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ユ:不眠とカボチャと魔道具と


 休日早朝、俺は変な時間に目が覚めた。


 3時はまだ暗いんだよなぁ……隣の真紀奈は当然まだまだ起きそうにない。

 何度か寝返りを打つが、眠気は帰って来ない。


 ……仕方ない、諦めてゲームスレでも見るか。


 ずらりと並んだスレを気になった物から開いて流し読みする。

 こんな時刻でもゲーム内時間は三倍だからそこそこ書き込みが流れる。


 色々見て回っていて、機械関係考察スレとかいうのを見つけたから覗いてみた。


 ……発狂してるなぁ。

 でも良い線行ってるのはすごい。

 スムーズに動かすには『魔法を使う事』と『精が宿る事』の二通り道があるから逆に混乱してるのか。

 でもこれなら、ちょっと後押しすればすぐ進みそうだ。変装もいらないな。


 閉じて、また次のスレに行く。

 ……あ、エクストラバージンゴマオイルだ。あれはやっぱりエゴマ亭の襲撃だったか。

『なんでか防御ダウンのデバフがついてて助かった』……そうか、無事で何より。後で真紀奈にも教えよう。

 ……えぇ……不死鳥の骨でガラスープとってる奴がいる。ゲームだからってよくやるな……


 不眠の虚無をスレで紛らわしながら、真紀奈が目を覚ますまで俺は情報収集を続けたのだった。



 * * *



 ログインしました。


 今日の真紀奈は、仮拠点だったコンテナハウスをジャック用に改造するらしい。

 ログイン時間が時間だから外は暗いっていうのに、待ち切れないのかランプで照らしてせっせと作業をしている。

 この拠点で初めての、普通のNPCの家って事になるな。住むのはオバケだけど。


 身体が出来たジャックは普通に睡眠も食事もする。意識がある以上休憩は必要だし、食事は服の中の炎を維持する燃料みたいなものか。

 これだと、NPCなのに死んでもロストしないから強キャラみたいに見えるが、もちろんデメリットもある。


 ひとつは、ポーションや魔法によるHPの回復ができない。

 元々が精の成りそこない。分類は死霊で身体は作り物。

 だからポーションの類が効かない。

 霊だから光魔法の回復も効かないだろう。β情報によれば、光魔法には霊を退散させるようなのもあったはずだ。

 身体が……というか服やカボチャが傷付いたら、生産系スキルで補修するか死に戻るかしないとならない。


 もうひとつは、装備品の制限が強い。

 そもそも頭と身体に物品を使っているから、そこは変更が効かないらしい。必然、付け替え出来る防具はアクセサリーだけって事になる。

 NPCとパーティーを組むなら、強い装備品を渡せば強化できるからな。それが出来ないのは純粋にキツイ。


 それから、これは相棒にとってのデメリットになるが……死霊として籠に入れることができなくなった。

 身体を持った状態で固定されたんだろう。

 相棒はむしろ喜んでるから良いんだけどな。


 あとはまぁ……純粋に見た目が人外なんだよな。普通の人のNPCと会った場合にどんな反応されるかわからん。


 そういう感じで、ジャックは中々クセの強いNPCになった。

 でも、そんな特異性なんてどこ吹く風。当のジャックも相棒も嬉しそうだ。



 で、今日の俺は、そんな二人が見える窓辺で読書に勤しんでいる。


 読んでいるのは『初めての魔道具』

 魔道具作りの基本が書かれた本だ。

 意外にも複雑な罠についての記述があって、わりと真剣に読み込んでしまった。

 そうだよな。【罠】スキルのテンプレも今の所は落とし穴とかウサギ罠、大きな物では落石なんかの単純な罠がメインだけど、もっと高レベルのトラップが出てくるならそれは複雑な構造になる。

 ……案外その辺が必要になった頃に『魔道具ならいけるんじゃね』って流れにはなってたのかもしれない。


 本は魔道具の基本というか、道具と魔道具の違いは『魔法で動かす』っていう当たり前っちゃあ当たり前のことから始まっている。

 そして俺が知りたいのもまさにそれだ。


 魔法は石に籠める事ができるらしい。

 魔力とMPさえ伴なえば、イメージして思い通りに動かせるのがエフォ(EFO)の魔法。

 だから、『どんな効果のある魔法』で『何をキーに発動する』かを考えて『石に籠める』。これが魔道具の製作の初歩。

 この三つの具体的なイメージが出来ていないと魔導具は失敗する。

 大量生産する時は、ここまでをワンセットにして魔法登録すればいい。


 俺は例として、インベントリから魔法の地図を取り出して開いた。


 白紙の羊皮紙にくっついている目みたいな石。

 この魔導具は、この目みたいな石に魔法が入ってるわけだ。

 どうせ拠点のマップは欲しかったから、試しに窓から投げてみる。

 石は前とまったく同じ挙動をして、白紙の地図に俺達が住んでいる周辺の地図を書いた。 


『高所に飛び上がって周辺を確認。その内容を紙に転写する』っていう魔法が、『石を上に放り投げる』って動作をキーに発動する。

 そんなところか。

 使われてる魔法の属性はちょっとわからない。地図に書き出されてる線が焦げみたいに見えるから、火魔法は入ってそうだ。複合魔法かもしれない。あるいは、俺の知らない隠し属性みたいなのがまだあるのかもな。


