キ︰カミングアウトの相談と、初街デート
「まず大前提として、俺達は自分から名前を売りたくはない」
「それはそう」
相棒の言葉に、僕は深く深く頷く。
こんな『ワールドクエストを起こした張本人』なんてね、配信でもしてたなら泣いて喜ぶ展開だったんだろうけど。生憎僕らは夫婦二人で楽しみたいエンジョイ勢だから。
でも、でもだ。
僕は気になる所を挙手して述べる。
「ただ……これはTRPG的なメタ視点の意見なんですが」
「はい」
「協力プレイで情報の抱え落ちはマズイと思います」
別にね、ドロップ品がどうとか、スキル構成だの装備品がどうだのとか、そういうのはわざわざ皆に知らせようとは思わない。気になる人が情報持ち寄ってどうぞって思うんだよ。有志wikiってそういうことでしょ?
ただ、今回のこれは違う気がする。
ゲーム全体がハッピーエンドに行けるかどうかの分岐みたいなモノだと思うんだ。
その分岐条件すら他プレイヤーに知らせないのは、なんとなく信条に反するというか。万が一バッドに行った場合に気分が良くないよねって話。
誰かと競争してるなら出し抜くために秘匿にするけど、今はそうじゃないから。
そんなお気持ちをなんやかんや相棒に伝えると、相棒はうんうんと頷いてくれる。
「じゃあ、なんとかして周知しないといけないね」
「そーね……掲示板に書いたらどうかな?」
「いやぁ……スレはさ、騙りも出るから、たぶん埋もれるよ?」
そっかー、そりゃそうか。
嘘を嘘と見抜けない人は~ってやつだね。僕なんかは割と鵜呑みにするタイプだから騙りが出たら見分けつかないし。
「あと、公式板は固定でキャラ名が出る」
「マジで? じゃあダメだわ」
匿名じゃないならノーセンキュー。
「じゃあ信憑性のある人に広めてもらう……にしたって、その人には僕らの事がバレるって事だもんなぁー!」
「そうだね。絶対に俺達の事を隠しておいてくれるって保証は無いね。そんなに仲のいい知り合いのプレイヤーもいないし」
僕らの事を伏せてもらったとしても、後々に『なんかいい情報ないっすか?』みたいな定期連絡が来たら鬱陶しくて仕方ない。
そういうのが嫌でこんな僻地に来てるんだから。
僕もね、相棒ほどじゃないけど人付き合いはあんまり好きじゃないんだよ。
……と、そこで付き合わなくて良さそうな相手をひとつ思いついた。
「NPCに広めてもらうっていうのは?」
「NPCかぁ……動きが読めなくて逆に危ない気がする」
そっか。
まぁそうか。
内緒にしてもらっても、ゲームの進行の為に内緒の解釈捻じ曲げられたら困るもんね。
「ん-、思いつかない!」
「じゃあ気分転換に街でも行ってみる?」
「行く! ……でもいいの? まだプレイヤーで混んでるかもよ?」
「装備整えた方が良さそうだから、そうも言ってられない……」
「目が死んでる……!」
そこまで危ないモンスターと遭遇したりはしなかったらしいけど、今後はわからないから装備はあるに越した事は無い。
そんな結論に至った相棒は、メンタルと引き換えに買い物へ向かう道を選んだのだ。
おいたわしや。
でも僕はお買い物デートができて嬉しいよ、ごめんね。
できるだけ人混みを避けようねと話しながら、僕らは不死鳥さんに見送られ、オーブに触れて街へと転移した。
* * *
最初の街『ピリオノート』は、正統派な中世ファンタジーという感じの街並みだった。
立派な石造りの外壁がぐるりと周囲を囲んでいて、少し高い丘の上には外壁と同じ色の城がドンと建っている。御貴族様のいる城というよりは、砦の方の城って感じ。開拓地だからかな。
町並みはレンガと漆喰と木のお家。いわゆるハーフティンバーって雰囲気。
そこそこお金をかけて丈夫かつオシャレに仕上げた街って感じがする。
「βテスターは、この街を作るのに貢献した冒険者って事で石碑に名前が残ってるんだって」
「へぇー」
「勲章も貰ってて、NPCに便宜が利きやすいらしいってwikiに書いてあった」
「いいねぇ、そういう特典は嬉しいだろうねぇ」
装備の引継ぎは無し、外の開拓地も初期状態に戻されたけど、ゲームの歴史の一部になっているのは面白いと思う。
せっかくだから、観光気分でその石碑を見に行った。
石碑があるのは、『入植記念公園』っていう緑地。大きな広葉樹がたくさん生えた、木漏れ日のきれいな小道がある一角。
いいね、こういう所を二人でのんびり歩くの最高。
歩く内に、開けた場所に建てられたグレーの石にたどり着いた。そこにはβテスター達のキャラクター名がずらっと刻まれている。
「……この人達ならNPCの偉い人にお目通り願ってお話したりできるのかな」
「かもね」
う~ん、勲章かぁ……いや、情報拡散にはいいのかもしれないけど。
「僕らには向いてなさそう」
「それな」
ゲーム内だとリアルよりも正義感は前に出てきやすいけど。それでもずっとヒーロームーブするのは疲れるし、めんどくさい。
この勲章持ちにコンタクトを取るっていうのも現実的じゃないしなぁ。
キャラ名が書いてあるから、メッセージを送ったり、探そうと思えば探せるのかもしれないけど。自分に置き換えて考えたらそんなのとんでもなく煩わしいと思う。そんな迷惑、見ず知らずの人にかけたくないや。
