キ:現状確認と保険
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ゲーム内朝食を取って庭に出ると……半分寝ているらしいミミーちゃんとベロニカちゃんが一緒に知恵の林檎の木に止まっていた。
「射干玉のごとき艷やかなる羽衣の淑女。力強き声は戦へ赴く魂を震わせ、勇敢なる羽ばたきは世界の垣根すら越えて先陣を切り開き、その姿はまさに時代の黎明を象徴せし……」
「……誰?」
寝ぼけた顔でスラスラと小難しい単語を並べた文章を口にするミミーちゃんに、ベロニカちゃんは怯えていた。
そうだね、昨日の自己紹介は裏返った声のカタコトだったもんね。
* * *
さて、夢の幻獣も仲間になったという事で、僕らなりの情報収集を試してみるわけだけど……その前に、僕と相棒とで軽く現状を確認してみようと思う。
「なんかさー、あっちもこっちもーって敵組織が生えてきて、どうしたらいいか分かんないよね」
「うん」
道を歩いてたら複雑な交差点に出て、どこ行ったらいいのか分かんなくなってる感じ。『え、あ、そっちも見ておかないと駄目なの?』って気分になる。
「フランゴの時と違って、敵対してる組織が多いから……」
「あー、確かに。フランゴ君はデカい結晶とかこそ使ってたけど、基本は真正面から喧嘩売って来てたもんね」
「最初の年は初期組の開拓地を大きくしてもらいたかったんじゃないか?」
「うんうん、ピリオの四方の街とかね」
大きく育った公開オッケーの開拓地が増えたから、満を持して敵対する人類が登場した感じは確かにする。
「……そっか、MMOでプレイヤーが多いから、ヴァンパイアのカルトの時みたいにひとりが直進しただけでアッサリ解決したらつまんないヒトが多くなっちゃうか」
「そう。でもメインストーリーと無関係の敵組織があってそっちに迷い込むと、それはそれで不満が出そうだから……」
「だからバックは全部繋がってるのかー。分岐は多いけど、辿ればゴールは皆同じになるように」
「そういう事じゃないか?」
そして敵対組織を構成してるNPCの得意分野がそれぞれ違うから、やりやすい所で追いかけてねって感じかな?
「……僕ら、今の所は広く浅く関係持ってる感じだもんね」
「まぁ死霊使い組織は二人倒してるから、そこが一番関わり深くはあるけど……」
死霊使いと喧嘩して。
ヴァンパイアカルトを潰すきっかけになって。
獣人集団をチラ見して。
錬金術士達を夢で知って。
貴族関係の怪しい動きを見た。
「んー、こうやって並べて考えると……僕らの手札で追いかけやすそうなのはやっぱり錬金術士達かな?」
「だな。死霊使いはひとりひとり独立してるらしいから、それこそ街で幽霊の噂とか集めて見つけるタイプかもしれない」
「オバケ屋敷はイヤです」
「……ひとつオバケフィーバーして潰しておいて」
苦笑いする相棒のほっぺたをムニムニしながら、僕は夢で見た錬金術士の事を思い出した。
「……昨日さ、虹色の滝を見たじゃん?」
「うん」
「アレって、色んなNPCの意識の集合体みたいな感じだったじゃんすか」
「だな」
「……僕が夢で見た錬金術士は、『馬鹿も積み重ねれば役に立つだろう』みたいな事言ってたけど、ああいう事だったのかなーって」
「……ああ、夢の中なら簡単に集合体に出来るって?」
「そう」
あの台詞から連想するのは、近未来系の創作でたまにあるヒトの脳を繋いでデカいコンピューターにしちゃう企みだ。
エフォはコテコテの西洋風ファンタジーだけど、ファンタジーだからこそ魔法文明でもそういう設定は出来るから。
「まぁ、そうかもしれない。イベント開会式の飴玉とかも、かなり無差別っぽかったし」
「ね」
もしも夢をメインで暗躍しているなら、僕らはかなり有利な位置にいる。
リアルのアジトの場所とかは絞れなくても、企みを妨害したり、スクショを撮ってパピルスさんみたいに似顔絵を誰かに起こして貰って手がかりを配布する事は出来るかもしれない。
「うん。やるべき事が見えた気がする!」
「だな。……まぁ、春イベントのポイントになるかは微妙だけど」
「どうせ課金でも買えるんだからいいよ。お布施お布施」
僕ら、こんなに楽しんでるのに全然課金してないからね。
ずっと使える便利アイテムを買うくらいなんてことありませんよ。
「NPCに被害が出る方がイヤかな」
「うん。巡り巡ってうちの小粒達にも悪影響が出ないとも限らないし」
「あ、そうだよ! あの子達変な夢とか見てないよね!」
ちょっと怖くなったから、念のためおチビちゃん達に話を聞きに行った。
そうしたら、相棒とマリーのお手製ドリームキャッチャーがきちんと仕事をしていたみたいで……変な夢は見ていないけど、夢守の卵が生まれていた!
「マジか」
「わーお」
「それなーにー?」
興味津々なおチビちゃん達に夢守の説明をすると……ナナちゃんがおずおずと手を挙げた。
「……むもりちゃん、おともだちになっちゃ、ダメ?」
「なりたいの?」
「うん……」
かわいい。
そして悪い錬金術士が夢の中で何かしようと企んでるっぽい今、夢守っていう守りをこの子が自分で持っておくのはむしろ安心要素。
「じゃあ卵を孵してから、僕と一緒に夢守に会いに行こうか」
「うん!」
「相棒、ちょっと待っててね」
「分かった」
ミミーちゃんとの情報収集は、サクッと仲介をしてから行くことにした。




