キ:石の街ロックス
僕らは行き倒れ寸前の初心者トリオを救助して、そのまま一緒に石の街ロックスを目指した。
まぁバードウォッチングしなければ、もうそんなに時間かからずに着く距離だからね。
道中の岩が動くタイプの敵は僕らには余裕だから、張り倒せば特に危険も無いし。
「お二人はリア友?」
「リアル夫婦です」
「リアル夫婦!?」
「リア充の極みじゃん」
「そう言うそちらは?」
「うちらは大学のeスポーツサークル〜」
「このゲーム流行ってるから来てみたニャ」
わいのわいのとした会話をしつつ、ようやくロックスにご到着。
「ついたあああああ!」
「生きてるニャ! 生きてたどり着いたのニャ!」
「もーダメかと思ったー」
ガチで遭難してた人みたいに抱き合って喜ぶ三人。
そういえば、接触許可有りにしてるんだね。そうじゃないとヤバい時に引きずって助けられないからかな?
そんな風に入り口で賑やかにしていると、近くにいた人が一人近付いてきた。
「誰かと思えばお前さん達か」
「あれ、グレッグさん。露店以外で初めて見たかも?」
「ああ、ここはうちのクランメンバーが開拓してる街でな」
「え、じゃあここが拠点?」
「いや、本拠点は手前のモロキュウ村だ。こっちはメンバーが完全に趣味でやっとる所だな」
「へぇー」
そっか、クランメンバーが多くて開拓が何人もいたらそんな事にもなるんだね。
「で、お前さんたちは石でも掘りに来たのか?」
「それはこっちの初心者さん達。僕らはバードウォッチングしながら山歩いてたら襲われてる所を見つけて救助してきたの」
「バードウォッチング……?」
グレッグさんは意味がわからんって顔をした。なんでだよー、バードウォッチング楽しかったよ?
「……まぁいい。そこな三人、見た所初期装備の初心者だな?」
「ッス」
「ですニャ!」
「あってるー」
「大方、イベント用の石を掘っておいてスタートダッシュ決めようって腹だろ」
「うおおバレてる!?」
「筒抜けじゃーん」
「これがベテランの余裕ニャ!?」
狼狽える三人に、グレッグさんはフンと鼻を鳴らした。
「今ここはそんな輩でごった返しとる。ほらついて来い、その様子だと金も無いだろう? 採掘場と寝床を教えてやる」
「マジかよヤッタゼ!」
「ありがとニャー!」
「ご飯も出るー?」
「そこまでスッカラカンか……」
なんやかんや話し合って、三人はグレッグさんの所でお世話になる事になったみたい。
送り届けた先でホームレスみたいにならなくて良かったよ。
「じゃあ、僕らはこの辺で」
「おう、また露店来いよ」
「重ね重ねありがとうございました!」
「マジ助かったしー、ありがとねー」
「感謝感激ニャ! サボテンパンチは立派に受け継いでみせるのニャ!」
「バイバーイ」
「……じゃ」
後は野となれ山となれ。
グレッグさん、三人をよろしくね。
「……じゃ、いつもの観光に戻ろっか」
「うん」
賑やかすぎて減ってた相棒の口数も、戻ってきたことだしね。
* * *
石の街ロックスは、もう文字通りの石の街だった。
防壁は石! 家も石! 道路も石! 名産品から工芸品まで石! 石! 石!
というかここの石材見覚えあるなぁと思ったら、うちの防壁に使ってるのと同じ石だったよ。グレッグさんに調達お願いしてたんだから当然と言えば当然なんだけど。
そんな石の街は、大きな石切場を抱えているけれど、代わりのように畑も牧場も無い。水場も井戸じゃなく用途別の水槽みたいなのがあって水魔法で賄ってるみたい。大きく『節水!』って書いてある。
プレイヤーはともかく、NPCは食べ物どうしてるんだろうと思ったら、主にモロキュウ村から仕入れてるらしかった。道中で追い抜かれた荷馬車、あれも食べ物を積んでいたんだって。だから道が多少なりと整えられてたんだね。
そんなロックスは、今はものすごく採掘人口が多い。
ほとんどがプレイヤーで、初心者三人組みたいにイベントに向けて石材を溜め込んでる人達らしい。
「鎧のまま採掘してるねぇ」
「あの黒い兜見覚えあるなぁ……」
誰だっけ? ……ああ、ピリオ防衛でヒャッハーしてた人?
え、頭だけ黒い兜のまま胴体は土方のおっちゃんみたいな白タンクトップ姿になってるあの人が!?
へぇ~! ああいうガチ戦闘メインみたいな人って寝ても覚めてもレベル上げしてる印象だったよ。イベント用の貯金みたいな事もするんだねぇ。
てかここ、やけにタンクトップ姿の人多いね?
なんて思ってたら、街の雑貨屋さんにその答えがあった。
「採集効率アップ付きのタンクトップだって」
「これか……」
「見て見てこのPOP。『夢坑道用の寝巻にどうぞ!』って書いてある」
「まさか皆タンクトップ着て寝てるのか?」
なんと言う事でしょう、僕らがきっかけで一部プレイヤーの寝巻がお揃いの白タンクトップな可能性が!
僕はタンクトップを一枚手に取って相棒に見せた。
「相棒も欲しい?」
「いやいらない……せめてTシャツがいい」
「だよね。僕もせめてTシャツがいい」
夫婦揃って露出があんまり好きじゃないからねぇ。
リアルのお土産屋さんにあるような、変な日本語書いてあるTシャツだったら考えたかもしれないけど。
「いや俺はそれもちょっと……」
「あるぇー」
駄目かー、そっかー。




