場所に設置するため去っていく。
設置された案内板を見ると、イベント期間中に各ミッションクエストの受付をしている場所の案内だった。
広場と四方の門にあるテントがメインだけど、他にも部門別にやりとり出来る場所がある。
防衛部門は責任者が騎士団長さんだから、工事現場の最前線にも担当官がいる。
敷設部門・資材部門は魔術師団長さんが責任者で、城でも納品や受付が可能。
支援部門は聖女さんが責任者だから、教会でもやりとりができる。
プレイヤーの多いMMOだから、窓口は多いに越した事は無い。
「とりあえず教会いこっか」
「だな」
僕らは手始めに、大量の食材を納品しないとね。




