キ:対策が向こうからやってきた
はいこちら現場のキーナです。
よくわからない内に始まった微睡の森の木材オークションがよくわからない内に終わりました。
……なんだったんだろう?
最初は『うちにも買わせろ』とか『買い占めるな』とか言ってあんなに険悪だったのに、オークション終わったら皆ニコニコ握手して健闘を称え合ってる。……まぁ拗れるよりよっぽど良かったけどね。
出来るだけ端っこに露店出して良かったーって思ってたら、オークション仕切ってた人がニコニコしながらやって来た。
ウェーブのかかった髪にファンタジーみのあるスーツっぽいのを着てる男性。
「お疲れ様でした」
『ありがとうございました』
えーっと、オークショニアには手数料とか払った方がいいかなと思って用意はしてあったんだ。勝手に始められたとは言っても、トラブルを防いでくれて助かったのは事実だからさ。
待ってる間に書いておいた看板を見せる。
『手数料渡します』
「ああいえいえ、勝手にやった事なのでお気になさらず。それより……」
男性は、ケースみたいな物からカードみたいな物を取り出して、こっちに渡してきた。
「私、こういう者です」
“行商人パピルス サウストランク最高責任者”
名刺だ!!
ゲーム内で名刺渡されると思わなかった!!
え、待って? ツッコミどころが多い。
その格好で行商人?? そのスーツ姿はどっちかというと事務所に詰めてそうな雰囲気あるけど??
そして『サウストランク』って南の街だよね? この人が開拓者かぁ……
「御二人の噂はかねがね。色々と珍しい物を取り扱っていらっしゃいますが、全力で匿名希望とお見受けしております」
『はい』
あってるあってる。
「しかし需要に対して供給が少ないですから、今後もこのような混乱は避けられないでしょう。……と、言うわけで、どうです? お二人の商品、私に任せていただけないでしょうか?」
パピルスさんが言うには、現状だと僕らが売ってる素材の中でも特に木材の需要が高い。ベッドに使うと高い睡眠バフがかかるからね。睡眠バフはどのプレイヤーも嬉しいから。
だから木材だけでもパピルスさんに卸した方が、今日みたいな騒動は防げるよって話。
……まぁそれはそうだね。
僕らも毎回こんな大事になるの嫌だよ。せいぜいフリマくらいの売れ方かなーって思ってたら、それどころじゃなかったもん。
相棒なんてまだネビュラ構い倒してエキストラに徹してるんだから。
「金額はその時の相場に合わせてお支払いしますし、流行が過ぎたとしてもNPC売値を最低価格とさせていただきます。いかがでしょうか?」
うーん、ちょっと筆談したほうがいいかな。
『滅多に売りに来ないと思いますけど、大丈夫ですか?』
「もちろん構いませんよ。このゲームそういう方多いですから」
『名前バレしたくないので、フレンド登録は出来ないです』
「大丈夫です。メッセージが無くても、露店広場の買い取りテントを御利用していただけますし、南のサウストランクでも対応出来るようにしておきます」
ふむ、割とありがたいぞ?
あの買い取りテントってこの人のだったんだね……
とりあえずネビュラをブラッシングでツヤツヤにしてる相棒をつついて『どうしよっか?』のつもりで首を傾げる。
相棒は『いいよ』って感じで頷いた。
……うん、いいならいいか。
僕はパピルスさんにお返事した。
『じゃあよろしくお願いします』
「ありがとうございます!」
具体的にどこでどうやり取りをするかを細かく詰めて確認する。
パピルスさんは慣れた感じで取り決め内容を紙にまとめてくれた。【転写】で写しを用意して、パピルスさんが両方にサインを入れる。
……僕はちょっと考えて、フッシーのイラストを描いておいた。
「ありがとうございます。今後とも、よろしくお願いいたします」
すごくビジネス感。
とりあえずお土産代わりにリンゴを何個か渡したら、パピルスさんは喜んで一個食べた。
「……『木々が大きく深い森は、中心に方向を狂わせる何かが存在する場合がある』!? なんだってー!?」
パピルスさんは何か思い当たる事でもあったのか、丁寧な挨拶の後、大急ぎで去って行った。
……うん、僕らも帰ろうか。
「もしや、店仕舞いをされておられますか?」
わかってるよ、今日は少な目だけどリンゴは全部売るから。
ガチャ中毒も程々にね!
* * *
「……と、言うわけで。めっちゃお金が増えました」
「どうしてこうなった」
これ襲撃来るとマジでヤバいのでは?




