ユ:次の行き先は
キーナが買って無詠唱クエストを見つけた『刻印について』の本には、要約すると『刻印とは古い魔法の形態で、自由度の高い今の魔法が確立した直後に失われた』といった感じの事が書かれていた。
フォースィさんの話の内容は、確かにその記述に当てはまる。
「昔々の魔法はね、それはそれは数が多かったのよ。ひとつの事象につき呪文がひとつ……あんな事もしたい、こんな事もしたい、と思ったら、その都度約束を増やさなければならなかったの」
普通のファンタジーゲームの魔法はそうだな。
色んな魔法があらかじめ用意されていて、その魔法を唱えるとそれが起こる。
「今の魔法は、属性を元にした約束事。頭の中で望む事象を思い描いて、言葉で属性を指定する。【クリエイト】という文言が約束の呪文。世界は約束通りにマナを受け取り事象を引き起こすわ」
それがエフォの魔法の基本だ。
そしてエフォの魔法は自由度が高いと言われる所以。
「この新しい魔法はね、それまで使っていた魔法と比べると、とても使い勝手が良かったのよ」
確かに便利は便利だ。
属性ひとつにつき覚える呪文は1つで良くて、属性の種類さえ間違えなければあらゆる形態を取ることが可能だ。
自由度が高すぎて、想像するのが苦手なプレイヤーが参考動画の世話になるくらいには応用が利く。
「だから新しい魔法が広まった時に、みんな口に出してしまったのね。『もう不便な魔法は使わなくていい』『これさえあればいい』って……」
「あー……それは、なんか……」
「……うん、それまで世話になっておいて、それはちょっと……」
「そう。だから、消えてしまったの。気付いた時には、もう遅かった……これが、【刻印】の一部が消えてしまったお話ね」
ヒトは愚か系のエピソードだな。
やっぱり犬しか勝たん。
フォースィさんはマグカップの中身をひと口飲んでひと息つく。
すると、システムウィンドウが現れた。
──ロングチェーンクエスト『失われし刻印』系列クエスト。
──『古い魔法の語り部』をクリアしました。
よし、これでおつかいは完了だ。
……と、思ったところで、フォースィさんが苦笑いしながら口を開いた。
「さて、あの子が説明して欲しかったのはこんなものだと思うけれど……多分、あなた達はもうひとつ、別の方に別のお話を聞いて来なさいって言われると思うわ」
「もうひとつ?」
「ええ、今度はね、神様について詳しく聞いて来なさいって。……あなた達は、『理の女神』については詳しいかしら?」
『理の女神』について話を聞いた事は無い。隣のキーナも首を横に振る。
「全然知らないです」
「それなら、ワタシからの紹介をするから、このまま会いに行ってみると良いわ。一度あの子の所へ戻ってもいいけれど……きっと同じヒトの所へ行きなさいって言われるでしょう」
──ロングチェーンクエスト『失われし刻印』系列クエスト。
──『理の女神の物語』が開始されました。
ああ、もう自動で開始になるんだな。
二度手間になるなら、確かに一度戻る理由は無いか。
フォースィさんは、俺達には小さめの……フォースィさんには大きな紙を広げ、そこに場所と名前と、紹介状を書き込んだ。
「この街から北へ向かいなさい。そうしたら、大きな神殿が見えてくるはずよ。そこにいる『ガレンシアドナ』という神官さんにこのお手紙を渡せば、お話を聞かせてくれると思うわ」
* * *
「神殿かぁ〜、ついに来たって感じだねぇ」
「まぁRPGあるあるだな」
フォースィさんがいる図書室を後にした俺達は、観光ついでに街の店を眺めている。
この街は、ドライフルーツが特産品らしい。街の上の湖のほとりで果樹を育てているそうだ。
住民NPCがみんな飛べるから、見張りを立てながら農作業をしていて、ヤバいと思ったら街に逃げ帰ってくるらしい。きちんと戦える住民も多いので、大きな被害が出たことは無いんだとか。
いくつか選んで購入しながら、俺達は次の目的地の話をしていた。
「大きな神殿って言うくらいだから、もうお城みたいなのがあるんだろうねぇ……やっぱり住民も聖職者ばっかりなのかな? 修道院みたいになってたりして」
「観光終わったら1回ログアウトして軽く調べよう」
「だねぇ。……あ、干しキノコもあるよ。『出汁がよく出ます!!』って書いてある」
「買うか、スープ作ろう」
「わーい」
後は、キーナはゲーム内夜時間にツキワタリを見たいなら休日の今日がチャンスだ。
昼食の時間を調整して、様子を見てもいいかもな。