公園を離れて、二人でゆっくり街を散策した。
装備品、主に防具を売っている店を重点的に見てまわる。
NPCの店は初心者向けから上級者向けまで、一通り揃っている印象だった。とはいえ、オーダーメイド以外はたくさんいるNPC兵士とお揃いになってしまうのが玉に瑕。兵士RPがしたいならいいんだろうけど。
プレイヤーのお店は露店広場があって、ほとんどがそこに固まっているらしい。
らしいって言うのは、このゲームは相手の名前が浮いてたりしないから、プレイヤーとNPCの見分けがつかないせい。
広場はそこそこ賑わっていて、サービス開始直後にしては思っていたより数が多い。
「さてキーナちゃん」
「はいユーレイくん」
「我々は今、一文無しです」
「そーですね」
「さっき軽く森を見て来た時に集めた素材をとりあえず売ろうと思います」
「はい、いいと思います」
「ただ、我々がいる所の素材は、たぶん変な素材が多いんじゃないかなと思います」
「はい」
「目立つかもしれません」
「はい」
「……よろしくお願いします」
「知ってた」
リアルの買い物もあんまり好きじゃないもんね。
いいんだよ。適材適所だ。
「でも一緒には来てね」
「うん、一緒には行くよ。店員と会話はしないけど」
いつもの買い物スタイルで行く事を確認しあってから、僕らは広場の中に踏み出した。
露店は屋根なんて無い、敷物を敷いて上に品物を並べただけ。時々テーブルを置いているお店もあるけど、そんなに多くない。
服、簡単な武具、アクセサリー、薬、各種素材。このあたりが定番かな。
まずはツラーッと流し見て、端から端に抜けた。
「……素材買い取りしてるのは三、四箇所くらい?」
「かな」
「どこか良いところあった? 僕に任せるとあそこになるけど」
そういいながら目をやるのは、小さなテントを設置している買取専門店。
「素材買い取りしてまーす。個人情報守りますよー」
お客はあのテントに入って、周りから見えないように取引できるって事だと思う。
今の僕らのニーズにあってはいるんだけど……
「ええ……むしろ怪しくない? 中で素材ごとスクショとか撮られそう」
「あー」
そっか、基本PvPは無いしセクシャル要素は出来なくなってるゲームだけど、変な詐欺みたいな事はできる仕様なんだよね。
「確かに、怖いか」
「どっちかというと、俺はあっちがいい」
そう言って相棒が指したのは、愛想のない髭の生えたオッサンがどっかり座っている端っこの露店。
店のラインナップは薬と道具系。机の上に『素材買取相談可』って書いた板が置いてある。
呼び込みとかは一切してないんだけど、時々強そうな装備の人が立ち寄ってやりとりしてる。
「じゃあそっちにしよう」
こういうのは相棒の感覚を信じるに限る。
オッサン露店の前に行って、木の板を指した。
「買い取り良いですか?」
「……見せてみな」
夫婦の共有ボックスからアイテムを取り出す。相棒があらかじめ麻袋に入れてくれていたから、安心だね。
ラインナップは、森で狩ったウサギのドロップ品の毛皮、それから採取した植物。
【うたた寝ウサギの毛皮】…品質★★
うたた寝ウサギからとれたフカフカの毛皮。わずかに精神異常を防ぐ効果がある。
【微睡草】…品質★
摂取すると眠くなる草。少し青臭い。
【ネジネジドングリ】…品質★
ネジのように捻れたドングリ。
食べると目眩を起こす。苦い。
森には他にも色々あったけど、相棒はとりあえずこの三つに絞って集めてきたみたい。
店のオッサンは麻袋の中を覗き込んで……綺麗に二度見した。
「……未知の素材は一律NPC売値の倍だ。それでよければ全部買い取る」
「NPC売値わかるんです?」
「【相場】のスキルだ。自分で店やるなら取ったほうがいい」
「へぇー、じゃあそれで全部お願いします」
オッサンは算盤を取り出してパチパチ弾き始めた。算盤自分で作ったのかな。すごい雰囲気出ていいね!
「あー……全部で端数切り上げ7万8000リリーなんだが、こっちの持ち合わせが6万5000しかなくて足りん。不足分は商品と交換か、または買い取りをやめるかだ」
なんか思ったより高くなった。
でも僕ら相場がわかんないからね。こんなもんなのかも。
「せっかくだし、交換しよっか」
「ん」
口数が激減している相棒に声をかけて、品物を吟味する。
1万リリーでイイ感じの初心者向け調合セットがあったから、それを。これで練習すれば、自分で薬が作れるようになるかもね。
残り3000リリー分は全部回復ポーションと交換した。
「まいど。今日の分でどれくらい使える素材なのか確かめるから、次も来るなら値段が変わると思ってくれ」
「わかりました」
二人でお礼を言って、店をあとにする。
……うん、あの感じなら特に僕らのこと言いふらしたりはしないんじゃないかな。一回も袋から素材を出さずに済ませてくれたし。さすが相棒のチョイスだね。
遠ざかると、後ろから声が聞こえてきた。
「あれ、グレッグさん今日は買い取り終わり?」
「金が尽きた」
「マジで?」
……ゴメンナサイ、グレッグさんをスッカラカンにしたのは僕らです。
若干気まずくて、僕らは早足気味にその場を去った。