ユ:ピリオノートで暇つぶし
10/7 拠点襲撃について記述ミスがあったので修正。
イベントに関わらない一般拠点は期間中襲撃無し、ピリオと四方の街は襲撃が発生します。
ログイン前、俺は公式のイベントQ&Aを見つけて目を通していた。
「……真紀奈、公式イベント中とその前後一日はピリオと四方の街以外は拠点襲撃起きないってさ。公式に書いてあった」
「マジで? 助かったぁ〜……」
そういえばピリオ襲撃中も拠点襲撃は発生しないらしいしな。
安心して公式イベントに集中してくれって事なんだろう。
じゃあ、ログインするか。
* * *
ログインして、色々済ませたらピリオに転移。
今日はとにかくクエスト用に食料を買い込みに行く。買うだけだから、変装はいらないな。
ピリオのNPCがやっている食料の店は、大きな倉庫がついているそこそこの規模の店だ。
「何買うのが良いかな……とりあえず小麦?」
「……納品で何要求されるか分からないからな」
二人で悩んでいると、店の人が声をかけてきた。
「もしかして、大街道の工事に向けて準備をしているのかしら?」
「あ、はい」
「だったらそうね……この辺とこの辺が良いかしら」
店の奥さんが勧めてくれたのは、小麦粉と乳製品、あとは肉だった。
「お野菜は他の開拓地での生産も増えたからたくさん来るでしょうけど、小麦や乳製品はまだまだこれからみたいだからねぇ。お肉も、家畜を何頭も潰すわけにいかないでしょうし」
なるほど。
確かにプレイヤーの出店なんかも豆ニワトリがメインだな。牛や豚はまだまだこれからだ。
そしてイベント中は戦闘したいプレイヤーは防衛関係のクエストに多く行くだろうから、肉を狩るプレイヤーは少なくなるかもしれない。
「……ちなみに、お肉を狩るのにちょうどいいモンスターってご存知ですか?」
「お肉だったらそうねぇ……東の森にいるビギナージビエディアとかドングリボアかしらねぇ。美味しいのよ」
食べるためと言わんばかりな鹿と猪の情報が貰えた。ありがたく覚えておこう。
「ありがとうございます。……じゃあとりあえず、この予算で買えるだけさっきのお勧め食料下さい」
「あらあら、まいどどーも! 大倉庫開けてちょうだーい!」
「「大倉庫入りまぁす! まいどありぃ!!」」
テンション、居酒屋かよ。
* * *
大金がとんでもない量の食料になった。夫婦の共有インベントリ無かったら溢れてたぞ。
たまたま店にいた他の客にドン引きされた気がする。
買い出しを終えた俺達は、またピリオ東のパン屋で昼食を買って、坂の上の広場でベンチに座って齧りながらぼーっとしていた。
「……今日の予定、終わっちゃったねぇ」
「買うだけだしなぁ」
本気でイベント走るなら何か準備しに行った方がいいんだろうけどな。最近バードウォッチングしながらの長距離移動をずっとしてたから、そこまでゴリゴリのやる気は湧いてこない。
坂の上から、二人でのんびりとピリオノートの街並みを眺める。
「あそこが転移広場で……あっちが露店広場だよね?」
「……うん、たぶんそう」
「あそこが記念公園で隣が図書館」
「……ああ、あれか」
「あっちの教会みたいなのなんだろう?」
「……そのまんま教会……か? ムービーで聖女がいたのあんな感じの所だった気がする」
「えーっと……城がこれで、向きがこうだから……図書館はこれかな?」
ゲームだけど、ゲーム視点というか……上からこうやってゆっくり配置を見ることがなかったな。
相棒は街を見ながら、前に作った地図に配置を書き込んでいる。
「あとは……お城の近くに空き地っぽいのがあるのと……なんか、外付けの場所? があるっぽい?」
「外付け?」
地図を見てみると、ぐるりと丸く街を囲む防壁に、確かに取ってつけたように出っ張る形の場所がある。
「……そこそこ広いな」
「なんだろうね? 場所は……北側かな」
空き地と謎の場所にも『?』が書き込まれた。
「お城って、中庭あるんだね」
「どれ? ……ああ、囲んでるのか」
「勲章は要らないけど観光で入ってみたい!」
「どうかな……イベントでもあればワンチャン?」
しかし……防壁の中はもうほとんど民家で埋まってるんだな。
プレイヤーがピリオに庭付き一戸建てを入手した時はどこに建つんだ?