 魔法を籠める石だが……本によれば、これは何でもいいみたいだ。

 そこらへんの普通の石ころにだって魔法は入る。


 ただし、石によって適切な属性が違う。


 合わない属性の魔法を入れると効果が半分以下になったり、最悪石が使い捨て扱いになって砕けてしまう。

 ……魔法の地図はあえて使い捨てになるようにしてるって事か。じゃないと売れなくなるもんな。

 適性の高い石に見合った属性の魔法を入れれば、それこそ何度でも強力な魔法を撃てるような物が出来上がるらしい。魔法剣みたいなのはこれを使って作るんだろう。

【魔導具製作】のスキルレベルが上がれば、この石の判別ができるようになるらしい。


 ……さて、こんな刺さる奴には刺さりそうな魔道具の作り方。どうして知名度が低いのかと言えば……これはスレを一通り眺めた俺の予想だけど……流行から外れているからだ。


 魔道具は生産系とちょっと毛色が違う。

 必要なのは魔法だから、これが得意なのは魔法使いだ。

 そして……エフォ(EFO)はまだサービスが始まって日が浅い。

 魔法系を選んだプレイヤーは、まだまだ『初めてのゲーム! レベル上げたーのしー!』ってなってる時期。開拓勢に関しては言わずもがな。

 初期で生産スキルを選んでいないのにあえて生産に走る人数は多くない。


 そしてつい最近、フリーマーケットで相棒が【刻印】についての本を売った。

 今、装備品の生産界隈は空前の【刻印】ブームだ。

 紋を刻むだけで性能が上がるんだからやらない理由がないし、その紋をいかにデザインに上手く取り入れるかによってカッコよさの度合いが変わる。

 だから職人はデザインにも力を入れて、露店の個性が目立ち始めた。

 そうなれば、買う方だってデザインと性能の両立を求めるわけで。結果としてさらに【刻印】付きが選ばれていく。

 そんな感じで『【刻印】が使われている方が売れる』っていう流行が出来上がった。

 だから誰もかれもが【刻印】の習得とレベルアップに勤しんでいて、『魔法の装備=刻印』みたいな雰囲気になっているのが現状だ。


 魔道具は、この空気の中でちょうど盲点に入り込んでしまっている。


 ……つまり、半分くらいは俺達のせいだな?


 俺は読み終えた魔道具の本をパタンと閉じた。



 ──【魔導具製作】スキル取得



 専門書は属性の本と同じ。読めば習得はできる。

 実は相棒の【刻印】と【転写】の本も同じ効果があった。俺がそれでスキルを習得して気がついた。だからフリマではあんなに職人が押し寄せたんだ。

 抜け目がない商人は相棒が販売時に許可を出していたから【転写】で増刷した本を売っているらしい。スレで話題になっていた。やったな相棒、ベストセラー作家だ。フリー素材扱いだから印税は入らないけどな。


 ……さて、本当ならこのままちょっと作業をしたい所なんだが……眠い。

 不眠のしわ寄せがきたな。

 あー、フルダイブVR機器の警告が視界の端に出た。これはダメだ。

 ……どうせ脳は休まるんだし、ログインしたまま休むか。そうすれば機器のバイタルチェックが入るから、何かあっても家族登録してる相棒の機器に連絡が行くし。

 フルダイブしててリアルでの家族の異変に気付かなかったってのはちょいちょいニュースになるからな。

 窓から顔を出して、相棒に声をかけた。


「相棒、ちょっと寝るわ」

「ん、ログアウトする?」

「いや、このまま仮眠取る」

「はーい、おやすみー」

「おやすみ」


 ベッドで横になって、仮眠設定をする。

 リアルで昼食の時間までにしよう。


 フルダイブVR機器で不眠対策をするのは割とよくある。専用の睡眠アプリなんてのもあるくらいだ。

 ただフルダイブ中は体が動かないから、体がバッキバキになるのが難点。それを改善する専用ベッドもあるにはあるけど、ちょっと値段が高すぎる。


 まぁ、本来遊んでいる時間で睡眠をとるなら関係ない。


 設定を終えて布団に潜り込めば、速やかに意識は眠りに落ちて行った。


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