ユ:女神の内心
消えたキーナを慌てて追いかけたら気まずい状況になった……
そうかー、神様の呼び出しだったかー……まぁもう来ちゃったからどうしようもないな。
そしてこの状況で、俺は前に死の神から呼び出された時の記憶が蘇り、芋づる式にひとつのアイテムの存在を思い出した。
(相棒、『死の神のお墨付き』着けよう)
(ん? ……あー、そうだ神様と会う時に正装として着けろってポメベロスパイセンが言ってたっけ)
(そう)
それなら正装する準備時間が欲しいけどな。
俺とキーナは、今は変装していない魔女と暗殺者風の装備だから、とりあえず首に黒い革ベルトを着けた。
……すると、理の女神が布越しにジッと見つめた後にボソリと呟く。
「……ふむ、死の神の気に入りとな。あの堅物が認めているならば……まぁ悪意は無いと見てよいか……」
おお、『着ければ本国の神も邪険に出来なくなる』みたいな説明文が書かれているだけの事はあるらしい。警戒が薄れたか? 少し空気が和らいだ気がする。
「えっと……女神様? 僕はなんでここに呼ばれたんですか?」
俺の服の袖をつまみながら恐る恐るキーナが訊くと、理の女神はうっすら目を細めて言った。
「……それはこちらの台詞だ。そなた、何故に失った魔法を求めた?」
聞き取りにくい女神の声に、わずかに苛立ちのようなモノが混ざる。
「アレを終わりにした経緯は知っておろう? それを知り、なお求める理由は何だ?」
……返答次第では不興を買いそうだな。
そんな理の女神に、キーナは「んー……」と宙に目線を向けてから答えた。
「話を聞いてみたかったからですね」
「……話? 妾にか?」
「いえ、死んだ魔法のオバケに」
あ、理の女神がフリーズした。
「……待て……そなた、魔法を求めたな?」
「はい」
「……使うために求めたのでは?」
「ああー……そっか、呼べたら使えるんだ? なんかその辺は考えてなかったですね。理の女神様と技術神様がどんな感じでその魔法のルールを決めたのかーとかの昔話を聞きたいなーって思ったのがメインでした!」
女神の首がコテンと横に傾げられた。
布で隠れて表情がほぼ見えないのに、困惑が手に取るように分かる。
「……こんな古い女神の話など、聞いてどうする」
「え、興味のある話に古いも新しいも無いですよ? どっちも好きです」
あ、女神がもう1回フリーズした。
……と思ったら、今度は俺達の後ろから押し殺したような笑い声。
「ウククッ……貴女は面白い考え方をしますね。そういう発想は是非大切になさってください」
愉快そうに笑ってやって来たのは男神。
書類束をいくつか抱えた、インテリ感のある姿。
……この神様は見たことがある。あれは星座を開放した時だから……技術神か。
技術神はゆっくりと歩いて俺達を通り越し、理の女神の傍へと寄る。
理の女神は、落ち着かなさそうにそわそわと身じろぎした。周囲の薄布が、それに合わせて波のように揺れる。
「渡しても良いのでは? そもそも死の神のお眼鏡にかなったヒトの子ならば、警句を忘れるような事は無いでしょう?」
「…………それは、そうだが……どうせ古い魔法など、要らなくなるのが関の山だろうに……お前だって、古いモノは忘れられて当然だと言ったではないか……」
(……ん?)
女神の言い方に引っかかりを覚えた俺は、思わず疑問がキーナへの念話になっていた。
(どしたの?)
(……いや、なんか今の言い方……声色に、自嘲が混ざっているような気がした)
(あー……確かに、メンタル崩壊して『こんな俺でごめんな』って言ってる時の相棒にちょっと似てるかも)
すると、キーナが何かピンときたかのようにポロリと呟いた。
「あ、もしかして……それがイヤだった?」
その言葉に何を感じ取ったのか、理の女神は慌てたようにオロオロと両手が宙を彷徨い。技術神はそんな女神を見てから、興味深そうな顔でキーナに続きを促した。
「それ、とは?」
「んー、ちょっと失礼かもしれないですけど……さっき女神様、『こんな古い女神の話など』って言ってたんで……技術神様が『古い技術は忘れられて当然』って考え方なら、『自分も忘れられちゃう』と思ったのかなーって」
……変化は劇的だった。
キーナが語った途端。
風も吹いていないのに、女神の顔のほとんどを覆っていた布が、バサッと弾けるように外れてしまった。
現れたのは、耳まで真っ赤に染めて慌てる年齢不詳の美貌。
布を取り戻したくても、あまりにも長すぎる裾のせいで身動きが取れない女神は「見るな見るな!」と言いながら必死に顔を隠そうとしている。
(え、かーわーいーいー!)
(……ニヤケ顔少し隠そうな)
まだ当の神様目の前にいるから。
さて、当の技術神はと言えば……『あちゃー』と言いたげな苦笑いを浮かべながら、慌てふためく理の女神をガン見していた。
「貴女の衣が外れた……という事は、正解ということですね」
「う……うるさいうるさーい! い、い……いつだって、理を暴いた分だけ力強く美しくなるお前は、きっと……全てを暴ききったら、ただ古いだけの妾など飽きて捨てるに決まっている!」
(あー……自分が年上なのを気にしてるのか)
(あとアレじゃない? 相手が技術神だから……世界の理の全てを知ったら、飽きちゃうんじゃないかって思ってるんじゃない?)
(……そんな日は永遠に来ないと思うけどな)
世界の謎なんて、解かれるのと同じくらい増えるモノだと思うが。
だが、女神はそうは思わないらしい。
「……だから……この魔法は、妾への戒めなのだ……古い女神なのだ、いずれ飽きられる存在なのだ、と……!?」
半泣きになりながら自棄になって心情を語っていた女神は、技術神に突然抱きしめられて驚き硬直した。
周囲の薄布が、女神の心の中を表すように嵐のようにバサバサと荒れ狂う。
「……すみません。それほど傷つけているとは思いませんでした」
「ぁ……う、ぁ……」
「飽きませんよ、例え貴女の全てを知ろうとも。きっと私は、私という存在が滅びるまで貴女を求め続ける」
「……っ」
「とはいえ、すぐに信じてはいただけないでしょうから……これからまた時間をかけて、貴女に証明し続けましょう。──世界が終わるその瞬間まで」
うーん、少女漫画かな?
隣で俺の腕にくっついているキーナは、それはそれは満足そうに口を押さえて頷いている。
(フゥウウウウウ! 最・高! ゲーマスAIさん、ありがとうございまーす!)
(ヨカッタネー)
とはいえ、女神は拒絶こそしていないが応じてもいないから……もうしばらく両片想いは続くんだろうな。
二柱が恋人や夫婦になるかどうかは……それこそ、運営のみぞ知るって所だろう。




