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キ:事故とは理不尽な物


 ログインしたら知らない部屋でした。

 ……あ、エゴマ亭の共用ログアウト部屋だ。そうだったそうだった。

 僕の隣に相棒もログインしてる。

 いつも拠点のベッドでおはようするから、感覚がおかしい。次はせめて座ってログアウトするようにしよう。


「……そんじゃご飯行こうか」

「うん」


 部屋を出て、食堂へ向かう。

 平日に僕らがログインする時間帯はちょうどこっちの朝方。

 だからかな、食堂は朝食を摂る人達がそこそこいた。


「おはようございまーす! 今日の朝食は焼き立てパンに鶏ハムと卵、それから豆のポタージュですよー!」


 美味しそう!

 朝はメニューは固定らしい。

 トレーに乗ったセットを受け取って、空いてる席に相棒と座って、いただきます。


「……美味しい!」

「うん、鶏ハム美味いな」


 相棒は食べるのが早くて、僕は食べるのが遅め。

 だいたい僕が三分の1くらい食べる頃には相棒は食べ終わってる。

 でも急かしたりしないでのんびり待っててくれるのが嬉しい、好き。


 朝の食堂は落ち着いた雰囲気だけど、それなりに周りのお客さんの会話は聞こえてくる。


「もうしばらく北でレベル上げるか?」

「だな、こっちで出来るクエストもそこそこあったし」


「ここより北って何あんの?」

「ずっと行くとデカい谷あるってよ」

「Gのダンジョン?」

「いや、もっとデカい地形」


 いいねぇ、冒険者の多い宿の朝って雰囲気出てる。

 映画のワンシーンみたい。


「「ごちそうさまでした」」

「はーい、またのお越しをー!」


 忙しそうなゴマ油さんに一声かけて、出発。

 門の辺りで掃除をしてる人がいたから、軽く会釈して通過した。


「他にも従業員いたんだねぇ」

「NPC雇ってるのかもしれない。じゃないとログアウトしてる間に宿閉めないとならなくなる」

「あ、確かに」


 お宿は常にやってて欲しい施設だもんね。

 調整が大変そう。



 * * *



 今回受けたクエストは『リーフボア20匹の討伐』

 北の山の麓にいるって事なんでやって来た。

 実際に着いてみると山と言うか、周りの丘より2回り大きな丘って感じだけど。それでも木が多くて山林って感じにはなっている。


「多分この辺」

「……何かはいるね」


 誰か来るかもだからネビュラは見学。

【感知】持ちの相棒が弓と矢を用意しながら周りを見ている。


「【感知】ってどんな感じするの?」

「え? 普通になんか周りにいるなって感じがする」


 ふむふむ。

 霊蝶ちゃんの時も『こいつ直接脳内に!』みたいな攻撃は受けたから、そういう事は出来るゲームなんだよね。

 ……でもそうなるとさ。


「……なんでリンゴはTipsだったんだろ」

「それな」


 気を取り直して、狩りの続き。

 僕も箒の杖を取り出しつつ周りを気にしてみる。


 ……うーん、わからぬ。

 普段全然気にしてないからか中々スキルの取得もしない。


 僕が目で探している間に、相棒が一点目掛けて撃った。


「……当たった、でも死んでない」


 ワンパンは無理かぁ


「っ! 【ソイルクリエイト】ッ」



 ──ドゴゴッ!



 相棒が叫んだ直後。

 鈍い音が……重なってるけど2回響いた。

 ひとつは相棒が固そうな土の壁を地面から隆起させた音。

 もうひとつは、その土の壁にモンスターが突進してぶつかった音。



 ──フシューッ フシューッ


 リーフボア Lv17



 葉っぱの塊から白い牙が生えてるみたいなイノシシが、鼻息荒く土壁にグリグリと頭を押し付けていた。


「【ツリークリエイト】!」


 先端が鋭い木の根で串刺しにする。

 元々相棒の矢でそこそこHPは減ってたんだと思う。

 リーフボアはポリゴンになって消えていった。


「突進だけ注意だな」

「根っこで足払いしてみるよ」


 さてさて、ドロップアイテムは……



【ワイルドハードレタス】…品質★

野生の滋養がたっぷり詰まった肉厚のレタス。

固くて美味しくない。家畜の餌に最適。



「お肉は!?」

「……植物系に肉なんて無かった」



 * * *



 僕の【木魔法】で円形に足がひっかかる高さの根を張り巡らせて、その円の中央から相棒が撃つ。

 突進してきて根に引っかかって転んだリーフボアをまた相棒が撃つ。


 そんな感じの役割分担で、狩りは順調に進んでいた。


「安定してるね」

「今ので20匹」

「あ、クエスト完了!」


 そして家畜向けレタスも20個……


「豆ニワトリちゃんってコレ食べるかな?」

「食べなくはないと思うけど……どっちかというと豚とか羊向けの餌だと思う」

「デスヨネー」


 どうしようかな……

 露店広場の買い取りでもいいんだけど、あんまり餌とか扱ってる所見ないんだよね。


「いっそエゴマ亭で買い取ったりしてないかな? 家畜いたよね?」

「あー、近場のドロップ品を使ってるって? まぁ無くはないんじゃない?」

「ちょっと戻って聞いてみようよ。なんなら差し上げてもいい」

「全部?」

「ゴマ油さんの心証が上向くかもしれない。ログアウトと食事だけの通りすがりから、羽振りの良い顧客にランクアップ!」

「下心」


 軽口を叩き合いながら、根っこトラップを引っ込めたりと帰る準備をしていた時だった。


「じゃあとりあえず宿に戻っ……はぁあ!?」

「えっ、何?」

「走って!!」


 相棒がギョッとして山の方を見たかと思えば、僕の手を引っ張って走り出す。


 え、何何何???


