ユ:見送りと、のんびりとした留守番の日
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春のイベント期間も半分まで来た。
イベントメインの『日ノ出桜の都』の大街道敷設クエストは、新規の初心者とピリオノートから日ノ出桜へ引っ越して拠点用のポイントが欲しいプレイヤー達が中心となって順調に進んでいるらしい。
他にも色々と公式スケジュールにも書かれた予定が順調に消化されている。
で、俺達はというと……開始直後はポイント稼ぎに本腰を入れようかと思っていたんだが。メインストーリーというか、ワールドクエストでもある滅びの使徒絡みっぽい敵対組織達の対処に気を取られてあまり進んでいない。
なので検証勢の宿題を済ませた俺達は、数日レベル上げも兼ねて戦闘のあるクエストをいくつかこなしていた。
まぁ今回のアニバーサリーイベントの景品は、後日課金で入手出来るから、もう半分くらいは買うつもりでいるんだけどな。
夢の中のアジトの潜入調査は、【隠密】持ちが嬉々として凸しているらしいから、俺達がそこまで根を詰めなくて良さそうな感じになっている。……というか、潜入して他のプレイヤーとかち合うのも面倒だ。
夢の幻獣もNPCが契約主になった事で広まりやすくなったらしいし、ピリオノートのアヤカシの住処も絵本が元だと早々に知られたから現地への道も迷わない。
だったら、俺達は少し休憩して、ある程度は期間限定イベントもやっておこうという話になった結果だ。
そんな感じで数日過ごして……今日は、キーナが参加する魔女集会の当日。
ゲーム内の朝から、キーナとマリーと、そしてナナとキャトナというヒト型の女性陣がキャッキャと賑やかにはしゃいでいる。
黒いドレス姿のキーナを囲んで、すぐ横でマリーが誇らしげに胸を張った。
「今回は、前回のドレスをアレンジする形で御用意してみました」
「うんうん、ベースはレースたっぷりで肩の出る黒いドレスだね」
「季節が春なので、華やかさを演出したいと思い、ドレスにお花の装飾を追加しています」
黒いドレスには、キーナの【死霊魔法】の象徴とも言える火色の花が所々に縫い込まれている。
首元に一番大きな大輪がひとつ。
そこから蔦が絡まるようにして、花が裾まで優美なラインを描いている。
頭の黒い三角帽子も、大きなツバの上に火色の花が固まって咲き、そこからこぼれ落ちるように花の列が垂れ下がっている。
「相棒、相棒、どう?」
「……かなり印象変わったな。かわいいよ」
「ふへへー、うちのマリーは天才だよ!」
「……マリーせんせい、すごいです!」
「ドレスすごくキレイ!」
三人に褒めちぎられて、嬉しそうにはにかむマリー。
ちなみに、ナナが抱いている人形は、俺達森夫婦の変装衣装フォーマル仕様とそっくりな服を着ている。
ナナの裁縫技術はドンドン上がっているから、この魔女ドレスも後日作って着せるのかもしれない。ドレスを見るナナの目がキラッキラしているからな。
……なお、サナはまったくドレスには興味を示さず、今日も訓練スペースでジャック達と暴れている。
「他の準備は済んでる?」
「うん、例のキノコは追加で採ってきたしー、一応今回も『ユメツツミ豆』は持って行くしー、知恵の林檎も籠に入れた」
いつもの手土産スタイルだな。
後は前回と同じ、現地に着くまでに使う俺の光学迷彩マントを渡す。
「MPは『夢繋ぎのMPポーション』飲んで俺と共有にしておきな。減ってきたら俺の方でポーション飲むから」
「助かるー」
これでネモの素肌透明化も気にせず楽しめるだろう。
「じゃあ行ってくるねー」
「いってらっしゃい」
ウキウキと出かけるキーナを皆で見送る。
……さて、その間俺はどうするかな。
MPタンク役を請け負ったし、もう拠点でダラダラする日でいいか。
素材を片手に広場の片隅へ陣取って、のんびり矢を作る事にした。
少し離れた所からヤンチャ坊主達が暴れる音。
畑の方ではキャトナが麦わら帽子を被ってマンドラゴラ夫婦と一緒に農作業。
豆ニワトリの放牧エリアの方では、ベロニカが何かヒヨコへ向かってカァカァ言っていた。程々にしないと、また精鋭コケッコになるぞ。
しばらくすると、サナが絵本を片手に俺の方へと近付いてきた。どうやら読み聞かせを御所望らしい。
作業の手を止めて、休憩ついでに読む事にする。
タイトルは……『えほんのなかのピリオノート1』
キーナが早速買ってきた、青い鳥の作家さんの新作だ。
いわゆる飛び出す絵本の類で、ページを開くと、月や星や図書館の建物とアヤカシ達がグワッと起き上がる。
こういうのどうやって作るんだろうな……あの人も中々に多才だ。
そして『1』って事は、続き物なんだろう。
キーナとサナは、今から2巻を楽しみにしている。
キーナが聞いた事には、今回俺達が中継地点にした事で知名度が爆発的に増えて、プレイヤー相手に相当な数の絵本が売れたらしい。
その影響で、アヤカシの住処は俺達が行った時よりもかなり広くなったんだとか。
アヤカシ達は嬉しそうだったが、青い鳥の作家さんは渋い顔をしていたらしい。まぁでも、今までの反応から考えると、多分喜んでたんじゃないか?
読み聞かせを終えて、少しウトウトし始めたサナを子供部屋へと連れて行った。
……さて、昼食の支度でもするか。