まさかこの出っ張ってる所じゃないだろうし……
「あとね……地図だとそんなに大きくないんだけど、西のあたりにも尖塔あるよね」
「……ああ、あれか」
教会はピリオの東寄りで、尖塔は西寄り。
つまり、教会っぽくても明らかに別の尖塔がひとつ、離れた所に建っている。
地図をウンウンと眺めていた相棒は、ワクワクした顔で振り向いた。
「……わかんない所、見てみたい!」
「いいんじゃない?」
それこそ今日はもう予定は無いんだ。
そんな可愛い顔されたら、のんびりピリオの散策で終わったって何の文句も無いぞ。
* * *
坂を下りて、最初は一番近い城の空き地に向かった。
……まぁ、空き地だから特に何も無い。ただの平地だ。
でも、地面は整地されて柵で囲まれていて、木も草も処理されている。
立て看板には『不死鳥の間 予定地』と書いてあった。
「不死鳥の間?」
「誰でも会話出来る不死鳥を用意するとかいう話だから、それじゃないか?」
「……ああ!」
ここにできる予定なんだな。
ただ、建築予定地の段階で、まだ建物に手を付けてはいないみたいだ。
次はそのまま防壁近くの謎の出っ張りの辺りへ向かった。
……防壁の一箇所に、門でもないのに大きめの扉が作られてるな?
近くにいた兵士に相棒が話を聞いた。
「ココってなんですか?」
「ここは闘技場の予定地です」
「闘技場」
「ええ、冒険者からの要望が多かったので、準備は進めていたんです。ただ、建物の石材が『大街道を優先するように』との指示が来ていますので。それが終わるまでは後回しですね」
それを聞いて、相棒が閃いた顔をした。
「あっ、もしかして不死鳥予定地も同じ理由で止まってます?」
「その通りです。大街道が繋がれば物資のやり取りがスムーズになりますから石材なんかも調達しやすくなるので、そっちが優先なんですよ」
そうか、NPCは基本的にアイテムボックス的なのは持ってない扱いだもんな。
石材なんてデカくて重い物を大量に、ってなれば道が優先になるか。
そういうわけで、扉の向こうは取って付けたような出っ張り部分なわけだが。壁で囲んでこそいるけど、今はただの空き地だった。
「……まだピリオにも未解放な所があるんだね」
「だね」
防壁の扉を離れて、次に向かったのは街の西寄りに建っている尖塔。
ここは本当に謎の尖塔だった。
ただ尖塔がひとつ、窓も無しに建っているだけ。
見張りに立つ兵士も「お通しできません」としか言わなかった。
「あそこなんだろうね?」
「さあ……?」
尖塔は完全にヒントゼロだったな。
俺達はそのまま東へ足を向けて……よく似た尖塔を持つ教会っぽい建物へと向かう。
「……うん、やっぱり教会だね」
シスターが複数人、小さな子供の世話をしているそこは、孤児院が併設された教会だった。
「そういえば、聖女さんって孤児院の子だったんだっけ」
「そうだっけ」
そんな設定もあったような……
ってことは、聖女さんは普段この教会にいるのかもな。
「……あ」
なんて考えていたら、その聖女さん本人が子供に手を引かれて庭に出てきた。
……結構気楽に外に出てくるんだな。
まぁ教会や聖女さんに用事があるわけでもない。
相棒と二人、歩みを再開する。
チラッと聖女さんの目線がこっちに向いたのに会釈だけ返して、俺達は転移オーブに向かう。
……と、その時だった。
屋根と屋根の間の狭い空に、カラスみたいな黒い鳥が見えたような気がしたのは。
「っ!?」
慌てて見上げるが、横切った鳥なんて当然のようにもういない。
「どしたの?」
「……カラスっぽいのがいた気がした」
「えっ!?」
「いや、わからない……黒い鳥っぽかっただけで、獣人だったかもしれない」
結局、その日はそれだけで、空を探してもそれらしい鳥は見つからなかった。




