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キ:ダンジョン最寄りへ、定期船の旅

600話のお祝いコメント、ありがとうございます。

筆者はいつも通り言われて気付きました。


 御祝儀を確保しに、『輝石坑道ダンジョン』へ行こう!

 というわけで、今日の僕らは変装無しで、サウスサーペント港へやって来た。

 2人でデートですよ、デート!

 南の森の先、海岸にある港。

 夏の港開拓イベントを楽しんだサウスサーペント港は、あれからさらに建物が増えて、立派な港街に成長していた。


「はー、開拓してた頃を知ってると感慨深いねぇ」

エフォ(EFO)はこれが良い」


 ゲームの世界を開拓してる感じ。古参ほど歴史を感じて嬉しいかもね。


 目指すダンジョンは、ここから船に乗っていく。

 ダンジョン自体は前から知られていて、最寄りの開拓地のプレイヤーに頼んで転移登録して通う場所だったらしいんだけど、最近航路が繋がって思ったより近い島だった事が発覚。定期船が出来て、誰でも簡単にサウスサーペント港から行けるようになった。

 まっすぐ船着き場まで行くと、立派な帆船がいくつも停泊している。

 三角帽子のツバをちょっと手で持ち上げて、大きな船の上の高い高いマストを見上げると、天辺にカモメが一羽のんびりと止まっていた。


「……地味に僕らエフォ(EFO)で船に乗るの始めて?」

「そうだっけ? ……ああ、うん。ボートみたいなのは乗ったけど、帆船は初か」


 テンション上がるねぇ!

 港の案内所で船の行き先と乗り場を確認して、僕らは停泊している『クジラの瞳号』に向かう。

 真新しい帆船に、タラップを使って乗り込むんだけど……ただの板が渡してあるだけだからちょっとドキドキだね。


 乗り込んで甲板の上に立つと、港町の様子がよく見えた。


「おおー、良い眺め」

「うん」

「立派な建物も民家っぽいのも増えたよね」

「港にもプレイヤー居住区も出来たから、クラン拠点とかもあるんじゃないか?」

「あ、なるほど。ピリオより港の方が好きなクランはありそう」


 のんびり景色を楽しんでいると、すぐに出港時間になった。

 帆を張って、錨を上げて、ゆっくりと岸から離れていく大きな帆船。それなりに揺れる船はリアルだったら船酔いしたかも。

 潮の香りがする海風が船旅って感じだね。


「どのくらいで着くんだっけ?」

「あー……何もしなければゲーム内で1日」

「……何もしなければ?」

「そう、何もしなければ」


 そんな会話をしている僕らがいる甲板には、乗り込んだプレイヤーっぽい人達が何人かいる。

 そしてそこへ、船長っぽい帽子と上着を身に着けた、威厳のあるヒゲの男性が現れた。

 厳つい顔でガタイのいい、ちょっと海賊にも見えそうな男性は、軽く咳払いをしてから声を張り上げる。


「えー……本日は、『クジラの瞳号』に御乗船いただきありがとうございます! 私は船長を務めております『ガッデン』と申します!」


 見た目のワイルドさとは打って変わって、船長は至って普通に礼儀正しいアナウンスを始めた。


「『クジラの瞳号』はご覧の通りの帆船ですので、冒険者の皆様のご協力をいただけますと幸いです! ご協力いただける方は準備をお願いいたします! なお、『クジラの瞳号』はポーションサービスはございませんのでご了承ください!」


 ポーションサービスってなんだろう?

 よく分からずに首を傾げる僕の目の前へ、相棒がスッとMPポーションを差し出してきた。


「はい」

「うん? ありがと?」


 周りの冒険者達も、各々武器を構えたり自前のポーションの用意をしたりしている。……え、結局何するのコレ?


「それでは冒険者の皆様! 【風魔法】の準備はよろしいですか!?」


 あ、そういう?


「遅延は困りますが、早く着く分には困りません! このためにマストと帆布は特別製! よろしくお願いしまぁす!!」



「「「「「「【ウィンドクリエイト】!!」」」」」」



 突風が吹いた!


 船に乗っている冒険者達が一斉に起こした魔法の風。

 その風に押されて帆船が走る走る!


「ちょ! はっや!?」

「わぁー……」


 何人かは【水魔法】で海の抵抗を減らしているような感じもある疾走の仕方!

 あっという間に出てきたサウスサーペント港は見えなくなって、一面の海の上を帆船が飛沫を上げて猛ダッシュする!


「はやぁーい! よく船壊れないね?」

「……まぁゲームだから」


 周りが全部海だから速さの比較を出来る物が無くてピンとこないけど、どれくらい速度出てるんだろう? とりあえずMPは結構な早さでゴリゴリ減っていくんだけど。

 海図片手に魔導具みたいな物で位置を確認しているっぽい船長さんは、めっちゃ嬉しそうに破顔した。


「素晴らしい! 冒険者の皆様! これなら半日もかからず目的地に着きますぞー!」


「特急便じゃん」

「飛行機かな?」


 とかなんとか魔法を維持しながら喋っていたら、船の左右で派手に上がっていた水飛沫が消えていた。


「え、嘘!? 飛んでるー!?」

「……マジか」


「キタァー! 帆船低空飛行いったー!」

「よっしゃー!」

「いいぞ【風魔法】のレベルも人数も足りてた! このままMP維持すれば新記録出るかもしれん!」

「ポーション無いヒト挙手してねー! ポーション提供するからー!」


 やんややんやと盛り上がる、一部のプレイヤーっぽい冒険者達。一部の常連さんがタイムアタックみたいな事してるっぽい。

 盛り上がる歓声。

 湧き上がる拍手。

 MPの減り早いから、ちょっと【風魔法】強くしすぎたかなって思ったけど、そんな事は無かった。


(……船で新しい街探してたメン子ちゃん達も、こういうのやってたのかな?)

(いや、やってないはず。色々危ないし、遠目の見落としたら意味ないから)

(あー、それもそっか)


 船旅は、結婚システムとかギルドとかの共有インベントリ活用しない限り、旅先でポーションの補給とか出来るか分からないし。

 敵が出た時にMP空っぽだと危ないし。

 そもそも先に何があるか分からない旅路でこんな速度出したら、何かにぶつかって船が壊れるから、新規開拓の船はこういうダッシュはほとんどしないんだって。


(だから、船で和風の街に向かっても、【風魔法】の使い手が揃ってれば割とすぐ着くらしいよ)

(へぇ~)


 ファンタジー出来る所で楽になってるのはいいね。


 そんな感じで、のんびりポーション飲みながら水平線を堪能したあたりで、船は目的地の島に到着したのだった。


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― 新着の感想 ―
ちなみにブレーキはありません。(嘘)
>各々武器を構えたり自前のポーションの用意をしたりしている。 低空飛行モードがなかったらダツやらトビウオ、マーマンやらそれ系がウェーブ毎に襲ってくるんじゃない?後はあれだねテンプレで幽霊船
前書きを読んでキリのいい数字と知る読者です。おめでとうございます。 何もしなければ一日をぶっ飛ばすの草
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