 意味がわからないまま引っ張られながら走って……首だけで無理矢理後ろを見た。



 聞こえてくる地響き。

 舞い上がる土煙。



 山林から押し寄せてくる……大量のリーフボアの群!!



「ちょちょちょ無理無理無理無理! 追いつかれる!! 【ツリークリエイト】!!」


 僕と相棒を高い所に持ち上げるイメージで放つ【木魔法】

 MPを全部注ぎ込んだそれは、なんとかそれなりに太い木になって、僕らを高所に持ち上げてくれた。


 真下をドドドドドドド……と流れていく、どこぞのアニメみたいなイノシシの群。


「え、何これ? 僕らイノシシの巣とか突っついたりした?」

「いや? ……たぶんだけど、エゴマ亭の襲撃じゃない?」

「ああ……」


 そっか。僕ら孤立した環境だからピンと来てなかったけど、他拠点の襲撃にかち合うってこんな感じかぁ。

 リーフボアが向かってるのは、確かにエゴマ亭のある方向。


「……ってことは、コレ全部エゴマ亭に行くってこと?」

「たぶん?」

「大変じゃない?」

「大変だろうね。俺達の状況も割と大変だけどね」

「……デバフかけていい?」

「……まぁいいよ」


 グビッと一本、MPポーションを呷る。

 もう通り過ぎたイノシシもいるから……できるだけたくさん巻き込むなら、コレかな。


「【トリック・オア・トリート】!!」


 思いっきり叫びながら発動する、登録したての死霊魔法。

 登録名ならね、死霊魔法だなんてわかんないだろうから。思いっきり言ってやったよ。

【トリック・オア・トリート】の消費MPは声の大きさによって変わる仕様になってる。

 お一人様相手に言うくらいなら大したことないけど、大勢に叫んだらMPは消し飛ぶよ! 今も思いっ切り消し飛んだ!


 我ながら思うけど、『今からお前をぶちのめしてやるぜ!』ってなってるモンスターがカツアゲに応じるわけないよね。

 つまりはほぼ確でかかるのだよ、このデバフ。


 もし応じたら? それはそれで面白いから良いよ。


 大量のイノシシに防御力ダウンのデバフがかかる。

 これなら相棒の弓一発で確殺できるんじゃないかな?


「じゃ、上からちまちま撃……」



 ──ドゴッ!



「……この木、揺れますね?」

「……そうですね」



 ──ドゴゴゴッ! ドゴッ!



 恐る恐る下を見ると、怒り狂ったリーフボアが僕らの乗ってる木の根元に体当たりをぶちかましていた!



「うっそでしょ!?」



 ──ゴッ! ……メキメキメキベキッ!



「うわぁぁあああ!?」

「くそっ!」


 MP切れてるまま若干パニックを起こして落ちる僕を相棒が掴んだのだけわかった。


 えーっと、確かこのゲームの落下ダメージは【跳躍】スキルレベルが足りていれば無効になるはず。


 僕は【跳躍】を持っていない。

 相棒は【跳躍】持ち。


 ……でも、【跳躍】は普通にプレイしているとそんなに高レベルに育つようなスキルじゃない。


「【ウィンドクリエイト】!!」


 駄目押しとばかりに放つ相棒の【風魔法】


 地面から吹き上げる強風と近づく地面に、僕はギュッと目を閉じ──



 * * *



「……ダメだった」

「おつかれー……」


 初・デスペナです!!


 死に戻った拠点の庭で、僕らは大の字になってひっくり返っていた。


 すぐ横で元の大きさに戻ったネビュラが、最後の瞬間を教えてくれる。


「うむ、着地自体はダメージこそあれどギリギリ生き延びていたのだがな……直後にあれだけの数のイノシシに轢かれれば残りHPなど消し飛ぶというものよ」

「とどめイノシシかよクソがっ……」


 すごい数だったなぁ~

 ……やっぱりモンスターハウス状態の所には迂闊に手出ししちゃいけないね。


「ごめんよ。デバフ余計だったね」

「……まぁ確かにアレでヘイト引いたっぽいから、二人で相手するならいらなかった。でもエゴマ亭はアレで防衛楽にはなったっしょ、余計ではないよ」


 起き上がった相棒がわしわしと頭を撫でてくれる。

 ……ここで怒らない相棒が優しい。すごく助かる。


 ゲームやってて怒られると、委縮して何にも楽しくなくなっちゃうんだよね。挙句に『こうした方がいいかな?』って思いつく事はどうも周りとズレてるみたいだから、何していいのかわからなくなるし。

 だから僕はあんまりパーティプレイやチームプレイが向いてないんだと思う。

 でも相棒とだと楽しいんだよ。

 相棒がたくさん僕に合わせてくれてるからだと思うけど、それでいいって言ってくれるんだから、幸せな事だね。


 ……うん、次はもう少しパニック起こさずに対処したいな。ビビリには難しいんだけどね!


 とはいえ、デスペナのおかげでしばらくは取得が半減するから、もう一回行くって気にはならない。



 ちょっと早いけど、今日は早めに落ちて、二人で一緒にふて寝した。


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― 新着の感想 ―
このエゴマ亭の朝食って…豆ニワトリのラインナップでは…?鶏ハムに卵に豆ポタージュ。
エゴマ亭、壊滅確定ですかw
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