キ:ある日、山の中で熊さんと再戦する
ゲーム内で就寝しつつ、一回落ちて夕食を摂る。
裂いた茹で鶏とレタスのゴマドレッシングかけを堪能しながら、この後向かう山について打ち合わせ。
「鶏うめぇ、ゴマドレ最高かよ……雄夜は前に山ちょっと行ってたんだっけ? どんなだった?」
「ネビュラで駆け抜けただけだからな……とりあえずワンパンベアがいて、植物がゲーミングだった」
「ゲーミング」
あの山の植物って、そんなギラギラしてるの?
* * *
再ログイン。
拠点寝室のベッドでお目覚めしたら、準備を済ませて山へ出発!
「ネビュラ、三人乗れる?」
「造作もない」
優秀。
でも三人が限界っぽいかな。
いつもより少し大きめなネビュラの背中に乗せてもらって、森をスルーして変な形の山に向かう。
僕は杖の籠にコダマ爺ちゃん、首から下げた小さい籠にデューを入れてきた。あと、やっぱり霊蝶が一匹、帽子にくっついてる。
んー、豆ニワトリを見ててもらうとはいえ、フッシーが留守番気味なのは気になるなぁ。
まぁもう少しオバケ増やせって話なんだけどね。いっぺんに知り合い増えるの苦手なんだ……頭の中で混ざっちゃうから。
せっかくうちの子になるんだから、混ざらないようにしたい。
さて、山に到着。
「うわー……本当に葉っぱがゲーミングだ」
「面白いネ」
「目がチカチカする……」
「うむ……余も少しばかり落ち着かんな」
相棒とネビュラは目をシパシパさせてる。
僕もこの色合いは得意じゃないかなぁ……色の多いロリポップ溶かしたみたいな草木はなんか精神にクる。
「まぁ気にしないようにしながら進もうか」
「うん」
相棒曰く、この山にはもっと気にしないといけない相手がいるらしいからね。
──ベァアアアアア!
ほら来た。
ワンパンベア Lv22
熊さんオヒサ。
壁無しで対峙すると普通に怖いね! ホラーがどうこうじゃなく、生き物としての恐怖を感じる。
だってもうサイズがクマ牧場とかで見たヒグマよりデカいんだもん。
「熊サン、コーチラ!」
先鋒はジャック。
楽しそうに鉈を構えて飛び掛かっていく。
一回ワンパンされてるのにね、勇敢でなにより。
擦れ違い様に斬りつけてベアのヘイトを引いた。
熊の追撃がジャックに向かう前に、僕の一手。
「【ツリークリエイト】!」
伸びた根っこが熊の足に絡まって動きを阻害する。
襲撃の時の蔦のリベンジだ!
あの時より上位属性の木魔法で、イメージは固さよりも弾力性。MPだって成長してる!
……よし、イケる! 今回は引き千切られない!
熊さん、ダッシュや踏み込みが上手くできません!
「【ダークネスクリエイト】」
そこに相棒の闇魔法が追い打ちをかける。
ワンパンベア Lv22
【盲目】
よしよし、見えなければジャックやネビュラにワンパン入る確率はグッと下がる。
こうなっちゃえば後はタコ殴りよぉ!
相棒が安全圏から連射して、足を取られてる熊の闇雲パンチを掻い潜りながらジャックとネビュラが攻撃を加え続ける。
さすがに鹿よりも耐久が高くて時間はかかるけど、以前とは比べ物にならないほどスムーズにワンパンベアを倒す事ができた。
「いいね。足止めが出来てれば普通に狩れる」
「後は複数出てこない事を祈るだけ……」
「それな」
熊パンチなんてね、裏切りの暴虐を遠目に見ただけで十分だよ。
……そんなことを考えてたからフラグが立ったかな?
「三頭お出ましだぞ」
「クマー!」
のっしのっしとやってくるワンパンベア×3
縄張りとかどうなってるの!
「霊蝶ちゃん、呼んでいい?」
「……いいよ。まだ距離あるし、やってみな」
お許し入りましたー! 行きます!
「【サモンネクロマンス:霊蝶の群長】!」
地味に初使用だね霊蝶ちゃん達。
熊の足元に広がる強大な魔法陣。
そこから虹色に煌めくガラスの蝶が、熊を覆い隠すほど溢れ出す。
──ベ……ア……?
──ベァアッ!?
──ベァアアアアアアアアッ!!!
ワンパンベア Lv22
【戦意喪失】
ワンパンベア Lv22
【混乱】
ワンパンベア Lv22
【大激怒】
……ちょっと一匹よろしくないの入りましたね??
「【ダークネスクリエイト】!」
ブチ切れモードの熊へ、間髪入れずに相棒が盲目をかけた。
そしてネビュラがブチ切れ熊さんに、混乱している熊がいる方向から攻撃を仕掛ける。
──ベァアアアアアアアアッ!!!
──ベグッ!? ……ベァアアアアアッ!
ブチ切れ熊さん、見えないからって混乱してる熊をぶん殴ったー!
さすがに混乱してても殴られた熊さん怒ったー!!
激しい! めっちゃ激しい熊同士の喧嘩が始まった!!
ワンパンベアとワンパンベアによるワンパン合戦だ!!
戦意喪失してる熊さんなんて、ビックリしてどこか逃げちゃったよ!
……ある程度消耗した所で、相棒が魔法も使った渾身の一射。
混乱熊さんはポリゴンになって消えていった。
もう一頭も虫の息。
ジャックとネビュラでサクッと討伐。
「よし! なんとかなったね!」
「……思ったんだけどさ」
「うん?」
「ワンパンベアって、精神だいぶ低くない?」
「……かもしれない」
前は魅了にもかかってたもんね。
搦め手が得意な僕らには、むしろ戦いやすい相手なのかもしれない。




