キ:思いつき白夢草チャレンジ
「ぶっちゃけ可愛くてちょっと欲しいんだよね」
「マジで?」
ログインしました。
昨日の僕らは、夢の中から誰かを逃がしたのと同時に拠点で起床。
散々色んな夢を渡り歩いて遅い時間だったし、空き巣の戦利品確認なんかは次回って事でログアウトした。
なので現在、夫婦共有インベントリに入れてあった大量の錬金術素材を仕分け作業中。
「お砂糖とかと一緒にあった『白夢草の蜜』ってのが飴玉の中身として怪しいよね」
「そのまんまあの夢魔の生産物なんだろうな……で、その夢魔が欲しいって?」
「うん」
見た目はドデカい白詰草だったから。クローバーは好きなんだよね。ブワーッと壁一面に花と草が広がるのも綺麗だったし。
「まぁいいけど、どうやって野生の個体見つける?」
「ん? ペタちゃんが言ってたじゃん。あれは『望む内容の夢を見たい』って欲から生まれた夢魔だーって」
「……つまり?」
「こんな夢が見たーいって時にやる事なんて、紙に書いて枕の下に入れる一択でしょ」
夢守の卵が生まれる条件を考えてみよう。
あれは、ドリームキャッチャーに籠められた『夢から守りたい』って欲が、ドリームキャッチャーに引っかかった夢溜まりを栄養にして卵になった。そんな感じの話だった。
つまり白夢草も同じ夢魔なら、『望む内容の夢を見たい』って欲を籠めたおまじないの紙を夢でいっぱいにすれば生まれるんじゃないかと思うわけよ。
「ってわけで……こうだ!」
「うわぁ……」
ご覧下さい!
僕らのベッド!
その枕を1回避けて、夢の希望を書く紙を置く!
その紙をユメツツミ豆でギッチリ囲む!
「ここに枕を置いて寝れば、きっと夢の中で白夢草に会えるって寸法よ」
「……まぁやってみな。そして夢魔関係は上手く行ったら誰かに頼んで掲示板に上げてもらうといい」
「掲示板? なんで?」
僕が訊き返すと、相棒はシステムウィンドウを開いて軽く目を走らせた。
「昨日助けたヒト、片方が掲示板常連の検証勢だった。怪しい錬金術士達を敵対組織って決め打ってたから、その従魔っぽい白夢草の情報を欲しがってる」
「へぇ~」
そっかそっか、最初に追いかけられてたのはあのヒト達だったから、掲示板常連ならそりゃ上げるよね。
そのヒトはわざわざ僕らの情報は秘匿にしてくれたらしいから、それなら白夢草の情報くらいは取得できたら提供したい。
「あと、紙はこっち使った方が良いと思う」
「うん? 占いの結果用紙に使ってるやつ?」
「その紙に夢に見たい内容書いて寝ると見られるらしいよ」
「完璧じゃん。好き」
じゃあ早速。
「おやすみー」
「いってらー」
紙には、そうだなー……『僕と仲良くやっていけそうな白夢草が生まれる夢が見たい』これだ。
書いた紙を豆の中に置き、上に枕を乗せて、その上で寝る。
……ううーん、さすがに豆を盛りすぎたかな?
枕はそれなりにミチミチなタイプなんだけど、それでもちょっと枕の下がゴツゴツしている。
『エンドウ豆の上に寝たお姫さま』の童話を思い出した。
あれはソラ豆ひと粒だったけど、このゴツゴツ感が一晩中あるなら繊細なヒトは寝れないわ。相棒もたぶん無理だね。僕は眠れる。
システムから睡眠開始。
僕は速やかに夢の中へと降りて行った……
* * *
……そして目を開けると、そこは夜に沈んだ一面の草原だった。
星が瞬く濃紺の夜空。
それなのに、白みがかった青緑色でぼんやりと淡く光っている、稲科っぽい形の丈の短い草が、地平線まで続いている。
綺麗だねぇ……スクショしておいて相棒にも見せよっと。
さて、おまじないを使った夢魔チャレンジの結果はどうかな?
360度グルリと続く地平線を見渡しても、あの大きな白詰草の塊は見当たらない。
……いや、待てよ。アレってめっちゃレベル高かったから、生まれたてはもしかして小さいのでは?
僕は足元を注意深く探して……草原を形成している細い草とは明らかに違うコロンと丸い形の葉を見つけた。
「……もしかして、コレかな?」
ちっっっちゃい!
白詰草特有の、クローバーモチーフでお馴染みな形の葉が……3本くらい生えていた。花なんてまだつぼみも無いよ。
僕は猫の香箱座りみたいな姿勢になって、その白詰草っぽい草に声をかけてみた。
「おーい、キミは白夢草ちゃんであってる?」
「……ぃ」
……聞こえた! めっちゃ微かな声だけど、かろうじて『肯定』って聞こえた! 声も小さーい!
「てかペタちゃんに見てもらえば話は早いんだわ。ペタちゃーん」
ペタちゃんを呼び出して、小さな葉っぱを一緒に覗き込んだ。
「どう? これは白夢草ちゃんで合ってる?」
「肯定。これは芽吹いたばかりの白夢草」
あってた!
よーしよし、チャレンジ大成功!
「じゃあこの子と契約すれば、ペタちゃんみたいに夢の中でお手伝いしてもらえるかな?」
「肯定。しかし弱すぎる。マスターの【夢魔法】の方が強い」
ふむふむ、そりゃ生まれたてだもんねぇ。
「まぁのんびり育てればいいかな。契約……してもらえるかな?」
「……ぃ」
「白夢草は肯定している。契約を望むのならば名前を」
あ、そうだった。名前名前……白いからシロちゃんってのは、もうシマエナガで使ったからなぁー。でも花だからハナちゃんはちょっと安直すぎるかな。
うーん……白詰草は子供のころ花冠を編んで遊んだ印象が強いから……
「……じゃあ『クラウン』で」
「……諾。……マ…ター」
* * *
「……おはよう」
「……むぁ……おはよ」
拠点のベッドで目が覚めると、椅子に座ってシステムウィンドウを操作していた相棒が声をかけてくれた。
起き上がって、伸びをひとつ。
「相棒が寝たら枕のあたりが光ったから、たぶん成功したなーとは思ったけど。どうだった?」
「成功したよー、契約も出来た」
「そりゃよかった。……で、その本体は?」
「うん?」
あれ? 特に僕のインベントリには何も無い……から、もしかして!
枕をバッと退けると、そこにはおまじないの紙から芽吹いて枕で潰れていた白夢草のクラウンの姿が!!
「ギャーーーー!? 水ー! 植木鉢ー!」
「……これはひどい」
現実で会うクラウンは、ペタちゃんがただの卵になるのと同じくただの草と変わらなくて、微かな声も聞こえなければ自主的に動きもしない。
……ペタちゃんが言っていた、『夢魔は夢の外では無力な存在』ってのをしみじみと実感した僕らだった。
だってこんなの、そこら辺に生えてたら草食動物のご飯になって終わりだよ。




