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夫婦でほのぼの開拓VRMMO  作者: 島 恵奈華
2年目、春のアニバーサリーイベント

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ユ:買い物と、水盆の水と、夜


 再ログインしました。


 俺達は、念のため森夫婦の変装姿になり、二人揃ってピリオノートへ。

 まずは手持ちのリリーで充分な量の銀が購入出来るかどうかの確認だ。


 転移広場に降り立つと、教会の鐘の音が遠くから聞こえてきた。


(なんだろ? 今日って春イベントのスケジュール何かあったっけ?)

(……さぁ?)


 手を繋いでいるキーナが鐘の音が聞こえてくる方角を見ながらソワソワしているので、システムウィンドウを開いて掲示板機能からの検索。


(……多分これかな? パン屋の娘さんの結婚式だって)

(ああ! 今日なんだねぇ)


 何故かやけにプレイヤーに人気がある、ピリオ東のパン屋の娘NPC。確かジャム屋の息子と結婚するって話だったな、その結婚式が今日行われているらしい。


(見に行きたい?)

(いやー、招待されてないしねぇ、別にいいかな)

(ふむ)


 まぁ人気のあるNPCならスクショくらいは出回りそうだしな。


 そのまま鐘の音を背に歩みを進めて、俺達はプレイヤー居住区へと向かう。

 SNSによると、いつかの薬局のようにNPCに対応を任せている小さな店らしい。看板が小さくて簡単な物しか出ていないから分かりにくいとも書いてあったな。


(えーっと……『2メートルくらいある細長いオコジョの像を右』)

(……オコジョ、デカいなぁ)


 店と無関係そうな家の像を目印に辿り着いたのは……くたびれたガレージのような雰囲気を漂わせている小屋に詰めかける、職人っぽい姿の買い手の群れだった。


「押さないでくださーい、まずは予約済みの優先券をお持ちの方からー」

「グロースターさん。今日はどのくらい買うのー?」

「貴族から注文が入ってて、ちょっと多めに欲しいかなって」

「お、ホワイトカノンさんおるやん」

「アップルさんどうもー」

「あ、ミセスさーん。この前の宝石、結局どうなりましたー?」


 ……賑わってるなぁ。

 なんというか、雰囲気が市場だ。明らかに業者の仕入れ。

 敷地の外から遠目に見ているだけでも、俺達のアウェイ感が半端ない。


(……どうする? 突撃する?)

(いや、やめとこう。……っていうか、パピルスさんの所で木材換金するなら、そこで銀の販売してないか聞いた方が手間が省けるのでは?)

(……! 本当だ!)


 俺達は速やかにUターンしてサウストランクへ転移、パピルスさんの店に向かった。


 当然のように問題なく銀のインゴットが買えた。

 ピリオの店の事を話すと、パピルスさんは「ああ」と笑って、


「あそこは補充が不定期な上、掘り出した原石をそのまま販売している代わりに安めなんですよ。それでも量は多いですから、アクセサリー職人が優先購入契約をしていて、補充されたらすぐに買われていく感じなんです」


 と教えてくれた。なるほどな……



 * * *



 銀のインゴットを材料に、ジャックに水盆を作ってもらい、自宅の上に設置してログアウト……リアルで1夜明けた。


 平日の昼間、真紀奈は仕事に行っている時間帯。

 俺は昼食の時間を少しずらして、ゲーム内で夜の時間にログインする。


 水盆の水を確認するためだ。


 銀を素材にして月明かりに晒しておくと、水の減りが妙に早いという話だが……妙って事は、原因が分かっていないって事だ。

 でも水盆の素材別の違いを観察するくらいには見ているはず……なのに原因が分かっていない……という事は、見ることが出来ない時間帯。つまり、リアルで都合の合わせにくいゲーム内夜の時間に何かあるんじゃないかと考えた。

 だから昼間に短時間だけログインして、その確認をしようと思う。


 日が落ちて、暗い寝室の中で目を覚ます。

 起き上がると、部屋にいた夢の幻獣のミミーが反応してクルリとこっちを向いた。


「なんでもない、ちょっと見に来ただけ」


 小声でそう言うと、「ホー」と小さく鳴いて目を閉じていた。


 一応、パジャマから戦闘用の黒い装備に着替える。

【夜目】があるからランプはいらない。


 スキル、【感知】。

 ……特に何も引っかからない、が、念のため直接見ておくか。


 新しく作った階段を登り、小さな木戸を通って木の上へ出る。


 途端、風で揺れる木の葉の音に包まれた。


 太い木の上、木の葉のドームを見上げるような位置。

 水盆を設置した新しい枝の足場には、ここからハシゴを登る。


 ……なんか、思ったより暗いな?

