キ:バードウォッチング観光旅行
僕と相棒による、野生のホライゾンクロウを探しながら新天地へ向かう旅は、リアルで数日続くそこそこの道程になった。
木々の間に鳥の姿を探しながらだと、どうしても歩みは遅くなるものだね。
その間会話ができないのはあまりにも苦痛だから、変装していないいつもの装備だよ。
最初に向かったのは東の方角。
鳥を見かけたら、グレッグさんの店で見つけた外側が木製の単眼鏡でその姿をチェック、名前を確認の流れ。
気分は完全にバードウォッチング。
そもそもお散歩ついでに鳥を見るのは好きだし、リアルじゃ道無き道に分け入っていく知識も体力も無いから危なくてできないからフルダイブVRとはいえ貴重な体験。
途中で焚火を起こして食事休憩を取るのも良いアウトドア。
「相棒は退屈じゃない?」
「全然?」
うんうん、付き合わせるだけだと申し訳ないからね。一緒に楽しめるのが最高よ。
う〜ん……ピリオ周辺は小鳥が多いなぁ。
カラスっぽい黒いのはたまに見るけど、よく見ると違う鳥。
平日夕食後にログインすると、寝る時間までが大体ゲーム内での一日になる。
大街道を通す街までは順調に歩いてちょうどそのくらい。
でも今の僕らはバードウォッチングをしているから……なんと、街に着くまでリアルで三日かかりました。
所要時間三倍かぁ……まぁそんなもんか。
最初にやってきたのは、東の街『ブリックブレッド』
レンガ造りの家が立ち並ぶ、整った立派な町だった。
せっかくだし、転移オーブを登録したら観光気分で街を歩いて回る。
蔦が壁を這ってる建物が多いから、わざわざ植えてるのかな?
記念碑のある広場とか、工事中の時計塔とかもあって、観光地みたいだった。大街道が届いた時繋げる予定の場所も、もうちゃんと準備されてたよ。
パン屋さんに『ブリックブレッド』って街と同じ名前の四角いパンが売ってて思わず買っちゃった。
カラスちゃんの見覚え判定は、やっぱり街は見た事無いって。
日が暮れて、レンガの建物がランタンの灯りに浮かび上がるロマンチックな雰囲気を堪能して、終了。
次は平日一日と休日を使って、南の街『サウストランク』へ。
南はピリオ襲撃で戦場になった方角。
そこそこの広さが伐採された跡と、少し焼け焦げた痕跡が残ってる。
こっちは大森林なんて呼ばれるくらい木の密度が高くて鬱蒼としているから、襲撃で大規模に燃え広がらなくて良かった。
木の背丈も高いんだよね。枝葉の天井が高くて空が遠く感じる。
前にダンジョンに行った時、西へ向かう道が伐採されてたけど、こっちも同じように誰かが道っぽく森を切り開いてくれていた。
すごく助かる。これが無かったら鳥を探すどころじゃなかったよ。
「大森林は猛禽類が多いね」
「テイマーに人気らしいよ。カッコいいし、火力要員にもなるし」
「へぇー」
「でも鳥はテイムするの大変なんだって」
「そうなの?」
「飛んで逃げるから」
「そりゃねぇ」
大森林の夜は真っ暗過ぎて進めない。夜目はあっても、見通しが悪すぎる。
テント用意してくればよかったなぁ〜、大人しくログアウトして休憩とついでに家の諸々を済ませた。
黒い影みたいな森の木の隙間から見える星空はすごく綺麗だったんだけどね。
サウストランクは、そんな大森林のド真ん中。
森が急に終わったと思ったら、広く伐採された敷地に建てられた立派な石造りの防壁。入口には衛兵。
中に入ると、馬車が余裕ですれ違える幅の広い道。そして職人の看板が並ぶ大通り。
建物はどこも一階が石造りで、二階より上が木造だった。そういうルールなのかな?
そして鳥系の獣人が住人に多い。
ここはピリオ襲撃の時も鳥のモンスターに襲われたって話だし、大森林も猛禽類が多かったから、飛べる戦力が必要なのかも。
街を歩いていると、新築っぽい家に『職人・商人・鳥系獣人の方、優遇します!』って張り紙があった。街がそういう方針なんだね。
ショッピングは時間がかかりそうだし、今は欲しい物も特にないから、また今度。
ここのカラスちゃん判定も同じ。建物に見覚えは無くて、森の感じは覚えがある。
転移オーブの登録をして、拠点に帰還。
休日二日目は、西にある『石の街ロックス』へ出発。
ここは他の三つの街に比べると距離が遠め。
前に行ったことのあるモロキュウ村が大体中間地点になるらしいから、転移してそこを出発地点にする。
西方面は、モロキュウ村より先は岩肌が露出する山岳地帯。
木がまばらで、見晴らしが良い。
そしてモロキュウ村から石の街ロックスへの山道はある程度均されているのか歩きやすい。転落防止の柵なんかもあるから、誰かが整備したんだと思う。
「……相棒、後ろから馬車が来た」
「おー?」
おおー、幌付きの荷馬車だ!
御者のおじさんが僕らを見て軽く片手を上げてくれた。
「お二人さん、ロックスに行くのかい?」
「そうですー」
「二人くらいなら端っこに乗れるけど、乗るかい?」
「鳥を見ながら行きたいので、お気持ちだけいただきます」
「鳥?」
なるほどそれじゃあ幌馬車じゃ都合が悪いな、とおじさんは笑った。
「この辺ってどんな鳥がいますか?」
「大型の猛禽が広い範囲を縄張りにしてるくらいかねぇ。水場もあまりないし、ほとんどいないよ」
見られるといいな! と激励してくれて、おじさんは馬車でパカパカ僕らを追い越していった。
「そっかー、この辺はあんまり鳥いないのかー」
「見つかってないだけって可能性もある」
「まぁね」
その可能性も考えて、特に足を速めたりはせずに探しながら進むことにする。
カラスがいなくてもね、大型の猛禽はちょっとどんななのか興味あるし。
そうして道端の可愛いサボテンを採集しつつ山を進んでいた時だった。
「「「アギャーーーーーーーーーーー!!」」」
急に遠くから聞こえた悲鳴に、思わず相棒と顔を見合わせる。
「聞こえた?」
「聞こえた」
「推理物だったら殺人事件が起きてるやつだよ」
「名探偵呼んでくれ」
軽口叩き合いながら、一応駆け足で悲鳴の方へ向かう。
たぶんプレイヤーだろうけど、NPCだったら寝覚めが悪いしね。




