ユ:露店の変化と着せ替えと…
「真紀奈、今日のエフォは露店広場に買い物行こう」
「えっ……どうしたの? 何かあった?」
「いやなんもないけど?」
「だって雄夜から買い物のお誘いって事は……やむにやまれぬ事情で何かが必要になったって事じゃ……あー! 脇腹はやめっ アハハハハハ! くすぐったーい!!」
ログインします。
* * *
……まぁ、確かにキーナの言う通りかもしれない。
俺は特に用事が無ければ人の多い店なんて行かないからな。
いや、それは今はどうでもいい……
昨日の死に戻りを色々考えていたんだが、そもそも俺達は装備が中途半端だって事に気が付いた。
まず俺は普段使い用の弓を新調していない。
そして相棒は普段使い用の防具を新調していない。
初期装備の簡素系でこそないけど、それだけだ。
金に困っているわけでもないのに、実に手抜きな状態のまま、近場の散歩気分で遠出したのがそもそもよろしくなかった。
これは反省点だ。
フリーマーケットで素材が流通したから、露店広場の商品もランクが上がってるんじゃないかと思う。
できれば行きつけの店がランクアップしてるとありがたいんだけどな。俺のメンタル的な意味で。
そんな事を考えながらやって来た露店広場。
……なんか、結構雰囲気変わったな。
雨除けなのか日除けなのか、布の屋根がある露店が少しある。机使ってる店も増えたし、荷車をそのまま店にしてるのもいるな。
もちろん、今までみたいに布を敷いただけの店もたくさんある。
……格差とか個性が出てきた感じだ。
品揃えも個性が浮き彫りになってきたんじゃないか?
やっぱり素材の種類が多いと品物の種類も変わるんだな。
「あ、三角帽子だ!」
相棒が食いついたのは魔女っぽい三角帽子やらローブやらを売っている店。
前に相棒がローブを買った店と同じだ。同じ所で足を止めるって事は好みに合ってるんだろうな。……そして見覚えのある箒が店員の休憩用の椅子に立てかけてある気もするし。
店員の女性は針仕事をしていた手を止めてニッと笑った。
「最近魔女風好きが増えててね。せっかくだからフリマで仕入れた素材で種類増やしてみたんだ! よかったら見てってー」
相棒が嬉しそうにローブと帽子を吟味し始める。
……なるほど、見たことない質感のローブがあるな。
やけにツヤツヤしてるのは……もしかして葉か? キチン質の軽防具が付いてるのもあるな。……あ、この小さいのもしかしてフェアリー用?
「これにしようかな」
相棒が選んだのは、チョコレートみたいな甘い焦げ茶色のワンピースと三角帽子。ワンピースにはドングリの飾りが、帽子には猛禽類の物っぽい羽根飾りが付いている。
【森木の実のロングワンピース】…防御+10
森の木の実で染めた、動きやすいロングワンピース。
森での行動に僅かにボーナスが入る。
製作者:ハニーカプチーノ
【キキミミズクの三角帽子】…防御+3
森の木の実で染めて、キキミミズクの羽角を飾った三角帽子。
時折、森の噂話が聞こえる。
製作者:ハニーカプチーノ
「帽子が面白そうだから欲しい」
「うん、相棒好きそうだ」
それこそリンゴみたいに面白い情報とか入るかもしれない。
「……あとは靴かな」
「フッフッフ、当店でもついに靴を売るようになったんですよー!」
「おおー!」
先に服の会計を済ませて、装備してから靴を合わせて選び始めた。
うん、かわいい。
着せ替え要素のあるゲームはコーデが楽しいよな。
それを愛する妻が楽しんでるんだから二倍おいしい。
【鈴クヌギの鹿革ブーツ】…防御+4
鈴クヌギをあしらった鹿革のブーツ。
コロコロと踊る鈴クヌギが足音を和らげる。
製作者:ハニーカプチーノ
全部装備した相棒は、森っぽい雰囲気の魔女姿になった。
服の色が濃いと銀髪が映えるな。
「どお?」
「うん、可愛い」
「へへへー」
「ありがとうございましたー」
次は俺の弓か。
これはもう行く店は決まってる。いつもの所だ。
「いらっしゃい」
渋いヒゲのオッサン……たぶん上弦弧月さんがやってる武器の店。
売ってる武器の製作者名が全部『上弦弧月』だからあってるとは思う。これで違ったら逆に凄い。
品揃えは主に弓、他は変わり種の武器が少し。……仕込み杖とかのロマン武器もある。
俺は一通り弓を眺めて……先に聞きたい事を訊いておくことにした。
「……ボウガンって無いです?」
目を見開くヒゲ面。
そして事態は劇的に動いた。
スパーンッ! って派手な音と一緒に上弦弧月さんが前のめりになる。
頭をひっぱたきながら現れたのは……一人の小人。
「ほらみろ! ほーらみろ! やっぱ需要はあんだって!」
「……わかったから頭から降りてくれ兄貴」
アニキ。
小人が兄貴でオッサンアバターの上弦弧月さんが弟分なのか。
小人は上弦弧月さんの頭の上で、腕を組んで仁王立ちした。
「にーちゃん良い趣味してんな! どんなボウガンを御所望だ!?」
「……えっと、射程の長いやつと、ハンドボウガンを二丁」
「Foooooo! 遠と近の取り回し! こいつぁ玄人の予感がするぜー!」
テンション高いな……俺は若干引いていた。さっきから上弦弧月さんがずっと頭をペシペシされてるし。
小人は弟分の頭上でクルッと一回りしてポーズを決めた。
「任せとけ……と、言いたいところだが! あいにくまだ実用化に至ってねぇんだ! 完成したら連絡するから、フレンド登録頼むぜ!」
「ええ……」
「おおーい! なんでそこで渋る!?」
「兄貴のテンションが馬鹿高いからだよ」
ついに小人はむんずと弟分に鷲掴みにされて、物理的に静かになった。
「悪いな。そういうわけで入荷待ちの状態だ。フレンド登録は無理にしなくても、売ってるのを見かけた時に買ってくれりゃいい」
手の中からうめき声がして、はみ出した両足がジタバタしてるのが気になる。
……まぁ見かけた時に買うのは当たり前だけど、この店がずっと露店広場にあるとは限らないよな。
「……いつもの人なら登録してもいいです」
「ぬんぐ!?」
「なんでじゃねーよ」
間に入って止めてくれるのが救いだ。
何かにつけてこの勢いで来られると俺の心が死ぬ。




