キ:コケッコ里親探し
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自分でも謎なハイペース更新いつまで続くかわかりませんが、書きたい物をマイペースに書いていくスタンスは変えずに行こうと思います。
ログインまだです。
今日はお休み二日目。
用事を済ませないといけないから、朝から雄夜と外出中。
町に出てくると観光客が多いなぁ。
大きな交差点で信号待ちをしていると、門のビルの大きなスクリーンで大音量のCMが始まった。
『無限生成されるオープンワールドファンタジーで、果てしない開拓を始めよう!』
聞き覚えのあるフレーズに、思わず目線が向く。
画面に映っているのは色んな開拓地のワンシーン詰め合わせ。
そしてピリオのお偉いさん三名の到着パレード。
『ようこそ人の子よ』
大写しになるフッシーの言葉を皮切りに、映像は戦闘シーンへと切り替わる。
滅びと戦う云々の台詞を流しながら、繰り広げられるのはピリオの初回襲撃映像。
木々の間を跳び進む人、豪快に槍斧を振り回す黒鎧の人、お揃いの紋章付きのメンバーを率いるお嬢様、駆けつけた手甲の人、弓を撃つ変装したユーレイ、他にも必死に戦う人やモンスターの群が映る。
『君だけの開拓、君だけの戦いが待っている!』
ナレーションの直後、変装した僕が杖を掲げてフッシーを召喚した場面が映ってホワイトアウト。
『Endless Field Online』のロゴが光って、次のイベントの告知をしつつ、CMは終わった。
「………………ヒェェ」
「……不意打ちだ」
横断歩道の誘導音と一緒に大量の横断する人を見送りながら、僕らは揃って遠い目をしていた。
いや、わかるよ?
もうすぐ第一回公式イベントだもん、それをダシに新規を募るのは当たり前だよね。わかるわかる。そのためのCMに使うのにパレードとピリオ襲撃はちょうどよかったのもわかる。
でも心の準備が何も出来てなかったよ!
「……変装しててよかったね」
「それな」
一気に気力を削られた僕らは、若干ヘロヘロしながら横断歩道を渡り始めた。
* * *
ログインしました。
なんだかんだ帰宅したら15時くらい。ゲーム内時間も同じくらい。
インしてご飯を食べて外に出ると、僕らを見つけたジャックが駆け寄って来た。
「マスター、旦那サマー、おはヨー」
「おはようジャック」
「おはよう」
ジャックは何故かニワトリを一羽抱っこしている。
「あのねあのねマスター、豆ニワトリじゃないニワトリが育ったヨ」
「えっ?」
* * *
覚醒コケッコ Lv3
なんという事でしょう!
豆ヒヨコの内の一羽がやけにせっせと床板の隙間から生える雑草をついばんでいると思ったら、何故か豆ニワトリではない別物として成長したではありませんか!
「そんなことある?」
「なっちゃってるんだよなぁ……」
あれかな……ヒヨコからニワトリになるのって、もしかして進化の扱いなのかな?
変な所の変な草食べて変な進化しちゃった的な……
覚醒コケッコは見た目は普通のニワトリだった。
頭のトサカは赤い普通のトサカだし、豆ニワトリについてる首周りの豆も無い。
強いて言うなら、イタチくらいなら返り討ちにしそうなくらい目つきが悪い。可愛いけど。
「……どうしよう?」
「まぁ……別に育ててもいいけど?」
「でも、もったいない気がしない?」
覚醒コケッコは、【おはようコケッコ】と【覚醒の声】っていう固有技っぽい物を二つも持ってた。
どう見ても、家畜じゃなく戦闘系のニワトリっぽい。
でも、僕らはテイマーじゃない。
従魔を扱えないわけじゃないけど、従魔の力を最大限に引き出すのはやっぱり本職には敵わない。テイマーになる気も無いし。
あと……他の豆ニワトリとうっかり喧嘩でもしたらドえらい事になりそう。
「……こんなに才能溢れる子は、もっとのびのび活躍できる所がある気がする。なんとなくだけど」
「まぁ相棒がそう言うなら、好きにしな」
お許しが出たから、僕は早速準備を開始した。
ニワトリの片足にリード代わりの紐を結んで、餌と小さなお皿を二つ。……テイムしてるわけじゃないからね。扱いが家畜のままだから。逃げないようにしないといけない。
そして大きめの板に詳細を書く。
『突然変異で生まれた戦闘向けっぽいニワトリです。【おはようコケッコ】と【覚醒の声】という技を持っています。大事にしてくれる方を募集中』
よし。
後は人目につくように、客寄せリンゴガチャの籠をまた用意して。ああ、椅子も持っていこう。
あとは僕が変装すれば準備はオッケー。
「準備完了であります!」
「うん、気を付けてね」
「コケッコバイバーイ」
「コケッ」
相棒とジャックに見送られながら、僕はコケッコの里親を探すべくピリオノートへ転移した。
* * *
やってきました露店広場。
フワフワのニワトリを抱っこしながら、僕は空きスペースを探した。
平日の16時頃は割と人が少な目。……夜の方が良かったかな? まぁいいや。
壁際が空いてるから、そこに椅子を置いて座った。
一人一個までのリンゴガチャを置いて、覚醒コケッコの里親募集の看板も立てる。
あとは餌と水をお皿に入れて、コケッコを足元で好きにさせておいた。紐を自分の手首に巻いておけば大丈夫。
さて……里親は見つかるかな?
