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ユ:蓋を開ければそこには


 ワンパンベアを倒しながら山を探索する事数時間。


 山なだけあって、じっくり調べて周ると相応の時間がかかる。

 探索にどれくらいかかるかわからないから、今回は鉱物素材以外は全部スルーして進んだ。

 金属っぽい物は見当たらず、岩肌が露出するばかりの道程だったが……ついにネビュラが可能性の高そうな場所を見つけた。


「……死の臭いがする」


 スンと鼻を鳴らしながら言うネビュラの後に続くと、崖際にぽっかりと開いた洞窟が見つかった。


「んー? ぐるぐる周ってたからすごく遠く感じたけど、位置的には割と僕らの拠点に近い方?」

「……っぽいかな」


 拠点からまっすぐここに向かえば、そんなに時間はかからないんじゃないか?

 通うにはちょうどいい距離って事になる。


「あとはここに鎧の素材があれば最高じゃない?」

「まぁそうだね」


 さて、そう上手くいくもんかね。


 ひとまず危険なガスが無いかどうか、木片に火を点けて放り込んでみる。

 ……問題なく燃えてるな。酸素はあるって事だ。


「じゃ、入ってみるか」

「うん!」


 そう言って、期待しながらも警戒しつつ、洞窟へ一歩踏み出した……その時。



 いつかのワールドクエストのように、アナウンスが世界に響き渡った。




 ──《特殊区域『夢の牢獄坑道』への、プレイヤーの到達を確認しました》

 ──《これにより就寝時の仕様が変更》

 ──《低確率でイベントが発生するようになります》


 ──《特殊区域『夢の牢獄坑道』が限定開放されます》

 ──《就寝時のみ低確率で入場し、資源を採掘する事が可能です》




「……聞こえた?」

「聞こえた。……他の人も聞こえたのかな?」

「……ちょっと確かめてみるか」


 ものすごいデジャヴを感じながら、ゲーム内スレを開いた。

 ……まぁ結果なんてわかりきってる。


「……全プレイヤー聞こえてたタイプのアナウンスだな」

「どうして」


 どうしてだろうなぁ?



 * * *



 まぁ、二回目ともなれば俺達が開き直るのも早い。

 何がある場所なのか確かめる為にも、このまま進む事にした。


 限定開放って話だから、他のプレイヤーと遭遇する可能性を考慮して俺と相棒は変装しておく。


 ジャックがランタンそのものだから光源には困らずに俺達は洞窟を進んだ。

 穴はそれなりに広くて、二人くらいなら並んで歩いても余裕がある。

 ネビュラを先頭に、俺と相棒が続いて、ジャックが最後尾。


 洞窟は下り道で時折枝分かれしているが、ネビュラは死の臭いとやらを辿っているらしく迷わず進んでいく。


 モンスターも一応いるが、どうやらノンアクティブらしい。



 魂啜り虫 Lv17

 曖昧ワーム Lv20



 見た目はデカいヒルとデカいヤツメウナギだな。

 レベルがそこそこあるから狭い中で戦闘になると動きにくくて面倒だ。スルーして先に進む。


 そうして潜っていくと、岩壁に奇妙な模様が増えてきた。

 所々が虹色に煌めく黒い塊。

 ……もしかして鉱物か?


「……これ採掘してみよう」

「ん、オッケー」


 用意してあったツルハシを取り出して、二人でカンカン殴り始める。


「……主も奥方も慣れておるな?」

「上手だよネ」

「……採掘はあちこちで需要があるからな」


 フルダイブゲームでも良く使うんだよな、釣りと並んで頻度が高い気がする……っと、採れた。



【レゾアニムス鉱】…品質★★

持ち主によって強度が変わる不思議な金属。

これを使って作られた武具は、使い手の精神に共鳴して強くなる。



「ほー?」

「どんなどんな?」

「オレも見たイー」


 ワラワラと寄ってくる相棒とジャックに採掘した鉱物を渡す。


「たまにある、魔法使いとか僧侶系向けの装備に使われてそうな性能してるな」

「あー、確かに。魔法系なのに前線張りたい人とかが使ってそう。……でもこれならデューに丁度いいんじゃない? 精神上げれば一緒に鎧も強くなるでしょ」

「オオ! なるほド!」


 デューだけじゃなく相棒の装備にしたっていいんだぞ? 職業的に精神が高いんだから。


「それに、ここなら僕らがいない時でもジャックが自分で採りに来れるね。いっぱい練習出来るよ」

「ヤッター!」


 見た所、相当な量が露出してるみたいだからな。

 ジャックの鍛冶レベル上げにはとりあえず困らないだろう。



 * * *



 ひとまず採掘は後回しにして、ネビュラの気になる物を確認するために俺達は奥へ進んだ。


 この洞窟はダンジョン扱いではないらしい。

 かといって、特殊区域なんてアナウンスが流れただけあって、普通のフィールドでもなさそうだ。


『夢の牢獄坑道』

 その答えは、ネビュラが先導する最深部にあった。


「……ああ。なるほど、これと繋がっていたか」


 そう言って、ネビュラが巨大な縦穴の前で立ち止まった。


「……わぁ」


 相棒が思わずといった感じに声を零す。


 一周するのに結構な時間がかかりそうな大穴は深くて底が見えない。

 だけど見えない底から、うっすらと紫色の……光なのかオーラなのか、そんな感じの物が揺らめいている。

 その穴の壁には無数の小さな横穴が開いていて、中に半透明の人っぽいものが横たわっているのが見えた。


「え、なにここ?」

「これは『井戸』よ」

「井戸?」

「魂が深い深い眠りの底の牢で、いずれ来る死に魂を慣らす場所。……とはいえ人の子は自我も意識も強靭故、そうそう慣れはせんだろうがな」


 ネビュラが言うには、この穴の底には死の海の水が滲みだしていて、汲み上がる死の香りで魂に馴染ませるとかなんとか。


「普通は井戸が外と繋がったりはせぬ。珍しい事もあるものよ」

「……あそこで寝てる人達は大丈夫なの?」

「深く深く眠っておるだけだ、起きれば還る。……ただ眠りが浅ければ、牢ではなくここに降りるやもしれぬな」


 ああ、なるほど。低確率で今俺達がいる所に来たプレイヤーは、ここの鉱石を採掘できるのか。

 ただ、ゲーム内就寝は脳の休憩を兼ねてるから……しっかり余裕を持って休んでいるプレイヤーしか来られないようになってるのかもしれない。


「まぁ覚醒状態の生身でこの島に住む主や奥方には関係の無い場所だ」


 それはそう。

 採掘だって普通に来られるし。


 そしてネビュラが言うには、夢見でここに来ている存在は、洞窟から外には出られないらしい。

 洞窟に入る時だけ注意しておけば、俺と相棒がここに住んでいる事はバレないだろう。



 帰りは井戸から離れた所でレゾアニムス鉱を採掘した。

 幸い他プレイヤーとは遭遇しなかったが、探索と採掘とでゲーム内では一日がかりだ。

 拠点に帰ればログアウトの時間。

 休日二日目も終了だな。


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― 新着の感想 ―
[一言] 採掘装備で就寝するプレイヤーを想像して草
[一言] ゲーム内睡眠でしか入れないダンジョンとか珍しい 外れの地域からしか行けない難易度だから、町に近いプレイヤーからしたら相当珍しいアイテムなんかな?
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