キ:理の女神様と
神官さんの話によれば。
理の女神様は、もちろんこっちの世界じゃなく本国の世界の神様なので。ヒトの子がこっちの世界に来る事になった時、ヒトの子が扱う理をどうするのか、当然神様同士の話し合いが為された。
「そしてこちらの生誕の神の返答は……『全て受け入れる』との事でした」
それがヒトの子が生きるのに必要ならば、この世界は新たな理を受け入れる。
生まれ続けて、生きる事。ただ、それだけ。
生誕の神は、無限に広がる世界と同じくらいに広大な寛容さでもって、ヒトの子が扱う技術をその理ごと飲み込み受け入れた。
「生と死は生誕の神が最も重要視する部分なので、そこは手出しを許されませんでしたが。それ以外の事は、大体が本国の神の干渉を良しとしたのです」
だから理の女神は、こちらの世界の理へ分け身を送り、新たな世界の理を学んで調整を行う事となった。
そもそも異世界から何かが迷い込んだ時は、それをそのまま飲み込み新たな法則としていた世界なので。特に天使からも精霊等からも反対の声は出なかったらしい。
「さて、そういった経緯でこちらの世界でも我らに力を貸して下さる理の女神ですが……技術神とはとても深い間柄である事は御存知ですか?」
深い間柄?
技術神は開拓神と仲が良いとしか聞いた事は無かった僕らは、フルフルと首を横に振った。
ガレンシアドナさんは、そんな僕らにニンマリと笑って語る。
「理の女神を語る上で、これは外せないお話なのですが……神話によれば、技術神は、理の女神に恋焦がれているらしいのです」
ほほーう!
神様のラブストーリーだ!
「夫婦とかでは無いんですか?」
「違いますね。技術神はずっと理の女神へ想いを伝え続けているのですが……女神もそれを嫌がらず、むしろ喜んでいる節があるというのに、色良い返事は無いままだそうです」
恋の女神がやきもきして見守っているらしいけれど、どうも進展しないらしい。
「技術神も理の女神も、どちらも真面目な神ですので。そんな二人が一緒になるのは本国の世界の主神も歓迎しているそうなのですが……理の女神の踏ん切りがつかないまま。随分と長い時が経っているのだとか」
へぇ~、両片想いの神様かぁ〜
なんて思っていたら、神官さんはとんでもな話を最後に放り込んできた。
「というわけで、紹介状には『無詠唱について学んでいる冒険者の方々』とありましたので。以上を踏まえて、重要なお話をいたしましよう」
スッとガレンシアドナさんの表情が、真面目な物に切り替わった。
「新しい魔法の技術とは……技術神と理の女神が話し合い、共に編み上げる新たな法則です。つまりは……少し大袈裟に表現するならば、二柱の合作、子供のようなものとも言えましょうか」
……あ。
「そんな存在を、過去、我らヒト族は『もういらぬ』と捨ててしまった。……結ばれる事こそしていませんが、憎からず思っている技術神との結晶です。それを、捨ててしまった。そして魔法は死んでしまった」
魔法は死んでしまった……
「当時の事は、ハッキリと文献に残っております」
そして語られた昔話。
昔々、魔法はひとつの事象につき個別の法則が必要だった。
だから、当時の理の女神の聖女と技術神の聖人は、それはそれは多忙だった。
連日色んなヒト達が押し寄せて、『あんな魔法が欲しい』『こんな魔法が欲しい』と訴える。
休む暇もない聖人・聖女のため。
そして文明をもっと発展させたいと願うヒトの子のため。
理の女神と技術神は考えて、そして新しい魔法を生みだした。
それが、今の魔法。
これでヒトの子はより良い方向へ進むだろう、と。
自分達が選んだ聖人・聖女も、もう少し休めるだろうと。
……と、思ったのに。
ヒトの子は、今まで散々お世話になってきた古い魔法を『もういらない』と言ってしまった。
古い魔法も
新しい魔法も
どちらも同じ、ヒトの子のために作られたものである事に変わりないのに。
だから理の女神は怒って、いくつかの魔法を消してしまった。
「……技術神は怒らなかったんですか?」
「はい、技術神からのお咎めはありませんでした。『新たな技術の登場で古い技術が過去のモノとなるのは、よくある事だ』と。……女神は、それも余計に気に食わなかったのかもしれませんね」
二柱は、仲違いこそしなかったけれど。
「恋の女神は、それを聞いて頭を抱えたそうですよ」
だろうねぇ……理の女神は、がっかりしちゃったんじゃないかな。
う〜ん……これはどうやって『無詠唱』が出来るようになる流れなんだろうね。
普通のRPGだったら『神様ごめんなさい』のヒトの子を許してイベントがあるかもしれないけど……
「当時のヒトって、女神様には謝ったんですか?」
「ええ、もちろん。盛大に謝罪の儀を執り行った結果、全てが消えることは避けられていくつかの古い魔法は残りました。それ以上のお咎めは無かったそうですよ」
もう謝罪も終わった後なんだよねぇ。