 ハシゴの先を見上げると、満月がちょうど葉の切れ目に見えた。その割に、手元はやけに暗い気がする……気のせいか?


 一応、【隠密】を使いながらハシゴを登った。

 何かいる……というよりは、寝ている拠点の誰かを無駄に起こさないためだ。極力音を立てないように意識して手足を動かした。


 そして頂上に辿り着いて……俺は奇妙なモノを見た。


 水盆の直ぐ側に、黒い影のような何かがいて……水盆の水にその一端を伸ばしている。そんな光景だ。


 ……え、なんだこれ?


 キーナだったら間違いなく悲鳴を上げていただろう謎の影は……どうやら水を飲んでいるらしい。



 幼鳥ツキワタリ Lv12



 あー、鳥なのか……かなり見えにくいけど、細長い部分はクチバシか?

 気配を断つのが上手いのか、俺の【感知】には相変わらず反応が無い。


 ……その時、空の上から低い何かの鳴き声が聞こえた。


 それを聞いた幼鳥ツキワタリが、驚いたようにキョロキョロと首を動かして……俺と目が合う。


「ウヒャッ!」


 驚いた幼鳥は、アワアワしながらパタパタと水盆の周りを走り回った。


「あー……大丈夫だから落ち着いてくれ。何もしないから」


 固定しているとはいえ、水盆にぶつかられると困る。


【ワイルド・ファクター】効果か言葉は通じるらしい。

 幼鳥は意思疎通が出来た事にビックリしたような挙動をしながらも、走り回るのをやめた。


「ア、えと……その……お水……」

「……うん?」

「のど、かわいて……月にそっくり、な、泉……このあたり、水、すくなくて……だから……」


 ……なるほど?

 幼鳥ツキワタリ……何か月にまつわる鳥なんだろうか。なんか名前は見覚えあるんだけどな。

 銀で丸い水盆を作ると、それが月に似ているから気になって近付いて、そこに水があるから飲むって感じか。


「……飲んでもいいよ。少しだけ水を残しておいてくれれば、大丈夫」

「ほんと? おこってない?」

「……怒ってないよ」


 オドオドしていた幼鳥が、バサリと羽ばたいて空を見あげた。


「怒ってないって!」

「良かったわね」


 ……は?


 空の上から降ってきた声。


 見上げた空には……いつもあるはずの星が無い。

 そして、満月だと思っていたのは……巨大な目だった。



 巨鳥ツキワタリ Lv88



 ……ああー、なんかどこかで見たな、こんなデカくて黒い鳥。


「また、飲みにきてもいい?」

「……ああ、いいよ」

「ありがとう!」


 嬉しそうにお礼を言うと、夜闇に溶け込んで見えにくい鳥は、バサバサと頑張って羽ばたいて巨鳥の方へと飛んでいった。


 やがて巨鳥の姿に幼鳥が重なって見えなくなると……ジッと俺を見つめていた満月のような目がスウッと三日月のように細くなる。


「落とし物は好きになさい」


 そんなひと言を残して、直後に強い突風が吹く。

 思わず目を閉じてやり過ごし……次に目を開けると、空はいつも通りの星空に戻っていた。


 そして、ヒラヒラと数枚、黒い羽が降ってくる。



【幼鳥ツキワタリの羽】…品質★★★

月を渡る巨大な闇色の鳥の、幼鳥の羽。

月と同じ形の物へ真っ直ぐに飛ぶ性質を持つ。



「……矢羽にでもするか」


 水が妙に減るのは、思いがけない野鳥が原因だったようだ。


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― 新着の感想 ―
考えてみれば確かに野鳥の水飲み場w スズメさんなら水浴びしそうw
これ昼型社会人には仕事中で、夜型には寝てる時間か。 例外も居るだろうけど結構会いにくい鳥だなぁ。 そういやアーチの先の夢で遭遇してたな。
うわ~、素晴らしい出会いだな。隠密可能で会話も出来るユーレイならではの情報。水はちょくちょく足さないとね。
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