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ユ:どうして機械が駄目なのか


「ブェックシ!!」


 ……フッシーってくしゃみとかするんだな、幽霊なのに。


 俺は弓の試し撃ちの手を止めて思わずガン見してしまった。

「花粉か……?」じゃねーよ。

 死してなお花粉に苛まれるとか悪夢すぎるからやめてくれ。


 憮然としていると、俺の手が止まったのを見計らったのかコダマ爺さんとフッシーが揃って俺に声をかけてきた。


「その弓、この森の木じゃな」

「ああ、うん」

「なれば精が宿るのは早いやもしれぬ」

「精って……ジャックみたいな?」


 そうそう、と年寄りの雰囲気を漂わせる二霊が頷く。


「ここは死の海に隣り合う森じゃからな。この世界において死とは生の前段階。夢の底として魂に繋がっている場所で有る事もあって、ここの木材は精が生まれやすいんじゃ」

「……精が生まれると、どうなる?」

「……? どうもなにも、精が生まれるとは生まれる事じゃ」


 意味がわからんって反応をする俺とコダマ爺さんのやりとりに、フッシーがケタケタと笑いながら補足した。


「そうさな……人の子的には、道具が上手く動くようになる。複雑な仕組み物は特に」

「……複雑な仕組みの道具って?」

「えーっと……アレだアレ。丸い物とか、細い物とか、おかしな形のものを組み合わせてカタカタ動くヤツよ」

「……マジで?」


 どういう理屈だ?


 俺が納得していないのを察したのか、フッシーはバサバサと身振り手振りを加えながら語り始めた。


「この世界の神は『生誕』を司る神。故に、生きていない物は動きが鈍る傾向がある」


 フッシーの言葉にコダマ爺さんは頷いた。


「そうじゃな、それはワシも最近人の子の夢を通じて見たぞ。精……すなわち魂のおらぬ体は世界と噛み合わん」

「人の子の作る道具は魂を生み出す工程を踏んでおらぬ故。この世界では死体と変わらぬのよ」


 ……フッシーの言い方だと、死体は動きが鈍いって事になる。

 そこで俺が思い出したのは、この前拠点襲撃で海から上がってきた骨の蛇。


「この前の骨の蛇は死体だけどヌルヌル動いてたぞ?」

「それは魂があるからよ……ふむ、我にもちと説明が難しいな。この世界の死と、他所の世界の死は、かなり別物なのだ」


 フッシーはうんうんと唸りながら言葉を探す。


「生まれれば魂が宿る……故にこの世界では、魂さえあれば体が死んでも生きているとみなされる。これでどうだ?」

「すごい極端な理屈だけどまぁわかった」


 満足気に頷くフッシーを見ながら、俺の横にいたネビュラが補足する。


「肉体が死して死霊となっては、基本は何も出来ぬからな。死体を無理矢理動かして存在を続ける者もいるが、大体は皆さっさと死の海まで流れてきて不要なモノを洗い流し、生まれる準備をするものよ」


 ……つまり死の海って魂のリサイクルセンターか。

 なるほどと納得した俺は、思考を道具が動く動かないの話に戻す。


 そこで思い出したのは、ついさっき露店広場でしてきた実用化に至っていないっていうボウガンの話。


「……もしかして、ボウガンが実用化されてないのはそれか?」

「ボウガン?」

「えっと……俺の弓に複雑な仕組みをつけた武器」

「ああ、それは精が宿るか魔法を使うかせんと動かぬわ」


 うん?

 動く理由に魔法も入ってきたな?


「魔法を使えば動く?」

「魔法は生きているモノの手足とほぼ同義故、魔法を使えば動くぞ。ほれ、人の子も魔道具とかいう物を作るであろう。アレよアレ」


 はいはいはい。

 ようやく理解がいった。


 つまり、ゲーム的に世界観を壊さないようにするための縛りだこれは。


 いくら自由度の高いゲームって言っても、なんでもかんでもOKにしてたらあっという間に舞台がSFになる。

 だからファンタジーを守るために、ツクモガミ的な精か魔法を組み込まないとオーバーテクノロジーの類は動かない。そういうルールがあるって事だ。


 ……これは、プレイしていて気付くか?


 トライ&エラーを繰り返して辿り着けなくはないかもしれない。

 でも時間はかかるだろう。


 ってことは、運営的には後からこうやってNPCから情報が出る予定だったのかもしれない。


「まぁ逆に言えば魂さえ入っていれば、割と何でも動くのだがな。この森の木は精が宿りやすい故、主人の弓にもすぐに宿るかもしれぬ。……まぁ宿るのが早いだけで上質な木材ではないがな!」

「なんじゃとぉ!?」

「だって滅茶苦茶ぐるぐるして捻くれておるし。人の子は真っ直ぐで素直で堅い木を好むものよ」

「ぐぬぬ……」


 漫才みたいなフッシーとコダマ爺さんのやりとりを見ていたネビュラが、フッシーに声をかける。


「しかしフッシーよ……お主どうしてそんなに人の子の文化に詳しいのだ? 人の子がこの世界に来たのは、お主が死んでからであろうに?」


 フッシーは、何故か気まずそうに目線を少し逸らした。


「いやなに……我、修行より好奇心の方が勝るタイプ故。ちょくちょく余所の世界に観光に出ておってな。それでまぁ、色々と見聞を深めていたというか……」

「お前っ……不死鳥のくせに光魔法も火魔法も使わんなと思っておったがそれが理由か! 本当に不死鳥固有の技しか使えんのだな!?」

「ハッハッハ! 主には悪いが、我は相当扱いにくかろうな! とはいえ我だけではないわ。こんな次元のズレた所で死んでいる不死鳥なぞ大体は我と同類だと思うぞ?」


 なるほど?

 特殊マップの不死鳥は、能力を犠牲にして情報を持っているタイプなのか。逆に通常マップの不死鳥は、情報が無い代わりに火魔法だの光魔法だの持ってるんだろう。


 つまり、こういう特殊なマップが開放される頃に色んな情報が出てくる予定だったと。

 ……行き先指定で欄外を選んだ場合特殊マップに飛ばされるのは、AIの独断だったりするかもしれないな。


 思いがけず有益な話が聞けた。

 まぁ、運営から巻き戻し処理とか出てないから、予定外でも大丈夫な範囲内ってことなんだろう。

 それならこの仕様を公開した所で問題は無いはずだ。



 待てど暮らせどボウガンが完成しないって可能性は、俺が動けばなんとかなりそうだな。

 ちょっとスレを見るなりして情報を集めつつ、どう動くか考えてみる事にするか。


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― 新着の感想 ―
つまり未成熟な魂でも付喪神が宿り、初めて道具や部品が実用的になると。
構造がシンプルな近代兵器なら工作機械が完成すれば運用できそうやな
もしかして前話の騎士団の馬車って元の世界から持ってきた物だったって事か? この世界の法則に囚われてなければ直ぐ動くだろうし。
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