ユ:最寄りは観光地
飛ばしすぎて低空を飛んだ船の旅は、無事に目的地の港へ着いて終わりを迎えた。
なんだかやり切った顔をしているプレイヤーっぽい冒険者達と一緒に、俺達も船を降りる。
NPCの船長や船員は、実に晴れ晴れとした笑顔で「またの乗船をお待ちしておりまーす!」と下船する俺達に声をかけていた。
そりゃあこれだけ速度が出て時間が短縮出来たら嬉しいだろうな。そこまで遠くない定期船だし。往復数は多ければ多いほど儲かるだろうし。
下り立った港は、サウスサーペント港ほど広くはないが、同じくらい綺麗に整えられた石造りの波止場を持つしっかりとした物だ。
ここは岩山が真ん中にそびえ立つ、それほど大きくない島。
岩山の中にダンジョンがあり、海辺にこの港町がある。それだけの場所だ。
開拓地名は『ブランシュオーシャン』。
港に面した坂に積み上げるようにして、青い屋根と白い壁の街が作られた。綺麗で整った、定期船が出来てからは狩場としてもお勧め観光地としても上位にもランクインした名所だ。
「綺麗ー! えっと、あの街! アレ! 名前出てこない! 海外のあの街みたい!」
「……サントリーニ島?」
「そうそれ!」
大喜びではしゃぐキーナの手をつないでおく。今にも走り出しそうだ。
「え、どうしよう。めっちゃ観光したい。のんびり一緒に歩いてまわりたいし、一緒にお宿に泊まってのんびりしたい」
「うん、先に転移オーブの登録してからな」
どうせ宝石ダンジョンに行くんだから、宿に泊まったっていい。ダンジョン通いするプレイヤー向けに、きちんと睡眠バフが盛れる部屋の宿はあるらしいからな。
転移オーブは港を離れて階段をいくつか上った広場にあった。
特に問題なく、登録は完了。
「ヤバい、歩道もなんかカラフルな石が敷き詰めてあって、すごい綺麗。高級感が半端ない」
「……これで主要産業が宝石か。襲撃ヤバそうだな」
「だね」
さっきから見かける観光客っぽいヒトも貴族みたいな服装なんだよな……つまり貴族が観光に来るくらいのレベルの街ではあるって事だ。
とはいえ、これだけ見栄えが良くて美味しい狩場が近いと、オーブ登録希望者や壊滅して困るプレイヤーは多い。だから救援要請に応じるプレイヤーには困らないんだろう。
登録を済ませた俺達は、オーブの広場から続く商店街のような通りを見つけて、そのまま足を向けた。
……装備が黒系や濃色の俺達は、白い街並みにはちょっと浮いているが、まぁ仕方ない。
ブランシュオーシャンの住民はドワーフが多い。
そして立ち並ぶ店も、ドワーフが店主をしている所が多い。
「ここはアクセサリー屋さん。こっちは魔石屋さん」
「……ここは宝石研磨の工房かな」
「ルースとか原石の状態で売ってる店もあるねぇ。あ、質屋だ」
宝石の買い付けに来ているのか、商人っぽい格好のヒトも通りを歩いていた。
整った街並みといい、裕福そうな開拓地だ。
「色々片付いたら皆も連れて旅行に来たいね」
「だな」
とりあえずせっかくだから、睡眠バフが着く宿に部屋を取る事にした。
貴族が泊まるような高級ホテルと、冒険者向けの宿が高めのから安宿まで。何軒かある中から、金額が中くらいの所を選ぶ。
中くらいでも、普通に景色の良い窓がある綺麗な部屋だ。
部屋の壁も白く、ほどほどの広さにダブルベッド。カーテンは街の屋根と同じ青。統一感があるな。
タンスや暖炉なんかの調度品の上には、輝石を使った像やランプが置かれている。
「ランプがあまりにもかわいいので、絶対に似たような物を売ってる店を探して買って帰ります。絶対にだ」
「はいよ」
キーナはブランシュオーシャンが相当お気に召したらしい。テンション高めで観光する様子は実にかわいい。
楽しそうで何よりだ。
* * *
ひと通り街を軽く見て回ってから、俺達はダンジョンへと向かった。
山の中腹へと向かう道はきちんと整備されていて歩きやすい。案内板もあるから迷うこともない。
それほどかからずに、ダンジョンの入り口に到着する。
入り口はシンプルな洞窟だ。
洞窟の前には休憩所なのか簡単な小屋が作られていて、狩りに来ている冒険者が数人ダラダラとしていた。
(準備は大丈夫?)
(大丈夫ー)
出現する敵はほとんどが【石属性】。
防御が高いモンスターばかりだが動きは遅い。適正レベルは浅い階層が30前後、奥に行くにつれて上がっていくから狩りながらちょうど良い場所を探ろう。
(ダンジョンだから、変装してなくても好きに暴れて大丈夫だもんね)
(うん)
ダンジョン狩りはバレンタイン以来だな。
油断せずに宝石を集めよう。




