ユ:なりゆきピンチヒッター
悲鳴を聞いた俺達は、一応その悲鳴に向かって駆け出した。
本当にピンチな場合もあるけど、テンション上がり過ぎて絶叫した可能性もある。オンラインゲームは変な奴が多いから。
サボテンを踏まないように気を付けながら岩だらけの坂を駆け下りると、悲鳴の主達が見えてきた。
「やっぱ無理だったニャ! やっぱ無理だったニャ! どーすんだニャアアアアアア!!」
「んなこと言ったって逃げ切れないんだから頑張るしかなぁーっイデデデデデデデ! ヤバイヤバイヤバイ!! 回復くれ! 回復ぅうううう!!」
「カリン! 回復だニャー!!」
「ふにゃあ~……お水ぅ~……」
「「カリィイイイイイイン!!??」」
これは酷い。
猫の獣人とトカゲの獣人と……もう一人いるな?
絵に描いたような初心者三人組がデカい猛禽類に襲われている。
スラッシュコンドル Lv15
でかい猛禽ってコンドルか。
三人組の内トカゲ獣人が構えてる大盾を遊ぶみたいに鋭い爪で蹴りつけている。
……この三人、装備が初期の簡素シリーズだぞ。よくここまで来れたな。
とりあえず相棒が三人組に声をかけた。
「悲鳴聞いて来ましたー、救助いりますかー?」
「「おねがいじばずぅううううう!!」」
「すぅ~……」
返ってきた半泣きの声に苦笑いしながら装填済みのハンドボウガンを両手に構える。
……ああ、そうだ。一応言っておかないと。
「相棒。使う魔法の種類気を付けて」
「え? ……あ、うん、わかった!」
今、変装してないから。死霊魔法使ったら面倒なことになる。
さて、まずはあの三人から離すか。
コンドルのサイドへまわって、ハンドボウガンから4連射。
【装填】スキルはボウガンにも使えるが、弓の時よりリロードが遅いな。まぁ弓と違って完全に仕掛けへの装填状態になるから仕方ない。
初撃こそ当たったが、コンドルも馬鹿じゃない。二発目を掠りながら回避して、少し高い所へ逃げた。
その隙に、猫獣人とトカゲ獣人が、ふにゃふにゃ言いながらぐったりしてる一人を引きずって距離をとった。……危険回避能力は高そうだ。
相棒がそこへ駆け寄る。
「大丈夫?」
「み、水いただけますか!?」
「水?」
「カリン……コイツ、人魚なんです!」
「え、人魚って陸で水不足だとこんなんなるの?」
マジかよ。
人魚って、デフォルトで水魔法があるはずなんだが……うっかり水不足になるとそれすら使えないデバフがかかるってことか。
「【アクアクリエイト】!」
相棒は何を思ったか、人魚の頭に思いっきり水をぶっかけた。陸だから足はあるけど、河童じゃないぞ? 人魚だぞ?
でも効果はあったらしい。さっきまでの脱力が嘘みたいにガバッと起き上がった。
そしてコンドルは……続けて攻撃している俺じゃなく、そっちの初心者の方へ向かった!
こいつ! 狙いの優先がダメージディーラーじゃない!
「相棒!」
「っ!?」
俺の警告に相棒が反応して振り向いた。
そして……コンドルを正面から見据えた。
……焦るとパニックを起こしやすいキーナだが、例外がいくつかある。
そのひとつが、救助対象がいる事だ。
条件が嵌ると思考回路が普段と切り替わるのか、唐突に殺意が高くなる。
向かっていくコンドルに対して、相棒は思いっきり箒を持つ手を振りかぶった。そして──
「【ツリークリエイト】!!」
叫ぶと同時に、地面から凶悪なトゲが生えた極太のサボテンが伸び上がる。
そして振りかぶった腕を振り抜くと、サボテンがまったく同じ動きでコンドルの顔面をぶん殴った。
──ボグォッ!!
「うわぁ……」
痛そう。
というか、見てるだけで痛い。
棘が刺さりながら殴り飛ばされたコンドルは、キリモミしながら地面に落ちて、ピクピクと痙攣していた。
スラッシュコンドル Lv15
【気絶】
……クリティカルでも入ったかな?
脳内で試合終了のゴングの幻聴が鳴る。
突然の暴虐に初心者三人も手を取り合って固まってしまった。
俺はコンドルにそっと手を合わせながら、短剣で介錯をしたのだった。
* * *
「助けてもらってありがとうございました! なので殺さないで下さい!!」
「もー、うっかり水切れ起こしてマジ死ぬかと思ってー、サンキューみたいなー」
「ありがとなのニャ! あのサボテンパンチ痺れたのニャ! 最っ高だったのニャ!」
三者三様の礼……礼? を披露する初心者達。
トカゲの獣人の男はノンアル・ゲッコー、人魚の女性はカリン、猫の獣人の女性はミケコと名乗った。
獣人はキャラメイクの時に獣具合をどのくらい強くするか結構細かく調整できるんだが……二人はかなり強くしてるな?
ノンアル・ゲッコーは完全に全身鱗のトカゲ人間だし、ミケコは猫耳どころか頭全体が猫だ。当然のように長い尻尾もある。語尾のニャも確かオート設定が出来るはずだ。
「……えっと、初期装備でなんでここまで?」
「いやぁ~、俺達CM見て始めたばっかりで。もうすぐイベントだって話だから……」
「色々調べて、それまでに石材大量採掘しておけばポイントガッポガッポできると思ったのニャ」
「そしたらスタートダッシュ決めれるかなってぇー」
で、危うく死出の旅路のスタートダッシュ決める所だったわけだ。
「でもここまで来たら戻るより進んだ方が近いよね?」
「まぁね……」
相棒と俺がそう言うと、三人は嬉しそうに顔を輝かせた。
「マジっすか!?」
「散々迷ってたけどいいとこ来てたのニャ!?」
「すっげミラクルゥー」
そして直後に腹の虫を鳴らして地面に崩れ落ちた。
「……スンマセン、なんか食べ物売ってくれませんか?」
「腹ペコなのニャ……」
「空腹値ヤバゲー……」
ハハ……若者の行き当たりばったり感がすごいな。
「えっと、パンでも食べる?」
「……なんなら街まで送って行くか?」
「「「よろしくお願いします!!!」」」
道中死なれちゃ寝覚めが悪いしな。