のほほんとしていると、早速何人かがソワソワしながら近づいてきた。
「リンゴください」
『いらっしゃいませ』
フリマの時の看板を取っておいて良かった。
お買い上げした人は、嬉しそうにリンゴを齧る。
「……『スプリングダックは求愛ダンスで宙返りする』」
「知らねー!」
だいたいがその場で読み上げてくれるから僕も面白い。
オヤツの時間だし、僕もリンゴひとつ食べようかな。
──『一部のキノコが四角の配置でそれぞれ育つと、合体して四つ足キノコになる』
怖。
* * *
しばらくそうしていると、なんだかアカデミックな集団がやってきた。
ものすごく真剣な顔でリンゴを買って、ものすごく真剣な顔で食べて、ものすごく真剣な顔で結果を共有しメモに取ったりしてる。
雰囲気がね……クソ真面目な学会なんだよね。
そんな論文読むみたいにしてこのリンゴ食べる人達初めて見たよ。
その中の一人が、覚醒コケッコに目をやった。
……そしてシステムウィンドウ的なモノを開いて、何やらポチポチしている。なんだろう?
そしてしばらくすると、高校生くらいの見た目の青年がひとり。すごい勢いで露店広場に駆け込んで来たかと思ったら、覚醒コケッコを見ていた人に呼ばれてこっちに走って来た。
「こ、このニワトリですか!?」
「そうこれ!」
青年はものすごく必死な顔で覚醒コケッコの里親募集看板に目を通した。
そして、キリッとした顔で僕に向き直る。
「すみません。この覚醒コケッコ、僕が買わせていただきたいです!」
わぁお。脳内で『娘さんを僕にください!』みたいな副音声が流れる勢い。
コケッコはオンドリだけど。
「僕、友達と一緒に開拓してるんですけど。眠らせてくる敵が多くて困ってたんです。この覚醒コケッコなら、あいつらに勝てるかもしれない! ……もちろん、上手くいかなくても、倒した後も大事にします! お願いします!」
あら、すごく切実な理由が出てきた。
……うん。ちゃんとダメだった時も、解決した後も、大事にしてくれるって言ってくれたから、いいんじゃないかな?
僕は覚醒コケッコを抱き上げて、青年の方を向かせた。
……どう?
「コケッ!」
コケッコは『お前を待っていた!』と言わんばかりに僕の手から青年に飛び移った。
ふふ、決まりだね。
はい、どうぞ。僕はコケッコの足の紐を外す。
「あ、ありがとうございます! えっと、お代は……?」
いらないよ?
僕は首を横に振った。
僕らには出来ない活躍の場を与えてくれそうな人を探してただけだもん。
大事にしてね、の意味を込めて、看板を見せる。
『ありがとうございました』
「あ、こちらこそ、ありがとうございました!」
「コケッ」
礼儀正しい良い子だねぇ。良い里親が見つかって良かった良かった。
青年は何度もペコペコ頭を下げながら去って行った。
可愛がってもらうんだよー
……さて、里親も見つかったし撤収しよっと。
そう思ってリンゴをしまおうとすると、周りのアカデミック集団がわたわた変な動きをした。
え、何?
「もしや、店仕舞いをされておられますか?」
すごいデジャヴ。
こくりと頷く。
「ならばそのリンゴ、全てこちらで買い取りさせていただく事はできませんか?」
……君達、フリマのガチャ中毒集団かい。
僕は生温い気持ちになりながら、残りのリンゴを全部売った。
まいどどーも。




