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ユ:嘘は言ってない。


「相棒! 相棒! クエストだよ無詠唱の!」

「はいはい、今度は何だ?」


 仮眠から起きた俺を待ち構えていたのは、テンションが振り切れた相棒だった。

 受け止めて、詳細を聞いて、該当する本を読む。



 ──ロングチェーンクエスト『失われし刻印』を受諾しますか?



「……なるほど、俺も出たわ」

「やったぜ!」

「でもロングチェーンクエストだから、すぐに何かが動くわけじゃないっしょ。地道に情報集めて行くタイプのクエストっぽい」

「…………確かに!」


 相棒がスンッと正気に戻った。

 はい、じゃあ昼食とりに一回ログアウトしような。



 * * *



 ラーメンを食べてのんびりしてから、俺達は再ログインした。

 のんびりしている間に、こっちは日が昇っている。

 ゲーム内では適当にスープを作って皆で食べた。

 ジャックも練習がてら手伝ってもらった。俺達がいない時はリンゴを齧っているらしいから、料理は覚えた方がいい。

 畑は順調だし、豆ニワトリの扱いを覚えれば色々作って食べていられるはずだ。


 相棒はジャックが独立した事もあり、自分の強化手札を増やすためにも籠を増やす事にしたらしい。

 森で集めた蔦や枝を相手になんやかんやしている。


 俺はひとまず、考えていた通りにボウガンのための一手を打とう。


 ようは実際にスムーズに動く物を作って見せればいいんだ。

 そこに『たまたま出会ったNPCから聞いた』って情報も加えてやればいい。

 情報と模型が揃えば、迷う理由なんてなくなるだろう。


 普通の木材を用意して、工具で切り出して、昼食の時に調べておいた割りばしボウガンっぽい物を作った。



 ──【木工】スキル取得



 ……そういえば取ってなかったな。

 まぁいい。

 出来た割りばしボウガンに作った矢をセットして撃ってみる。


 ……撃てない。


 引き金が引けない。

 そんなに固くなる理由は何もないはずだ。なのに引けない。引けないから飛ばない。

 なるほど、これは確かに心が折れるな。

 こんな単純な構造なのにまともに動かないのは詳しい奴ほど発狂する。


 俺は相棒の所へ向かった。


「相棒、前にフリマで琥珀貰ってたよね?」

「あー、あったねぇ」

「あれ少し割って破片使っていい?」

「いいよー」


 ちょっともったいない気もするが、このままインベントリの肥やしになるよりいいだろ。

 特に貴重品みたいな記述も無いし。


 工具を当てて、ゴッと叩けば小さな破片がとれた。


「じゃあこの欠片に【木魔法】で、矢を射出する部分を動かす魔法を籠めてもらえる?」

「キーは?」

「……とりあえず指先でタッチでいいや」

「はいよー。……なるほど、琥珀は確かに【木魔法】っぽいね」


【木魔法】はエルフなら誰でも到達できる属性だしな。

 ちょっと早いってだけで別におかしくはないだろ。


「【ツリークリエイト】……はい」

「ありがと」


 魔法を籠めた琥珀の欠片を割りばしボウガンに組み込む。


 矢をセットして、琥珀部分に指で触れた。



 ──ビョイン



 ……なんだか間抜けな音を立てつつ、それでも矢は飛んだ。

 琥珀も壊れていない。念の為2,3発撃つが繰り返して使えてはいるな。

 矢がへっぽこなのは作りが雑だから仕方ない。


「よし……じゃあ、露店行ってこれ渡すけど……相棒も一緒に行かない?」

「行くー」


 即答だった。

 リーフボアのクエストをまだ報告してないとか一応理由はあったんだけどな。



 * * *



 今日の上弦弧月さんの店には上弦弧月さんしかいなかった。

 よし、あの小人テンションで騒がれると注目集めそうだからな。運が良いぞ。この人に渡せば自動的に兄貴分にも伝わるだろ。


「例のボウガンについてなんですが、偶然出会ったNPCから使えそうな情報が聞けたんで、ちょっと模型を作ってみたんですよ」


 嘘は言ってない。

 フッシー含めたNPCとの出会いなんて偶然だからな。


 俺は『道具は魔法を使って動かせばスムーズに動く事』と『魔道具が同じ効果がある事』を伝えた。


「魔道具についてはギルド裏の魔道具屋に本売ってたんで、それ読めば大丈夫かと。……で、これです」


 琥珀付き割りばしボウガンを口が開きっぱなしの上弦弧月さんに渡す。

 上弦弧月さんは恐る恐る矢をセットして、琥珀部分に指で触れた。



 ──ビョイン



「撃てたっ!」

「撃てたんですよ」


 上弦弧月の視線が俺と割りばしボウガンを往復する。


「ど、どんなNPCだった!?」

「えーっと……なんかたまに高笑いする感じのNPCでしたね」


 嘘は言ってない。


「ど、どこで会った!?」

「拠点の近くで偶然」


 嘘は言ってない。


「ま、また会えるか!?」

「さぁ……?」


 否定はしてない。

 だから嘘は言ってない。


「こ、この情報は……拡散しても構わんか?」

「別にいいですよ。俺もたまたま聞いただけなんで」


 だからスレ民の発狂を鎮めて、早いとこボウガン作ってくれ。


「あーでも俺の名前は出さないでもらえると」

「お、おお……わかった。感謝するぞ。兄貴が泣いて喜ぶ」

「ボウガン待ってますって伝えてください」


 じゃ、と会釈して、相棒と一緒にその場を離れる。

 上弦弧月さんは、さっそくどこかに何かを書き込んでいるようだった。


 しばし歩いて、露店広場を出るあたりで、広場の中から


「愚弟ぃいいいいいい!! 方法が見つかったってどーいうことだぁあああああ!!」


 ってすごい声が聞こえてきたから、俺はそっと心の中で上弦弧月さんに合掌しておいた。

 相棒は苦笑いしていた。




 なお、リーフボアのクエストは期限ギリギリだった。

 危ない危ない。


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